エクスマキナ・エクスペリエンス
それは、あまりに異常な光景であった。
自ら首を刎ねたヨウコは、頭と身体が分かれたというのにも関わらず、その身体はこの世界の神である私が漸く認識できるほどの身のこなしでグール共を肉片へと変える。
胴体の首から溢れた血液は活火山のように噴出し、頭だけとなったヨウコの顔は、曖昧な希死念慮のような悲壮感をずっと漂わせていた彼女からは想像もつかない程、艶めかしい恍惚の表情が浮かんでいた。
「あはっ、あはははは!!はははははは!あーぁ、……あは、ッハハハハハっ!!!」
笑い声が、帳に響く。自切の勢いで回転し、天を仰いでいるその様は、高笑いを上げているようにも、開放されたことを喜んでいるようにも見えた。
この世界は、『フリークス』の舞台。彼等の渇望が見せる狂気が、狂気が魅せる即興劇が、殺し合いが、私の、『デウス・エクス・マキナ』の退屈を満たしてきた。
『フリークス』となる人間も、その適正が高い人間を選出してきた。闇を抱え、夜に生きる人間を。
だが、数多の『フリークス』と比較しても、ヨウコの狂気は、明らかに異質だった。
彼女は暴力を好むわけではない。むしろ、争いごとは避ける性質だろう。実際、グールに囲まれた際も、敵を退ける為に太刀を振るっているように映った。
だが、今のヨウコには躊躇いは微塵もない。
身体は血の海を死体と踊り、夜の底に浮かぶ頭は、天を仰いで嗤う。
社会に受け入れられる為に抑制された本能は、死の一線を越え、『フリークス』へと花咲いた。血と臓物を塗れながらも、白く無垢な狂気の鮮烈さは、第一幕の山場にふさわしい。
他所で起きている新宿区の『セイレーン』対『マミー』『ワーウルフ』『妖狐』も、港区の『ケンタウロス』対『天狗』よりも彼女の独壇場に私は惹かれた。
私の世界を見渡す目の全てが、ようの独壇場を見逃すまいと釘付けになった。
頭のない身体で、首からは火のように血が噴き出すその様は、ある妖精を想起させる。
出会うものに死をもたらし、自らの姿を嫌う、アイルランドに古くから伝わるその妖精の名は、『デュラハン』。
彼女は、榊ヨウコは、『デュラハン』の『フリークス』なのだろう。自傷癖のある彼女が、『死を与える化物』であるというのは、なんとも皮肉な話である。だが、相応しい。
ほとんど全てのグールを屠り、クレーターが出来る程に強く地面を蹴り上げた彼女は、羽根のあるエリザより高く浮かび上がる。
そして大きく身体を反らし、落下と上体のバネの勢いで、太刀を振り下ろすと、グール共とは違い、エリザの首は、雫が葉を伝い垂れるかのように、音もなく、地面に落ちた。
無慈悲に振り下ろされたその一閃は、断頭台に登った罪人の首を切り落とす、執行人のようであった。




