第8話 朝から女神は料理する
「ハァハァハァ」
俺の高校生活にとってのターニングポイントとなった昨日。
あいつは今日も本当に、弁当をもってくるのだろうか。
少し楽しみにしている自分がいるのが、悔しいような悔しくないような……
ん?今お前は何をしてるのかって?
見りゃ分かんだろ、朝練だよ、朝練。
ちょっと訳あって、この夏は陸上を頑張ろうと思ってる。
というのも、丁度一ヶ月前、高校総体で、俺は大敗を喫した。
かなりメンタルきたよね。そこから一週間、学校行けなかったし。
俺はかなり豆腐メンタルだから、なんかあるとすぐに人前に出たくなくなる。というか、この世から消え去りたくなる。
そういった嫌なことがあったとき、人はどんな時よりも孤独になると思う。
いくら孤独を好む俺でも、そんな時は誰かに寄り添ってほしいし、慰めてほしい。
でも俺の頑張り、失敗に至るまでの過程は、誰も知らないし、知ってもらうことも出来ない。
だから、結果で示すしかない。
誰も見ていなくたって、認めてくれなくっても、結果がでるまで、続けるしかない。
努力は簡単に嘘をつくし、周りの奴らも別に敗者に興味は示さない。
だから俺は、あの屈辱に膝をつき、すべてを失ってもなお、立ち上がらんとしたあの日芽生えた反骨心だけを頼りに、今日も走る。
てな感じで、俺は今日も走ってるわけだ。
どうだ?まだ厨二病全盛期だろう?
こんな事考えながら、毎朝毎晩走ってる。
本音を言えば、もう逃げ出したいし、誰かに助けを求めてぇよ。
でも、孤独を貫きすぎた俺には、それは出来ないらしい。
まったく、うんざりす……
「せんぱーい!頑張って!」
……は?
なんでやつがこんな時間に……
右手にポカリ、左手にお弁当が包まれたであろう風呂敷。
まさに俺が夢見た光景じゃねえか。
いや、夢か?まだちょっと眠いし……
違う、現実だ。目をこすっても、ほっぺをつねっても、グラウンドの隅にやつがいる。
「どうしたんだよ……こんな時間に……」
「いや……朝練の邪魔をしてしまったのなら、ごめんなさい」
まったく邪魔ではない。もはや嬉しいまである。
「これ、お弁当と、ポカリです。あ、朝練、頑張ってください!」
「お、おう……」
女神かこいつ。
あの笑い方はムカつく時があるが。
てか、今更ながら、こいつ俺のこと好きじゃね?てか絶対好きだろ!
じゃないと、絶対こんなことしないって。
だって、あれじゃん!目が合っただけとか、ただ話しかけられた、とか、そういう次元じゃないじゃん!
やっと、時代に俺が追いついたか。
「先輩、ニヤけてどうしたんですか?ちょっときもいですよ」
真顔で言うなや。
そこはいつもの人を小馬鹿にした笑いを付け足せよ。
「いや、ありがとう。ちょっと嬉しくって」
「そうですか……またお昼休み、感想聞かせてくださいね!」
うん、味はそこまで期待していないのだが、ありがたくいただくとしよう。
「頑張れ!」
去り際に見せたその笑顔が、やけに眩しい。
それは、起床したての太陽を凌駕していると感じるほどだった。
貰ったポカリを開け、ゴクッと一口。
何だか、いつものよりも甘くって、汗だくの体によく沁みた




