第2話 その蕎麦は敗北の味
戦利品のペペロンチーノが入った袋を右手に吊り下げ、鼻歌交じりに自動ドアを通り過ぎるやつを横目に、お会計を済ました。
もう何回目だよ。このとろろ蕎麦食べるの。マジで飽きたって。
あぁ、もう最悪の朝だ。
汗で服はベチョベチョ。ペペロンチーノは奪われる。
俺がなんか悪いことしたか?!してないよね?!
クソッ……さっさと教室行くぞ、もう……
学校は、このコンビニから、チャリで三十秒くらい。ほぼ隣だな。ラストスパートじゃ!
はい、着きました。
だが最後の試練。こっから四階までの階段がまぁキツイ。
この階段を一日に何回も行ったり来たりするわけだから、太ももだけが、ボディビルダー並にムキムキだ。
それは言い過ぎた。
はぁ、しんど。マジで何なのこれ。拷問か?受験勉強のための体力つけろってか?これのせいで、毎日疲労困憊なんですけど!
はぁはぁ、着いた。着いたぞぉ、四階。
教室は……うげ、結構みんな来てんな。いや、何の問題もないんだけど。
今日の時間割は……よし、四限目体育だ。
しかも、確か種目はバトミントン。しかもダブルスだったはず。これ女子とペア組めば……
「きゃあ!鎌上君カッコいい!」
とかなったりして……へへへ……グフッ……
はい、孤立しました。ペア作るとき、流れに乗り遅れ、無事孤立しました。誰だよクラスの人数三十五人にしたやつ!
てか学級委員長孤立させるクラスどうなってんだよ!
あれ……でも確か今日一人欠席いたよな……
誰か余って……ってお前か、雫ノ宮。
あー確かにこいつと仲いい奴が欠席してたっけ。
「委員長……余ったからペア組んでくれない?」
メガネをかけ、長い黒髪を弄くりながら近づいて来たこいつは、雫ノ宮燐香。
一軍気取りどもに見下されてる系女子だな。それなりに友達もいると思うが。
「いいよ」
必要最低限は喋らない。
とか言ってる奴がなんで学級委員長になれたかって?それはまた今度教えてやる。
この一時間限りの関係だ。中途半端に仲良くはなりたくない。
こいつも可愛そうだな。いつものグループの中でペアを作っていったとき、こいつだけハブられたのだろう。
恐らくこの後、雫ノ宮はあのグループの中で、散々馬鹿にされるのだろう。
あのゲキモ委員長とペア組んでたって。
それは、あまりにも可愛そうだ。
これには、俺も少し、本気を出さなくては。
解き放たれよ!封印されし、我が……やめます、虚しいので。
「ま、気楽に頑張ろうや」
これくらいで丁度いいのだ。これくらいが、俺にとって適切な距離感だ。
二つラケットを手にとって、片方を雫ノ宮へ手渡す。
こうして、一時間限りの共闘が幕を開けた。
そして幕を閉じた。
え?過程が無さ過ぎるって?や、やめろ!聞くな!
何回も空振りしまくって、シャトルじゃなく自分の頭をスマッシュしたことも聞くな!
はぁ、最悪だよ。雫ノ宮も対戦相手もツボってたもん。
あーやばい。思い出す度に、恥ずかしさで汗が止まらねぇ。
と、とりあえず昼飯だ。もちろんボッチ飯。
本日のメニューはとろろ蕎麦。これうまいんだけど、残った汁をどうするかが面倒だよな。俺は全部飲んでるけど。
コンビニの蕎麦なんて、特に食レポすること無いよ。いや美味しいんだけどね?!もう食べすぎたっていうか……
やべ、ほんと言うことねぇな。もう食い終わっちまうよ。
「てかさ〜さっきの委員長めっちゃおもろくない?普通自分の頭に当たる?マジウケるんだけど」
おーい、聞こえてますよ。てか、雫ノ宮のグループじゃん。ペア組んでやったんだから止めてくれよ雫ノ宮。
いや、その場に一番居づらいのは雫ノ宮自信か。申し訳ねぇ。
さっさと平らげて、どっか行っとこう。
ガハァ、この汁飲み干すときの背徳感やめれねえ!
絶対に体に悪いって、わかってはいるんだけど。これが本物の塩分チャージってか。
よし、どっか散歩行こ。できるだけ誰もいなそうな所に。
渡り廊下とか、風が気持ちよさそうだな。行ってみるか。
渡り廊下、着。といっても教室から数十メートルしか離れていないのだが。
やっぱり、俺はここが好きだ。ここから、街全体を俯瞰するのが、一年生のときから好きだった。当時は教室が二階だったのに、わざわざここまで来て、こうして暇を潰してたっけ。
あ、あのうどん屋めっちゃ並んでる。マジでうまいからなぁ、また行くか。一人で。
あ、あそこでおばちゃんたちが喧嘩してる。落ち着け落ち着け。
今日は少しばかり風が強いな。台風でも来てるんだろうか。あまりにも風の音がうるさくて、それ以外、耳に入ってこないや。
隣を横切る生徒達の話し声も、放送部の放送も。何も、聞こえてこない。この場所には俺しかいない。
最高だ、まさに至福の至り。神。
さぁてそろそろ帰るか。教室に巣食う女子どもも歯磨きへお出かけしているだろうし。あぁ、気持ちよかった、また来よ。
「あのぉ……先輩?」
ん……んお!?女子が俺を呼ぶ声。風のせいでよく聞き取れなかったが間違いない。
運命の出会いとは、こうも唐突に現れるものなのか!
ふ、振り向けば、恐らく、俺の運命の人がいる……
胸の鼓動が速まるのが、手を当てなくとも感じるほど、俺の心はバクバクし始めた。




