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片思いしていた元同級生がうちの本屋でバイトを始めたんだが!?〜彼女は毎日のようにリビングまで上がり込んでくるし、距離感おかしくない?〜  作者: 早野冬哉
第三章

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39.取材

「では、アルバイトのあなたから見た桐山書店の魅力とはズバリ何でしょう?」


 取材当日。女性アナウンサーの落ち着いた声とともに、レジに立つ優花にカメラやマイクなどの多くの機材が向けられる。


「はい。それは──」


 十人を超えるスタッフの視線や機材の圧力を一心に受けてなお、優花は堂々と胸を張り、普段通りの快活な声で質問に答えていく。


 そうして、優花は危なげなく取材を終えた。


「はい。お疲れ様でした」


「ありがとうございました!」


 優花が全ての質問に答え終え、カメラが止まる。


「流石は優花ね……完璧だわ……」


「うん……」


 僕の隣で優花を見守っていた乃亜は、優花の堂々としたインタビュー姿に圧倒され、感嘆のため息を漏らした。


 やっぱり優花はすごいな。……けどこの次僕か……緊張するなぁ……。


「次の方、お願いします」


「は、はい……!」


 スタッフの一人が僕を呼ぶ。すると急に指先が冷たくなって、手が震え始める。


 その時、バンッという音とともに、背中に衝撃が走った。どうやら乃亜が僕の背中を思いっきり叩いたらしい。


「しっかりしなさい。アンタが情けないとアタシまで恥をかくのよ?」


 腕を組み、相も変わらずツンとした態度の乃亜。態度と言葉には棘があるけれど、その中に垣間見える不器用な優しさが、手の震えを止めてくれる。


「……乃亜、ありがとう」


「ふんっ! これはアタシのためにやったことよ。アンタにお礼を言われる筋合いなんてないわ」


 僕は乃亜に苦笑いを返して、撮影場所であるレジに向かって歩き出す。もちろん緊張はまだしている。けれど、背中に残るジンジンとした優しい痛みが僕の背中を押してくれた。


 そうしてレジに向かう途中、優花とすれ違う。


「お疲れ様」


「うん。透も頑張ってっ!」


 笑顔で応援してくれる優花。しかしその目には、隠しきれていない疲れが見えた。


 あ、やっぱり優花でも緊張してたんだな……。


「うん」


 優花がテレビ取材でも緊張しない完璧超人じゃないと分かって、僕も緊張していいんだと、心が軽くなる。


 そうして僕は、機材とスタッフたちに囲まれたレジに立った。


「よ、よろしくお願いします……」


「はい。では、始めますよ。三、二……」


 カウントダウンとともに一気に場の緊張感が高まる。押しつぶされそうになる重圧に、僕は唾を呑んだ。


 スタッフの一人が指で「イチ、ゼロ」と示され、カメラが回り始める。


「お次は、桐山書店の長男さん。ご両親から本屋を始めると言われた時はどう思いましたか?」


 穏やかに微笑むアナウンサーが質問を暗唱し、僕にマイクを向けてくる。


「その時はシンプルに嬉しかったです。僕も本は好きですから」


 練習の成果が出たのか、自分でも驚くほどすんなりと話せた。おかげで、気分が少しだけ楽になる。


「なるほどー。では──」


 その後も僕は暗記してきた回答を詰まることなく暗唱し、残るは最後の質問だけとなった。


「では最後に、あなたがお客様に伝えたいことはなんでしょう?」


 これで終わり……意外と過ぎてみれば一瞬だったな。


 インタビューも終盤になり、集中力が切れ始めた。その状態で僕は、渇ききった喉で最後の質問に答えようと口を開く。


「それは──」


 ……あれ?


 急に、口が止まった。


 えっと……何言うんだっけ……? あれ……あれ!? ヤバいヤバいヤバい!


「えっと……」


 ヤバいヤバいヤバい……! どうすればいいんだこれ……!?


 冷や汗が頬を伝う。僕は高層ビルの屋上の端に立たされているような気分で、必死に回答内容を思い出そうと脳をフル回転させる。けれど冒頭すら思い出せない。


 動揺で目が泳ぐ。今日はちゃんとアナウンサーの方を見ながら話せていたのに台無しだ。だが、それが功を奏した。


『当店では、最新の書籍はもちろん』


 ──店中を泳いだ僕の目が、用意していた回答の冒頭を捉えた。


 あっ……!


 咄嗟に焦点を合わせるとそこには、僕以上に焦った表情を浮かべ、冒頭の文字が書かれた紙を掲げている優花がいた。どうやら僕が回答をど忘れしたことに気付き、近くにあったポップの裏に急いで書いてくれたらしい。


 ……っ! ありがとう……!


 僕は一度目を瞑って息を吐き、心を落ち着かせる。そして、アナウンサーを真っすぐに見据えた。


「当店では、最新の書籍はもちろんですが、店員が面白いと思ったマイナーな作品も多く扱っております。まずは試しに、店員の熱意がこもったポップを眺めに来ていただけると嬉しいです」


 言い終わると同時、スタッフの一人が「はい」と撮影終了の合図をした。


「お疲れ様でした」


 急速に場の緊張感が去っていき、一息つくとようやく生きた心地がした。


「あ、ありがとうございました……」


 僕はそそくさとレジを離れ、優花と乃亜のところへ歩く。


「透。お疲れ様っ!」


「うん……さっきのありがとう。回答完全にど忘れしてた」


「うんっ! どういたしましてっ!」


 親指を立て、クシャっと表情を崩す優花につられて、僕も口元が緩んだ。すると、僕と優花の横から乃亜のため息が聞こえてくる。


「ハァ……まったく、ヒヤヒヤさせないでよね」


「ごめん……」


 僕が苦笑して応じると、乃亜はツンと目を逸らす。


「……まあ、アンタにしては頑張ったんじゃない?」


 ……珍しい。乃亜が僕を認めるなんて明日雪でも振るのか……?


「あ、そういえば乃亜、この取材の放送日に打ち上げやる予定だけど──」


「撮影始めまーす!」


 その合図で、僕は口を閉じる。


 それからアナウンサーやカメラマンたちが店内の紹介映像を撮り、取材は終了した。

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