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片思いしていた元同級生がうちの本屋でバイトを始めたんだが!?〜彼女は毎日のようにリビングまで上がり込んでくるし、距離感おかしくない?〜  作者: 早野冬哉
第三章

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38.教え合い②

 僕と優花は食卓に座り、インタビュー練習に戻る。


「それじゃあ笑顔はいったんい置いといて、読むのはゆっくりでいいから言い直さないようにしよう?」


 優花は声のトーンを一段階低くして、真剣なアドバイスをしてくれる。その一言で、さっきまで緩み切っていた場の雰囲気が引き締まった。


 羞恥心が収まってきた僕は表情を引き締め、頷く。


「分かった」


「じゃあいくよ? 『お客様のために心がけていることは何ですか?』」


「はい。私たち店員は、お客様のニーズに合わせた本の魅力を紹介し、少しでも多くのお客様に極上の読書体験を送っていただくためのお手伝いをできるよう努力しております」


 僕は優花のアドバイス通り、言葉に詰まらないようにゆっくりと回答を暗唱した。


 できた……? 一回も言い直さないで言い切れたよね……?


 優花を見ると、眩い笑顔を浮かべ、力強く頷いてくれた。


「うんっ! だいぶよくなったてたよっ! 一回で直るなんてすごいよ透っ!」


「そ、そう……?」


「うんっ! ……でも一つだけ、透、目ずっと泳いでたよ。わたしを見ながらもう一回回答読んでみて」


「えっ……!?」


 ずっと優花と目を合わせながら……!? いや、インタビューの練習なのは分かってるけど……真剣にやるところだって分かってるけど……。


「ん? どうしたのっ?」


 ある意味インタビュー本番よりも難しい要求に狼狽える僕。その様子を見て、優花がこてんっとかわいらしい仕草で首を傾げる。


「あ、いや……何でもない……」


「そぉ?」


「じ、じゃあ読むね……」


 そう言って僕は、目の前に座る優花を真っすぐに見つめる。顔──は気恥ずかしくて直視できないから首元を見る。それはそれで、白のシャツの襟元から覗く優花のきれいな鎖骨のラインが目に入って、目を逸らしたくなる。


「私たち店員は、お客様のニーズに合わせた本の──」


「透ストップっ! もう首ごと視線逸らしちゃってるね……」


「ごめん……」


 無理だってこれ……! 普段話す時だって、優花の目を見られるのはせいぜい数秒で、だいたい優花の後ろの方を見ながら話してるんだし……。


「あっ、そうだ!」


 僕が俯いていると、優花は何かを思いついたように手を叩く。顔を上げると、何か柔らかくて温かいものが両方の頬に触れた──手で触って確かめると、それは優花の手だった。


「えっ!? なんで──」


「こうすれば少なくとも首は固定できるでしょっ? 自転車だって最初は後ろを誰かに持ってもらって練習するんだから、まずはこれでわたしから視線を外さない練習しよっ?」


「……っ!」


 そう言って、優花は鼻先が触れそうなほど顔を近づけてくる。彼女の目は凛としていて真剣そのもの。そこには恥じらいも何もなかった。


 だが当然、僕の心臓は優花に聞こえてしまいそうなくらい爆音で鼓動を打つ。頬はというと、頬に当てられた優花の温かい手が冷たいとさえ感じられるほどに熱くなっていく。


 ヤバいこれ……理性が持たないって……! っていうかなんで優花は恥ずかしくない──あ、これたぶんメイド服着た時と同じだ……僕に視線を固定して喋る方法を教えるって目的しか見えてなくて、今自分が何してるか分かってないんだ。


 慌てふためく僕の鼻先を、優花の吐息がくすぐる。


「じゃあもう一回やってみてっ?」


「優花待っ──」


 その時、視界の端に、スマホを見ながら階段を登ってくる乃亜の姿が映った。


「二人ともインタビューの練習は順調に行ってる? 何か分からないことあったらアタシが──」


 階段を登り切った乃亜は顔を上げた途端目を見張り、スマホを落とした。乃亜の立ち位置から見ると、僕と優花がキスしているように見えただろう。


「乃亜、これは違──」


「……なな、ななな何やってんのよアンタら!?」


 乃亜でもこんなに焦ることあるんだなぁ……。


 金髪の長い髪を振り乱す乃亜を見て、半ば現実逃避に走る僕。僕のすぐ横にいる優花は、乃亜を振り返って平然と答える。


「透が記者を見ながら話せるようになるための練習だよっ?」


「はっ……? れ、練習……? アタシには二人がキスしてるようにしか見えなかったんですけど」


「……へっ?」


 鳩が豆鉄砲を食ったように、驚いた優花の目からハイライトが消えていく。ポカンと口を開けた優花が僕を振り向くと、鼻先が触れあった。思考停止した優花と目が合い、僕は目を逸らした。


「ふぇっ!?」


 優花の顔はボンっという効果音が付きそうなくらい一気に真っ赤に染まり上がった。彼女は僕の頬から慌てて手を離し、椅子から弾かれるように立ち上がる。


「ああええっとこれはそのっ……」


 肩にかかる黒髪を頻りに弄り、さっきまでの僕と比じゃないくらい目を泳がせる優花。自分より慌てている彼女を見て、僕は落ち着きを取り戻していた。


「大丈夫?」


「ごご、ごめんっ!」


 僕が声をかけると、優花は顔の前で両手をブンブン振って顔を隠しながら謝った。直後、優花は階段に向かって猛ダッシュ。


「わたしお店で明美さん手伝ってくるっ!」


 走り去る優花。その背中を眺めていた乃亜の唇が、僅かに動く。


「さっさと付き合えばいいのに……」


「ん? なんか言った?」


「ふんっ! 別に何でもないわよ! そんなことよりアンタらあんなにイチャイチャしてたんだから、まともにインタビューできるようになったんでしょうね?」


「それは……」


 イチャイチャしていた。その言葉を普段なら否定していたが、今回ばかりは否定できない。それにインタビュー練習もまだ途中で──。


「ハァ……しょうがないわね。アンタの練習、アタシが見てあげるわ」


「……ごめん」


 結局僕は、乃亜のスパルタレッスンを受けることになった。

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