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片思いしていた元同級生がうちの本屋でバイトを始めたんだが!?〜彼女は毎日のようにリビングまで上がり込んでくるし、距離感おかしくない?〜  作者: 早野冬哉
第三章

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35.買い出し

「ねぇ透。これ、大丈夫なのっ?」


「ん?」


 テレビ取材当日まで二週間を切った日。棚出しをしていた優花が、レジの前に立っていた僕の元に歩み寄ってくる。


 その手にはプラスチック製のブックディスプレイ──表紙を見せたい本を本棚に置く際に使う、写真立てのような形状の本立てを持っていた。


「それがどうかしたの?」


「これ、よく見るとひびが入ってるの」


「えっ? どこ?」


 僕は、カウンターに置かれたブックディスプレイを覗き込む。だが、ひびはどこにも見当たらない。


「ええっとねー……」


 視界の端を、黒くサラサラとしたレースのカーテンが埋め尽くす。何かと思って横を見ると、優花の整った顔がすぐそこにあった。


 ……っ!? だから近すぎるって……!


「ほらここっ! 足の付け根のところ!」


 優花が亀裂の入った箇所を指差す。その際に優花の頭が少し動いたせいで、サラサラの黒髪が僕の肩を撫でた。絵の具の筆で撫でられるような、気持ちよくてくすぐったいその感覚に動揺しつつも、僕は優花が指した箇所に視線をやる。


「ホントだ……全然気付かなかった」


 写真立ての形状に近い、ブックディスプレイの足。その根元には、足の太さの四分の三を貫く亀裂が走っていた。


「じゃあ後で買って──」


「あらぁ~。お邪魔だったかしら~?」


 ちょうどその時、二階から母さんが下りてきた。


 これ絶対勘違いされてる……!


 母さんはカウンターを挟んで密着していた僕たちを見て、周りに花のエフェクトが出そうなほどおっとりと微笑んでいる。


「あ、いや、違うって……!」


 焦って優花から離れる僕。その様子を見た母さんは頬に手を当て、ゆっくりと口を開く。


「あらあら〜。隠さなくてもいいのよ~?」


「だから違うって! これ見てただけだから」


 そう言って僕がブックディスプレイを見せると、僕と母さんの議題が「イチャついてたか否か」だということに気付いていない優花が平然と説明してくれた。


「明美さんこれ、足のところにひび入ってるんです」


「あらぁ~。本当ねぇ~」


 母さんはブックディスプレイの亀裂を見て困ったように首を傾げる。その次の瞬間、母さんは何か思いついたようにパンっと手を叩いた。


「そうだわ~。折角の機会だから、本立て全部買い替えましょ~! 店番は私がやっておくから、二人で買ってきてくれる~?」


 はっ!? 何言ってるんだよ母さん……それじゃデート……。


「いや、別に僕一人でいいって……!」


「でも~、優花ちゃんも本立て選んでみたいわよね~?」


「はい! やってみたいですっ!」


 優花は当然のように頷き、人の視線を惹きつける満面の笑みを見せた。


 ……っ! 優花はこれが仕事だからって割り切れてるの……? それともこれをデートだって思ってる僕の気にしすぎなのか……?


 結局僕は優花の無邪気な笑顔に反論できず、優花と二人で本立てを買いに行くことになった。


***


「透と二人で買い出しって、なんだか高校の時の文化祭思い出すねー!」


 本立てが売っている百均への道中。優花は身体の後ろで手を組み、懐かしそうに目を細める。


「あー、あったね。優花に誘拐された時のことだよね?」


 文化祭の前日準備の日、優花に「買い出し手伝って」と言われると同時に手首を鷲掴みにされて、そのまま店まで直行させられたっけ。


 まあ、嬉しかったけど……。


 あの時は僕も、片思いの相手と手を繋いで二人で買い出しという夢みたいな状況にドキドキしっぱなしだった。


「人聞き悪いなぁーもぉー! ただちょっと他に手が空いてる人いなかったから手伝ってもらっただけじゃん!」


「そう言うけど、僕の手首掴んで引きずっていったでしょ」


「うぐっ……! ……と、透だってオッケーしてくれたじゃん!」


「返事する前に連れ去られたけどね」


「それは……まあ……細かいことは気にしない! この話はもう終わりっ! 以上!」


 穏やかな微笑みから口をすぼめて拗ねた顔。そして目を泳がせたバツが悪そうな顔へと表情をコロコロ変えて話す優花。


 その表情のどれもがかわいくて、優花と話していると時間を忘れるくらい楽しかった。


 気付けば、僕たちは百均に到着していた。


「本立てってどの辺に売ってるの?」


「こっちの奥」


 百均に入り、僕たちは本立てが売っているコーナーへ向かう。


「へぇー。本立てって結構種類あるんだねー」


 物珍しそうに商品棚を眺める優花の隣で、僕も本立てに目をやる。


 そこにはT字やL字の、本を倒れないようにするためのブックエンドや、表紙を見せるためのブックディスプレイが並べられていた。それぞれ木製、金属製、プラスチック製とあり、金属やプラスチック製のものは色の種類も豊富だった。


 ……これよさそうだな。


「あっ、これとかどうっ?」


 僕と優花は同時に、黄緑色のブックエンドに手を伸ばす。すると僕の手は、ひんやりとした金属の感触と温かく柔らかい優花の手に挟まれた。


「……っ!? ごめん……!」


 咄嗟に手を引く僕。けれど優花は手が触れあったことを気にすることなく、周囲がパッと明るくなるような笑顔を浮かべた。


「あははっ! 奇遇だね透! わたしもこれがいいって思ったんだー」


「そう……なんだ……」


「じゃあ一つはこれで決まりだねっ!」


「う、うん。……あー、ブックエンドは結構使うから、一種類五個ずつぐらい買った方がいいかも」


「分かったー!」


 そうして僕たちは大量の本立てを買い、桐山書店へと戻った。

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