暗示
心拍数が上がった。
教室の入り口で立ち尽くす希美の見ている光景は実に好ましくないものだった。
制服のプリーツスカートを太もものあたりまで巻いた、アイメイクの濃い女子生徒。
希美の机の上に軽く腰掛け、考え事でもしているように腕と脚を組んでそこにいる。
ー滝川由美
間違いなく彼女だ。
違うクラスでほとんど接点もない彼女がどうして私の席にいるのだろうか‥‥。
まだほんの数名しか登校していないクラスメイト達も彼女に気づいてはいる様だが
気にもとめず、自席で読書なり、友達と和気あいあいと挨拶を交わし合っている。
昨日の夢といい、早朝に目が覚めてしまった私はいつもより早く家を出た。
母親の驚いた顔が脳裏に焼き付いている。今日は雪でも振るんじゃないかしらと冗談混じりに言っていたが、そのくらい私は朝に弱かったのだと自覚させられた。
なんにしても、この異様な事態からしてあの夢は悪い事がこれから起こるという暗示かなにかだったのだろうかと思わずにはいられないー
『嘘つき!!!!』
あの時の優子の声が幻聴のように希美の耳にまとわりつく。
それと同時に自分が暗闇に取り残されていくような感覚に陥る。
『おは‥‥よー?あめみー?』不意に後ろから声をかけられてハッと我に帰る。
しばらく固まってしまっていたのだと自分でも気づいた。
声の主は紺野亜紀ー明るくクラスのムードーメーカー的存在の女子生徒だ。
『あっおはよっ‥‥あ、ゴメン‥‥こんなとこ立ってたら邪魔だよねっ』
振り返りはするものの、動揺を隠せずに焦る。
どうしよう
『ううん全然〜、ていうかあめみー、今日早くない?あれ?今日なんかあるっけ?!』
紺野はなんの気兼ねなしに普段と変わらない明るさで会話を振る。
心臓が高鳴る。今の紺野さんの声で私が教室に登校してきたことを滝川由美が察知したに違いないからだ。
滝川がなぜ希美の席に居るのだろうか。希美は自分を待ちわびているほか考えようがないと思い込むしかできないでいた。
不安が積もっていく中、なんとか声を絞り出す。
『いや、なんもないよ、私がたまたま早く起きただけだから‥‥』
頭の中の事が見透かされそうで、なんとなく語尾に力が入らなくなる。
早くここから立ち去りたい。彼女との対面を拒否しているがそれでいいのだろうかと迷っている自分も居た。
『あ〜、あるよねそういう時〜』
しかし、紺野は全くそんな希美の不安を知る由もなくいつものように微笑んだ。
お団子を高い位置に結った髪が特徴の彼女は話終えると自分の席に鞄を下し
友達に会いにいったのか、スマートホンを片手に教室を出て行ってしまった。
その間私はずっと自分の席の方向に視線を向けることができずにいたが、滝川由美は紺野さんが出て行くのと同時に入れ替わるように席から離れ、私に歩み寄っていた。
やはり、優子のことだろうか‥‥。私が警察に話したから‥‥。
俯いていた顔を上げると、目と目が合った。
マスカラやアイラインで強調された彼女の目元を見るのはこれが初めてではなかった。
逸らしたい。
逸らしたいのに逸らせない‥‥。
蛇に睨まれた蛙。正に相応しい光景だったに違いない、そう思った。
つづく
久しぶりの更新です!
読んでくださった方、ありがとうございます。
希美の心理描写みたいなのが上手くないかもです(苦笑)
登場人物ー紺野亜紀




