ハッピーハーピィ①
ネオンが眼下に光る空の世界。都会の喧騒は足元に広がり、音はその場所までは届かない、静寂の世界。
人が、己の肉体のみで到達できないその領域に、2つの人影があった。
「リョウ、遂に23人目が来たって!!」
腕が変質したその羽、高い位置にある太ももと、鋭い鉤爪などの鳥類の特徴を持つ、『ハーピー』の『フリークス』である茉莉花エリザは、甲高い、興奮した声を上げながら、バタバタと慌ただしく羽を動かして、その男の元に向かった。
リョウと呼ばれた彼、赤城アツトは純白のスーツにとベスト、その下に黒シャツ、赤いネクタイと、一見すると普通のホストのようであった。
ただ一つ違うのは、彼が上空20mに、平然と浮いている事。羽ばたく素振りも見せず、力を込める様子もなく。『ヴァンパイア』の『フリークス』である彼は、余裕のある表情でエリザに微笑む。
「知ってるよ。でも、エリは偉いね。ちゃんと俺に教えてくれたんだ」
そう言うと、手を伸ばして彼女の頭を撫でる。嬉しそうに頬擦りするエリザとリョウの2人の様子は、一見すると恋人同士のようでもあった。
「……ついに始まるんだね。最後の1人を決める闘いが」
均整の整った顔立ちで、真剣な眼差しで呟く。人に見られるという事を常日頃から意識しているからか、やたらと絵になるその表情に、エリザの顔は紅く染まった。
「リョウは、ウチが守るから!」
頭を撫でられたまま、そう言われたエリザの表情は、愛する恋人を見つめるようであったし、子を守る母のような力強いものでもあった。
「ありがとう、エリ」
愛おしむような優しい声色でそう言うと、彼はエリを抱き寄せる。彼女は羽ばたくのを辞めてリョウに抱き着くと、少しの間、甘い静寂が夜の空を占めた。
「……じゃあ、どうすればいいか、エリは分かるよね?」
リョウが耳元でそう囁くと、途端にエリは不安そうな表情を浮かべる。
「ウ、ウチ馬鹿だから分かんない、かも……!」
今にも泣き出しそうな彼女を、指が首元に食い込む程力強く抱き締めて、リョウは続けた。更に優しい声色で。
「なんで分からないのに守るとか言えたの?嘘をついたのかな?俺、嘘吐きって嫌いだな」
「う、嘘じゃない!約束守る!だから、見捨てないで!!ウチ、リョウに捨てられたら死んじゃう!!」
「うん、じゃあどうすればいいか、分かるよね?俺を守る為に、エリは何をしてくれるの?」
「『う、歌姫』をやっつけるから!!ほら、前にリョウ言ってたでしょ!?『鬱陶しい』って!!」
エリザのその言葉に、リョウは露骨にため息をついて、呆れ果てた目で彼女を見つめた。
「……それより、もっと他にあるよね?」
「え?え?……あ、あ!!じゅ、『23人目』、やっつける!!……で、合ってる……?」
後半、エリザの声は消えてしまいそうな程か細かった。静寂の夜の空でなければ、掻き消されてしまうほどに。リョウは抱き締めていた彼女を引き剥がし、無表情で真っ直ぐに、不安で今にも泣き崩れてしまうなエリザを見つめた。
「ご、ごめんなさ「本当に!?ありがとう、エリ!!」
一転、満面の笑みを浮かべ、再び力強くエリを抱き締める。
「……え?」
エリはしばらく惚けた様子だったが、リョウの体温が徐々に彼女に伝わると共に、その表情は明るいものとなっていった。
「う、うん!ウチ、頑張る!」
「ありがとう、エリ。そうだ、行く時、俺の『グール』達を貸してあげるよ。エリが無事に戻って来れるようにって。」
「本当!?リョウめっちゃ優しい!!」
そう言って力強く抱き締め返す彼女は、幸福を噛み締めるように目を瞑る。見下すようにほくそ笑む、リョウとは対極的に。
なんてことは無い。リョウにとってエリザは、恋人でも、母でもなく、ただのエサでしかなかったというだけの事。
金を店まで運び、頼めば何でもする。体を売ることも、人を殺す事も。
愛おしい2人だけの夜空を、エリザは逃すまいと、懸命にリョウを抱き締めた。




