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第5話 隠し味には彼の覚悟を

「ど、どういうこと……?」


 まずい……かつてないほどに視線を感じる。


 あの女やりやがったな……!弁当を持ってくるなって、こういう意味だったのか!


 あと、大変申し訳ないが、なんかめっちゃベチョベチョしてるんだけど。あんまこいつ料理うまくないだろ。


 と、とにかく、今はこの場をどうにかしなければ……


「え、委員長彼女いたってマジ?」


「あの子めっちゃ可愛かったくね?なんで委員長と……」


 好き勝手言いやがって……


 こっちの事情を知りもせず……いや俺もよくわかってないけど


 ともかく!もう朝礼が始まる!一回忘れよう、一回……


「起立、礼!おはようございます!」


 よし、これで流れは途絶えたな。


 え?号令は普通にかけれるのかよって?


 あ、はい。もう慣れました。というか、それなりにコミュニケーションはとれるから!勘違いすんなよ!


 まぁ、俺の立ち位置?性格?に違和感を感じてしまうのはよく分かる。


 俺自身も、アイデンティティの拡散に陥っている自覚がある。


 はっきりせず、一時の感情で、物事を決めつけ行動する。


 本当の自分が迷子状態だ。


 って、今はこの弁当の方が大事か。


 これ食う前に、一回あいつのところ行ったほうがいいか?!


 風呂敷の中に、なんか手紙があったりするわけでもないし……


 もうわっかんねえわ、これ。


 とりあえず、周りは適当に受け流しつつ、あの時間を待とう。



 ──────



 『キーンコーンカーンコーン』


 よーし、何とか耐え凌いだぞ。


 待っていたぞ昼休みよ!これまでで一番長い四時間だったぜ全く……


 で、これをどうするかだが……


 二週間ぶりの便所飯するかぁ?いや、流石に手作りの料理を便所で食べるのはやばいか……


 ならいつも通り、教室の隅でボッチ飯といきますか。


 いや、前代未聞だろ!女子が作った弁当を一人悲しく食べるやつ!


 てか、これ俺食べてもいいのか?


 だって、食べると、もう後戻りできなくなる。


 それは、ダメだろ……!


 出会ってまだ数日、ほとんど話してもいないやつの弁当なんか……


 でも、これを食べずに捨てるのも、人として最低だし……


 ど、どうするのが正解何だよこれ!ジレンマ!マジレンマ!


 てかさっき公共でヤマアラシのジレンマってやつ習ったな……


 いや、そんなのはどうでもよくて!


 ……っ、食べるか……食べるしかないか。しかたない。


(いただきます)


 しかたなくだ。したくてしてるわけじゃない。


 蓋を開けた瞬間、弁当からペペロンチーノの匂いが教室に充満する。


 以前も話したが、この匂い、かなり賛否が分かれるんだよな。


 ま、俺は遠慮しないけど。


 で、まずは見た目だ。マジで申し訳ないが、率直に言うと終わってる。マジでどうすればこんな水でヒタヒタになるんだよ。俺は料理しないから、その難しさとか知らないけど!


 でも、こんな失敗をするってことは、恐らく冷凍食品とかじゃなくて、自分で一から作ってくれたってことだよな、多分。


 そう思うと、何だか少し可愛らしいような……って、いけない、いけない。いや、俺って結構チョロいな。


 気を取り直して、一口いただこう。


 よく考えると、このお箸、いつもあいつが使ってるやつだよな。やばい、こ、興奮してき……すいません。


 丁寧に箸に麺を絡め、ようやく一口。


 お、おぉ、味は……あんまうまくないな。ちょっと味が薄い気がする。匂いはこんなに強いのにどうしてだ?


 でも、なんか良いかも。ボッチ飯なのに、ボッチ飯じゃない感覚だ。1人なのに、前に誰かいるような、そんな感覚。



 はぁ、大変不服だが、少し、嬉しいかも知れない。


 だって、もう一度、相手から俺に関わってくれるやつが、俺の前に現れたんだ。


 もし、俺がこいつを突き放せば、前と同じことがもう一度起こってしまうのか……


 しかも、原因は完全に俺にある。


 そうなったとき、俺は……またあの苦しみ、後悔を噛みしめることになる。


 それでもなお、俺は『もう恋愛をしない』なんて意地張って……どうするんだよ。


 俺がそう思うようになったのは、蒼璃が退学してしまったことを後悔しているからなんだろ?!


 だったら、もう同じ過ちを繰り返さないように、俺がこいつと、真剣に向き合わないと、また……


 ……もう一度、やってみようじゃないか。


 こいつが一体どんな理由で、どんな目的でこんなことをしてるのかは知らない。


 けど、どんな理由であれ、俺はこいつと真剣に向き合う。


 もう腹いっぱいなんだ、後悔の味で。


 もういいだろう、そろそろ味わってもいいだろう。

 

 俺は、その知られざる極上の味を求め、今日も今日とて、ボッチ飯を貫き通した。


 このペペロンチーノは、もうただみずみずしいだけの味ではなかった。


 隠し味として、俺が『覚悟』というものをまぶしておいたのだから。

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