第2章:レベルアップの音がうるさすぎて鼓膜が死にそうなんだが
煙が、目にしみる。
俺が目を覚ますと、そこは直径百メートルを超える巨大なクレーターの真ん中だった。
どうやら城壁から蹴り落とされた後、俺自身が隕石となって着弾したらしい。
「……生きてる。あんな高さから落ちて無傷とか、物理法則どうなってんだよ。ニュートンに謝れよこの世界」
ふと見ると、視界の端で何かが高速で点滅していた。
『レベルが1上がりました』
『レベルが1上がりました』
『レベルが1上がりました』
『……レベルが999になりました。カンストです』
パラララッ、パラララッ! と、耳元で運動会の入場行進曲みたいなファンファーレが鳴り止まない。
「うるせえええええ!! 鼓膜! 俺の鼓膜が死ぬだろ! なんで通知音がステレオ放送なんだよ! あとレベルアップ早すぎだろ、RPGの楽しみ全部ドブに捨てたな!?」
ようやく音が止まったと思ったら、目の前の茂みがガサガサと揺れた。
現れたのは、プルプルと震える青い球体。ファンタジーの定番、スライムだ。
「お、スライムか。……なんか、こいつの頭の上に『絶望の破壊神・スライム(Lv 500)』とか書いてあるんだけど。初期エリアに置いていいレベルじゃねーだろこれ! 初心者狩り専用サーバーかよ!」
スライムが、音速を超えて突っ込んできた。
俺は反射的に、右手を突き出した。
「うわ、来んなッ!」
スカッ、と軽い手応え。
次の瞬間、ズゥゥゥゥゥン!! という、地殻変動レベルの衝撃波が森を駆け抜けた。
スライムは爆散どころか、原子レベルで消滅し、その背後にあった森の木々が数キロ先までなぎ倒され、扇状に更地が出来上がった。
「…………は?」
静寂。
更地になった場所から、ポロン、ポロン、と何かが落ちる音がした。
『ドロップアイテム:魔王の魂、神殺しの剣、世界樹の苗木、伝説の聖杯、あとその辺の石ころ』
「ドロップ品おかしいだろ!! スライムから魔王の魂が出るかよ! あと聖杯とか世界樹とか、一個で一章分ストーリー作れるようなもんを雑に落とすな! 『あとその辺の石ころ』の場違い感がすごいわ!」
俺が地面に散らばった伝説級のアイテムを(とりあえずゴミ袋に入れて)拾い集めていると、近くの切り株の陰から、クゥ……という弱々しい鳴き声が聞こえた。
「……犬?」
そこにいたのは、全身が煤で汚れた、小さな黒い子犬だった。
片足を怪我しているらしく、震えながら俺を見上げている。
「おいおい、こんな爆心地の中によく生きてたな。……ほら、怪我してんのか。待ってろ」
俺は、先ほど拾った『伝説の聖杯』に入っていた、見た目からして怪しい虹色の液体(万能薬らしい)を子犬の足にかけた。
「ほら、これで治るだろ。……お、元気になったか。よかったな。じゃあな、俺はこれからこのクソみたいな異世界でどう生きていくか……」
言いかけた瞬間。
子犬の体が、ブワッ!!と膨れ上がった。
黒い毛並みが夜空を覆い、鋭い牙が月を隠す。
体長は、優に先ほどのクレーターを超えるサイズ。
背中には三つの頭……はなくて、巨大な翼と、炎を纏った尻尾。
鑑定せずともわかる。こいつは、北欧神話とかで世界を滅ぼす狼、フェンリルだ。
「グルゥゥゥゥ……ッ!!」
咆哮一発で、雲が吹き飛んだ。
「……知ってたよ。知ってた。助けた犬がフェンリルになるなんて、この世界の様式美だもんな。でも早すぎるだろ!! せめて三日は一緒に旅をして、絆を深めてから覚醒しろよ! 出会って5秒で終末の狼かよ!!」
フェンリルは俺の前に跪くと、地響きのような声で喋り出した。
『……我が主よ。救済に感謝する。これより、世界の終焉までお供しよう』
「いや、世界終わらせるなよ! 俺は普通に、静かに暮らしたいだけなんだよ! あとデカすぎるから! 家建てるスペースねーから!」
フェンリルは、一瞬で再び子犬サイズになると、俺の靴をペロペロと舐め始めた。
……あ、これ、一生ついてくるパターンだ。
その時、王都の方角から、けたたましい鐘の音が聞こえてきた。
俺がスライム(笑)を殴った衝撃で、王都の城壁が半分崩壊しているのが見える。
「……あ、俺のせいだわこれ。よし、とりあえず寝よう。明日になったら、全部夢になってるといいな……(白目)」
佐藤の異世界生活二日目。
彼はまだ、自分が王国の軍隊を一人で壊滅させたことに気づいていなかった。




