第3章:いじめっ子と再会したら、全肯定奴隷がオプションでついてきた
翌朝。
俺は、昨夜自分が破壊したと思われる王都の城壁の様子を見に行くことにした。
一応、罪悪感というものが微粒子レベルで残っていたからだ。
「……あーあ、見事に真っ二つじゃねーか。左官職人の人、泣いてるぞこれ」
足元では、子犬サイズのフェンリル(クロ)が、キャンキャンと能天気に尻尾を振っている。昨日の今日で、こいつが世界を滅ぼす狼だと言われても信じられるわけがない。
「おい! 魔王軍幹部のデストロイ・デス様がお通りだ! 人間ども、跪け!」
城壁の崩れた隙間から、いかにもなトゲトゲの鎧を着た大男が、魔物の軍勢を引き連れて侵入してきていた。
その前には、ボロボロになった我がクラスの『勇者』様たちが転がっている。
「う……嘘だろ……。俺様は最強の『超・聖剣無双』を持ってるんだぞ……っ! なんでこんな、名前に『デス』が二回も入ってるような奴に負けるんだよぉ……っ!」
地面を這いずりながら泣き叫んでいるのは、いじめっ子の木村だった。
他のクラスメイトたちも、恐怖で腰を抜かしている。
「ギャハハ! 勇者など、この俺様の前ではゴミ同然よ! 死ねぇ!」
幹部が、禍々しい暗黒魔法の球体を放った。
それは一直線に木村へと向かい――その進路上にいた、俺の横を通り抜けようとした。
「……危ねーだろ、前見て投げろよ」
俺は、飛んできた暗黒の球体を、うるさいハエを払うようにデコピンで弾き返した。
シュンッ――ドッゴォォォォォォォォン!!
弾き返された球体は、放った本人の幹部を直撃。
それどころか、あまりの衝撃に幹部は爆散を通り越して素粒子レベルで蒸発し、背後に控えていた魔王軍の軍勢数万人が、衝撃波だけで空の彼方へと吹き飛んでいった。
さらに、その威力は止まらず、はるか遠くに見えていた魔王城の尖塔を一本、綺麗にヘし折ったらしい。
「…………え?」
静まり返る王都。
木村が、マヌケに口を開けて俺を見上げている。
「さ……佐藤? お前、佐藤なのか……?」
「あ、木村じゃん。お前、その『超・聖剣無双』、なんか錆びてね? 手入れしろよ。あとその泣き顔、SNSにアップしたら一瞬で拡散されるレベルで醜いぞ」
「な、なんで……なんでゴミスキルの貴様が、あんなバケモノを一撃で……っ!」
「知るかよ。俺が聞きたいわ。この世界、当たり判定がガバガバすぎるんだよ」
俺が呆れていると、背後から「おお……!」という感極まった声が聞こえた。
振り返ると、そこには豪華な魔法衣を纏った、銀髪の超絶美少女が、膝をついてこちらを見ていた。
「素晴らしい……! なんという圧倒的な魔力、そして無造作なデコピン! 私、リリア・アステリア……この国の第一王女にして宮廷魔導師ですが、たった今、あなた様に魂を奪われました!」
「……は?」
「佐藤様! どうか、私をあなたの奴隷にしてください! あなたのその冷たいツッコミで、毎日私を罵ってください! あなたの歩く道になりたい! あなたの吐いた空気を缶詰にして保存したい!」
……王女様が、初対面で全肯定奴隷宣言。
「なんでだよ!! お前、一国の王女だろ! プライドどこに忘れてきたんだよ! 『あなた様に魂を奪われました』じゃないんだよ、警察呼ぶぞマジで! あと空気の缶詰はやめろ、不審者かよ!」
俺のツッコミに、リリア王女は頬を染めて身悶えした。
「あああ……! 主様が私を罵ってくださった……! 『不審者』という最高の称号をいただきましたわ……! 幸せ……っ!」
「ダメだこいつ!! 話が通じねえ!!」
木村たちが、絶望的な格差を突きつけられて白目を剥いている横で、俺は頭を抱えた。
クラスメイトへの復讐が終わったというのに、全くスッキリしない。
むしろ、面倒なものが増えただけな気がする。
「よし、クロ。帰るぞ。この国、もう救いようがないわ」
「キャンキャン!(主様、待って!)」
「佐藤様ぁ! 置いていかないでください! 私の四肢を鎖で繋いでも構いませんからぁ!」
王女が這いずりながら追ってくる光景は、控えめに言って地獄だった。
佐藤の異世界生活、三日目。
彼はまだ、自分が魔王の心臓を物理的に握り潰しかけていることに気づいていなかった。




