三ページの取材
この物語は、門戸温泉郷と呼ばれる場所で起きた出来事の記録の一つです。
すべてを書くことはできませんが、
三ページまでなら外の世界に出せます。
「不思議雑誌ウーから、取材の申し入れがありました」
西署の会議室で、婦警の安城がそう言った。
山城の手が止まる。
吉見も顔を上げた。
「どこに?」
「門戸温泉郷です」
沈黙が落ちた。
珍しいことではない。
だが今回は違った。
安城が資料をめくる。
「取材対象として、しんとうもと ゆうき氏の所在確認も含めて取材したいとのことです」
山城と吉見が同時に言った。
「無理」
そのとき、会議室のドアが静かに開いた。
「構わない」
立っていたのは、しんとうもと ゆうき本人だった。
「どうせ、大したものは外に出せない」
山城は小さくうなずいた。
「三ページまでなら」
しんとうもとは言った。
ココアが笑う。
「ウーと同じだね」
錫もうなずく。
「制限付き」
玲桜が言った。
「クルミに確認する」
その日の取材は、西署の会議室で行われることになった。
当日。
編集者たちが資料を配っていると、一枚落ちた。
「あっ、しまった」
拾おうとした瞬間、
「あ、いいよ。お父さん。僕が拾うから」
アストラが先に拾った。
その横に、月が座っていた。
編集者は思った。
余計なことを言ったら潰されそうだ。
「では、まず確認させてください」
編集者は資料をめくる。
「門戸温泉郷に、ドラゴンがいるという噂がありまして」
ココアが言った。
「いるよ」
錫が言った。
「飛んでた」
山城が言った。
「昨日な」
安城が補足する。
「分類としては竜です」
編集者は書き込んだ。
「竜」
少し間を置いて、次の質問をした。
「あの、頭に角がある人や、獣人がいるとも」
「いるよ」
「普通にいる」
「住民登録もある」
さらに編集者が聞いた。
「ドワーフらしい種族も?」
「いない」
ココアが言った。
「似てる人はいるけどね」
「頑鉄」
「ドワーフではない」
編集者は慎重に書いた。
「類似個体あり(本人否定)」
さらに質問が続く。
「帰れなくなる花園、というのは」
「春の庭だね」
「花が選ぶ」
「摘む=出ない」
編集者が止まった。
「出ない?」
「通路が閉じる」
そのとき、
月が言った。
「帰れなくなるのではない」
静かに続けた。
「帰す必要がなくなるだけだ」
編集者の手が止まった。
部屋が静かになった。
そして月は言った。
「おわりだ」
それだけだった。
取材は終わった。
帰ろうとしたときだった。
バキ、と音がした。
全員が振り返る。
月が座っていた机と椅子が、ゆっくりとひしゃげていた。
誰も触れていない。
見えない重さだけが残っていた。
編集者が言った。
「俺たち……これから先も生きていけるかな?」
山城は答えた。
「さあ?」
それから数日後。
西署に雑誌ウー最新号が十部届いた。
表紙には大きく書かれていた。
門戸温泉郷拡大特集。
無言聖域の全て(三ページ掲載)
安城が三部を取り分けた。
「できたのなら、持って行きます」
三ページだけが外の世界に出た。
※西署記録より
本取材は問題なく終了した。
外部媒体への掲載内容は三ページに収まっていることを確認済み。
なお、机および椅子の破損については修理手配済み。




