第1章:異世界召喚がテンプレすぎてツッコミが追いつかない
それは、ごく普通の月曜日の昼休みだった。
俺、佐藤幸一は、購買で勝ち取った焼きそばパンの袋を開けようとしていた。
「よし、紅生姜多め……」
その瞬間、教室の床に、蛍光灯よりも眩しい幾何学模様が浮かび上がった。
「待て待て待て待て! ストップ! なんだこの床の超高輝度LED!? ドッキリか? 新型の床暖房の故障か!? いま大事な昼休みなんだぞ! この紅生姜の鮮やかな赤がライトで飛んじまうだろ! 消せ! 今すぐ消せ! 焼きそばの色味が分からなくなるだろ!」
クラスメイトたちの悲鳴。光が収まると、そこは教室ではなく、高い天井と石造りの壁に囲まれた、いかにもな王宮の広間だった。
目の前には、これまたいかにもな髭の王様と、フードを深く被った魔術師たちが、仰々しく並んでいる。
「おお……! 成功だ! 召喚の儀は成功したぞ!」
「……え、待って。誰? ここどこ? 映画のセット? それとも最新のVR……いや、今の言い草、まさか『異世界召喚』!? 嘘だろ、本当にあんの!? いやいや、だとしても段階飛ばしすぎだろ! 普通はもっと、こう、トラックに轢かれるとか、古本屋で怪しい本を見つけるとかの導入があるもんだろ! なんで『昼休み』から直通なんだよ!」
俺の至極真っ当な指摘は、周囲の熱狂にかき消された。
「勇者よ! どうか、この世界を救ってほしい! 魔王の軍勢が迫っているのだ!」
「魔王!? 早ぇよ! 召喚されて30秒で魔王の話かよ! オリエンテーションとかないのかよこの国! 厚生年金とかどうなってんだよ!」
隣では、クラスのいじめっ子リーダー、木村が「おい佐藤、ビビってんのか? だっせぇな」と、これまたテンプレ通りの台詞を吐いてニヤついている。
「さあ、まずは皆様の能力を鑑定いたしましょう! この水晶に手をかざしてください!」
木村が手をかざすと、水晶が真っ赤に光った。
「おおお! スキル『超・聖剣無双』! 攻撃力Sランク! 流石は勇者様だ!」
「ギャハハ! 俺様最強! おい佐藤、次はゴミのお前の番だぞ!」
俺はため息をつきながら、適当に水晶に手を置いた。
すると、水晶が……なんとも言えない、どぶ川のような色に濁った。
「……スキル、『ゴミ捨て場』。……ステータス、全て0。……判定、ゴミ以下の汚物」
静まり返る広間。
次の瞬間、王様が冷酷な声で言い放った。
「……捨てろ」
「は?」
「このようなゴミが一人でも混じっていては、勇者たちの士気が下がる! 今すぐ城の外、魔物の蠢く死の森へ投げ捨ててこい!」
兵士たちが俺の両脇を掴む。
「おい待て! 『ゴミ捨て場』ってなんだよ! せめて『倉庫』とか『アイテムボックス』とか、もうちょっとマシな名前あんだろ! ネーミングセンス、死んでんのか王様! あと、ステータス0って、俺いま生きてる時点で0なわけねーだろ! 心拍数とかあるだろ!」
俺の必死のツッコミも虚しく、俺は城壁の端まで引きずられていった。
木村たちが、高笑いしながら俺を見下ろしている。
「あばよ佐藤! ゴミはゴミ箱へ、だな!」
「やかましいわ木村! そのセリフ、後で絶対に後悔させてやるからな! あと、お前のその『超・聖剣無双』って名前、クソダサいからな!」
ドゴォッ! と、俺は城壁から蹴り落とされた。
落下しながら、俺は空を見上げて叫んだ。
「……いや、死ぬだろ普通に! パラシュートとか用意しとけよ! この国の安全基準、どうなってんだよぉぉぉぉぉ!!」
地面に叩きつけられる直前。
俺の脳内に、無機質な音声が爆音で響き渡った。
『――条件達成。スキル『ゴミ捨て場』が真の姿へ覚醒します。……全ステータス、上限突破。……全スキル、マスター。……レベル、カンスト。……おめでとうございます、主様』
「……『おめでとうございます』じゃねーよ! 過程! 過程を見せろよ! なんで落下中に全部終わってんだよぉぉ!!」
ドォォォォォン!!
森の奥深くで、核爆発のような土煙が舞い上がった。




