第一話 ペペロンチーノ争奪戦
はい、皆の衆御機嫌よう。
あれから一日が経ち、今俺は、この灼熱の太陽光に体中を燃やされ続けながら、必死に学校へ登校しているところなのだ。
そういや一年前、汗だくの中、学校に登校したら、すれ違い様に、全く面識のない女子に、「なんかここらへん汗臭さ」と言われたっけ。
黙れよ。交通費浮かすために、往復十五キロを毎日チャリで登校してる俺を褒めるだろ、普通。
はぁ、なんでこんな汗臭いんだよ。いや誰でも臭いか……
しんどいなぁ、毎日こんな生活してるのに、返ってくるのがそんな言葉なんて。ま、これこそが俺がボッチたる所以か。
クソったれが。
本日は面倒なことに、コンビニにお弁当を買いにいかなければならない。お母さん忙しくて、お弁当作る時間がなかったんだと。
だが、こういう日があるからこそ、普段お母さんへの感謝を忘れずにいられるのだ。
え?購買とか学食で買えばいいだろって?
田舎を舐めるなよ!
食堂は人件費など様々な問題から、火曜、木曜しか営業していない!そして、購買も、水曜日だけパンの販売がある!
しかし、しかしだ。今日は金曜日。そう、食堂も購買も、利用することは出来ないのである!
はい、というわけで、今日のところは我慢して、コンビニボッチ飯と行きましょう。
「はぁ……」
着いた。やっとコンビニ着きました。もうすでに制服がビショビショだ。夏くらい体操服で登校させてよぉ……
あ?なんだお前、こっちチラチラ見てきやがって!
言いたいんなら言えよ?お前の汗が臭いって。
……はい、ごめんなさい。
「いらっしゃいませ〜」
いやぁ、このコンビニのこういうところ大好きだわぁ。入店して挨拶してくれるコンビニはかなり珍しい……と思う。
さっさと弁当買って、涼しい教室で一休みしよっと。
さぁーて、どれにしようかなぁ。
うどん、そば、へぇ、ペペロンチーノとかもあるのか……
って、全部麺類じゃねえか!
た、たまにはハンバーグとかでも……いや高いな。
なんかそばとかは食べ飽きたし、今日はペペロンチーノでいいや。
てかラスト一個だし。危ねぇ。なんとか間にあっ……
ん?なんか隣から手が伸びてきてるんですけど。それが俺のペペロンチーノがっちり掴んでるんですけど!
誰だ!不敬にも俺のペペロンチーノを奪い去らんとするゲス野郎は!
……って、女子だ。同じ高校の制服。きれいな黒髪、俺の中の何かを刺激するそのニーハイ、そしてひんにゅ……それはやめておこう。
しかも、しかもだ。こんな偶然……ありえない。
とある理由から、俺はこいつを知っている。
あ、多分相手は俺のこと知らない。いや当たり前か。
いやいや、今はそんなことどうでもいいんだ。何とかして、このペペロンチーノを守り通さなくては。
え?女の子相手何だから譲ってあげろって?
貴様、本当にこの子のことを考えてそれを言ってるのか?
第一、コンビニのペペロンチーノは、かなり匂いがキツイ。俺的にはいい匂いだが、少し賛否が分かれてもおかしくない匂いだ。
それを、友人たちの前で食べたこの子が、もし恥をかいたらどうする?!
俺はそこまで考えて行動しているのだ。
……とでも自分の意地を合理化しておこう。
いや、ひとまずこの状況をどうにかしなくては……
不本意だが、口を開くとしよう。
「あのぉ、すいません。手を離して貰えますか?」
こいつが年下、つまりは高一であることは知っている。だが、ここは戦略的敬語使いでこの場を切り抜ける。
決して、初対面の相手にタメ口で話せない訳では無いが?
「いや、私もペペロンチーノ食べたいので、あなたの方こそ離してくれませんか?」
何だこいつ。そんな上目遣いしてきたところで、俺に効果はないぞ!
フェアリータイプの攻撃は、毒タイプには効果は今ひとつなのだ!って、誰が毒タイプじゃ!いや、どちらかというとゴーストタイプか。
「いや、俺が先に取ってたし……」
ダメだ言葉がでない。何日ぶりだよ女子と会話するの。
あぁ、これあれだ。後で教室行ったこいつがお仲間JKたちにこう言うんだろう。
『さっきコンビニで私が買おうとしてたの奪ってきた陰キャいたんだけどお〜マジキモくない?』
間違いないな。クソ、これだから最近の若者は……
てかスカートみじかっ!
ってああ、ダメだ。そんなのに気を取られてたら。
それにしてもこいつ、しつこすぎだろ!もう何秒この状態でフリーズしてんの?
なんか同級生とか来て勘違いされても嫌だし、もうジャンケンでいいか……
「じゃ、じゃあ、ジャンケンで決めま」
「無理です」
こいつマジか(二回目)。
も、もういいや、きょ、今日のところは見逃してやる。
「じゃ、じゃあ、どうぞ、もうお譲りしま」
「ありがとうございます!」
はい、どういたしまして。
それも言う暇もなく、やつは足早に会計に向かいやがった。
まったく、なんなんだこいつは……
ペペロンチーノを奪いさられ、左手は空っぽだ。
仕方あるまい、今日は蕎麦でいいや。とろろ蕎麦。
っち、あいつ、なんかこっち振り向いて笑ってやがる。
計画通り、とでも言いたげだな。
ま、まぁ、その小悪魔的な表情が、可愛くないとは思わなくもなくもない。
はぁ、俺は最低だ。こいつを見ると、どうしても思い出してしまう。
あの甘酸っぱい、俺の青春の日々を。
そう、俺がこいつを知っていると言ったのは、こいつが俺のかつての意中の人に、ありえないほど、声も容姿も、寸分違わなかったからだ。
今年の春、入学して間もないころのこいつを見かけた。
その瞬間、あっと声がでたよ。だって、退学したはずのあの人が、もう一度、俺の前に現れてくれたと、そんな悲しい勘違いを、俺がしてしまったのだから。
そんな相手と、こんな形で、初めて言葉を交わすことができた。
す、ほんの少しだけ嬉しいかもしれない。
もしかすると、この続きがあるかもなんて、とか考えちゃったりして……
いや、普通に俺最低だな。
これだから、誰からもモテないんだろう。
なぁ、教えてくれよ蒼璃、お前が今どこにいて、何をしてるのか。
そして、運命の悪戯か、俺の前に現れた、お前そっくりのこいつが何物なのか。




