↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/9

第7話 彼は初めて彼女に注文がする

 かなり驚いた。まさかこいつの口から、そんなジョークが飛びだしてくるなんて。


 面白くはないが、感心してしまった。こいつ文系だな。


「その人、恐らく女性ですよね?目の前に可愛い女の子がいるのに、別の女性の話を始めるのは、中々ノンデリなのでは?」


 ノンデリ……か。それは認める。この発言が、相手に好ましくない印象を与えてしまうのは百も承知だ。

 でも、結局こいつは、蒼璃とは何の関係もなかった。


 どんな偶然、運命の悪戯だ。


 一種の呪いだろ。


「何だんまり決め込んでるんですか、先輩。そんなその女性に思いを寄せているんですか?」


「……いや、昔のことを思い出してただけ。あ、弁当箱、洗ってから返したほうがいいか?」


 無理やり話の話題をすり替えた。俺から初めた話なのに。


「いえ、私の方で洗っておくので大丈夫です」


 差し出した弁当箱を、こいつはそっと受け取った。


 やべぇ、ちょっと聞きすぎたかも。明らかにテンション下がってきてるよな……


「迷惑でしたか……?」


「いや、迷惑というか、驚いたというか……何で俺にそんなことしてるのか、理由がわかんないっていうか……」


「…………」


 お前もだんまり決め込んでるじゃねえか。いや、普通はこんなこと聞かないのか。やっちまったのか、俺が。


 こっから挽回できないものか……卍解。……すいません。


 イマイチこいつの性格も掴めないし、コミュ障の俺にはキツすぎるヨ!助けてヨ!



 

 重なる沈黙。傍から見れば、この状況をどう感じるだろうか。


 俺のことを知っているやつからすれば、大事件だろう。


 渡り廊下で、後輩の女子生徒と見つめ合っているなんて。


 いや、俺は目を逸らしっぱなしなのだが。



 

 とっておきを使うしかないかぁ?これを言えば、万事解決できるのは間違いない。


 でも、いざ口にするとなると、なんだか恥ずかしくて、一歩踏み込めない。


 もう喉元まで出てきているが、舌で必死に抑え込んでる感じ。


 だめだ、言えない。言う勇気がない。



『キーンコーンカーンコーン』



 まずい、掃除が始まってしまう。早くここから離れないと、掃除に来た生徒たちにも、目撃されてしまう。


 それはやがて高校全体へ広がり、鎌上翠珀はブサイクのくせに後輩に手を出したキモいやつとして、評判が広がってしまう。


 このまま気まずいまま終わり、かつそんな悪評が広がるくらいなら、言ってしまう方がよっぽどマシだろう。


「掃除、行ってきます」


「お、おい!……あ、あの、その……」


 振り向き、掃除へ向かおうとしたのを見て、とっさに声が出る。


 でも、やつは足を止めない。俺が口ごもっている間に、どんどん背中は遠くなる。


 もう、引き返せない。覚悟を決めろ、鎌上。


「もう一回食べたいから!あ、明日も!弁当持ってきてくれ!や、焼きそばで!」


 思っていたよりも大きな声が出てしまった。近くにいた生徒が、俺の方へ視線を送る。


 だが、今の俺にはそんなことはどうでもよかった。大事なのは、こいつの返事だけ。


 思わぬ俺の発言に、こいつも意表を突かれたのだろう。立ち去ろうとする足が止まり、ちらっとこっちへ振り向いた。


「先輩……麺類ばっかですね、クスッ」


 それだけ言い残し、やつはすぐさまその場を去った。


 だが、笑っていた。


 周りからは変な目で見られただろう。


 だが、悔いはない。


この一歩を踏み出せたのは、俺とあいつにとって、間違いなく良い風を吹き込むだろうから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。