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第4章:王様が土下座、魔王が爆散、世界がひれ伏す――もう帰らせてくれ

 王女が後ろで這いずりながら「主様の靴の裏に付いた土になりたい!」と叫んでいる中、俺は王宮の正門前に立っていた。

 すると、城内からこれまたテンプレ通りの豪華な衣装を着たおっさん――王様が、転がるようにして現れた。


「サ、サトウ様ぁぁぁ!!」

「……あ、王様。どうも。さっきぶりですね。俺を城壁から蹴り落とした感触、まだ足に残ってますか?」

「申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!」


 王様は、石畳に額を激しくぶつけ、そのままズリズリと這い寄ってきた。


「私の目が節穴でした! いや、節穴どころかブラックホールでした! どうか、どうか我が国をお救いください! お礼に、この国を差し上げます! あと私の妻と、残りの王女三人も全員差し上げます! なんなら私もあなたのペットになります!」

「いらねーよ!! 公私混同がすぎるだろ! 王としてのプライドを1円セールで売るなよ! あとペットはお腹いっぱいなんだよ、間に合ってんだよ!」


 俺の横で、子犬フェンリルが「ワン!」と可愛く鳴く。

 王女リリアが「お父様、ずるいです! 主様のペット枠は私のものですわ!」と親子喧嘩を始めた。

 地獄かよ。ここが魔王城か?


 ――とその時。


 空がどす黒く染まり、雷鳴が轟いた。

 次元の裂け目から、巨大な禍々しい玉座に座った、いかにもな魔王が現れた。


「ククク……。人間どもよ、絶望の時間は終わりだ。これからは、この私――大魔王サタン・デストロイ・エンドレスが――」

「うるせええええええええ!!」


 俺は、あまりのストレスに、飛んできた魔王の顔面目掛けて拳を振り抜いた。


 ――ドォォォォォォォォォォン!!


 魔王の口上が終わる前に、彼の存在そのものが宇宙の塵となった。

 それどころか、拳の風圧だけで、魔王の背後にあった次元の裂け目が強制的に閉じられ、世界中の魔物たちが一瞬にして光となって霧散した。

 さらに、魔王が消えた影響で世界中に「救済の光」が降り注ぎ、枯れた大地からは一瞬で森が再生し、病人は完治し、死にかけていた老人は若返り、猫は懐いた。


 そこへ、どこからともなく絶世の美女二人が現れ、俺の両脇に跪いた。

「魔王軍が全滅した今、我ら魔界の女王もあなた様に従いますわ」

「我ら神竜族の王女も、あなた様のペットとして末席に加えてくださいまし!」


「……は? 誰? お前らどこから湧いて出たんだよ! 登場シーン一コマもなかっただろ! 尺を考えろよ! そもそも魔王の身内だろ、仇討ちとかしなくていいのかよ!」


「…………は?」


 静まり返る世界。

 視界の端で、またあの文字が踊る。


『条件達成:ラスボス撃破。……おめでとうございます。世界を救った功績により、あなたは『唯一神』にクラスチェンジしました』


「おかしいだろおおおお!! なんでデコピンの延長線上みたいなパンチで世界が平和になってんだよ! 伏線とか! 苦難の末の勝利とか! そういうの全部すっ飛ばしてエンディングかよ!! この世界のシナリオライター、やる気あんのか!!」


 すると、俺の目の前に、光と共に一人の美女が舞い降りた。

 これまで脳内で流れていた、あのシステム音声の声で彼女は微笑んだ。


「主様。お疲れ様です。私は世界の意思、女神ガイアです。たった今から、私はあなたの全肯定奴隷として、永遠に側に仕えさせていただきます」

「女神もかよ!! なんでこの世界のトップ層は全員、奴隷志望なんだよ! もっと威厳を持てよ! 『主様、次は銀河系を統一しましょうか?』じゃないんだよ、定時で帰らせろよ!」


 俺のツッコミが響き渡る中、世界中の人々が俺の方を向き、一斉に土下座した。

 何十億という人間が、俺を「神」として崇めている。


「…………いや、マジで帰らせてくれ」


 俺は、手の中に残っていた焼きそばパンの袋を見つめた。

 中身は、先ほどのパンチの衝撃で粉々になっていた。


「…………焼きそばパンが、砂になってる……(絶望)」


 佐藤の異世界生活、三日目の夕暮れ。

 彼は、魔王を倒した喜びよりも、紅生姜多めのパンを失った悲しみに暮れていた。

 そして、彼の背後には、女神と王女と女王と神竜と神狼が、互いの領分を主張して乱闘を始めていた。


 佐藤のツッコミ道は、これからも(たぶん)続く。


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