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片思いしていた元同級生がうちの本屋でバイトを始めたんだが!?〜彼女は毎日のようにリビングまで上がり込んでくるし、距離感おかしくない?〜  作者: 早野冬哉
第二章

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29.【閑話】鳳姉妹の日常

*** 鳳優花視点 ***


 わたしはリビングのソファーに寝転がり、メッセージアプリのライムを眺めていた。画面には、高校の頃の親友──加奈が写った写真が表示されている。


 加奈、大学楽しそう。


 そのまま加奈と何度かメッセージを送り合い、友達一覧の画面に戻る。そこでふと気付いた。


 あれっ? そう言えば透とライム交換してなくないっ!?


 何度もスワイプし、友達一覧を上から下までスクロールしても透の名前はなかった。


 ええ……!? ホントにないのっ!? 一か月もあったのに? ……でもまあ、今度バイトで交換すればいっか!


 そんなことを考えていると、不意にリビングの扉が開き、ボーイッシュな服装の鳳瑠夏──お姉ちゃんが声をかけてきた。


「優花。今日は食材を買いに行くんだろう? ボクも一緒に行っていいかい?」


「そんなこと言って、ダメって言っても付いてくるじゃん!」


「流石はボクの妹だ。ボクのことを理解してくれて嬉しいよ!」


「少しは反省してよー!」


 わたしはジト目を向けても、お姉ちゃんは腰に手を当てて涼しい顔をしている。


「では行こうか」


 そうしてわたしは流されるまま、お姉ちゃんと一緒に玄関を出る。その瞬間、大きくて柔らかいお姉ちゃんの手が、私の手を包んだ。


「もぉっ! さりげなく手繋がないでって言ってるじゃん!」


 わたしはすぐにお姉ちゃんの手を振り払った。


「いいじゃないかこれくらい。姉妹の当然の権利だろう?」


「わたしもう十八なんだよっ?」


 今更お姉ちゃんと手繋ぐの恥ずかしいよ……!


「歳なんて、ボクと優花の姉妹関係の前では意味ないさ」


 そう言ってお姉ちゃんはバックハグをしてくる。周囲のまばらな通行人からの視線が痛い。恥ずかしい……。


「歳意味あるからっ! もぉー離れてよぉー!」


 耳まで熱くなったわたしは、お姉ちゃんを突き飛ばした。


***


「今日の夕飯は何を作るんだい?」


「カレーだよ」


 結局お姉ちゃんは、スーパーの入り口に着くまでベタベタとくっついてきた。けれど流石のお姉ちゃんも店の中でまではくっついてこない。


 お姉ちゃん、最低限の常識はあるんだから最初っからそうすればいいのに。


 ムスッと口をすぼめると、前を歩くお姉ちゃんは軽く笑った。


「ハハッ! すまない優花。久々に優花と二人で出かけられて、舞い上がっていたようだ」


 前を歩くお姉ちゃんは迷いなく食材をカゴに入れていく。こういうサラッと何でもこなすところはかっこいいんだから、ずっとそうしていればいいのに。


「さあ優花。帰ろうか」


 会計を済ませて買い物袋を持ったお姉ちゃんが、さりげなく手を差し出してくる。


「だから手は繋がないって言ってるじゃん!」


「ハハッ! バレたか」


 いたずらっぽく目を細め、耳元のピアスを揺らすお姉ちゃん。お姉ちゃんの仕草はいちいち絵になるから、自然と周囲の視線も集まってくる。


「ねぇあれ……すっごく美形」


「大学生かな……!」


 よく男に間違われるお姉ちゃんを見て、学校帰りの女子中高生がヒソヒソと黄色い声を上げる。


 だからお姉ちゃんとは出かけたくないのにぃー……!


「早く帰ろっ!」


「そうだね。帰って一緒にカレーでも作ろうか」


「なんだぁ……彼女いたのかぁ……」


「彼女の方もかわいいし……お似合いかよクソー!」


 一斉にお姉ちゃんからわたしに照準を変更した周囲の視線がむずかゆくて俯く。そうしてわたしは俯いたまま、足早にスーパーを後にした。


***


「では、始めようか!」


 わたしとお姉ちゃんはキッチンに並び、野菜を袋から取り出していく。


「優花は野菜を洗ってくれるかい? 包丁と過熱はボクがやるよ。危ないからね」


「ちょっとお姉ちゃん! だからわたしもう十八だって言ってるじゃん。子供扱いしないでよー!」


 お姉ちゃんってわたしのこと何歳だと思ってるの……?


「いやいや。優花は中学の時だって包丁で手を切ったじゃないか」


「うっ……! で、でも、高二からずっと料理してきたから大丈夫だよっ!」


 確かにわたしは、中学までは料理なんてしたことなかった。でも高二になって透と再会してからは、透にお弁当を食べてもらう機会があるかもと、ずっと料理をしてきたのだ。


 けれどお姉ちゃんは、初めて包丁を握る小学生を心配するような目をやめない。


 過保護過ぎだよお姉ちゃん!


「とにかく! わたしがお肉と野菜切るから、お姉ちゃんは切ったのを炒めてって」


「いいや。野菜を切るのもボクがやるよ。少なくともボクがいる間は、優花に包丁なんて持たせない!」


「もぉー! 最近は包丁使っても手切ってないから大丈夫だって言ってるじゃん!」


 こうして、わたしの中にまだ少し居残っている反抗期と、お姉ちゃんの異常なまでの過保護のぶつかり合いは結局三十分近く続いた。


 なんとかもぎ取った包丁でテンポよく野菜を切ると、隣でお姉ちゃんが炒めていく。


 水を入れ、お姉ちゃんがカレーのルーを溶かし始めた頃には、濃厚な匂いが鼻腔を突いた。


「お待たせ」


 レストランの配膳係のように芝居がかった仕草で、お姉ちゃんは盛り付けられたカレーを食卓に並べていく。


「「いただきます!」」


 なんの合図もなく、わたしとお姉ちゃんは声を揃えて手を合わせる。わたしもお姉ちゃんも、まずはご飯を付けずにルーだけを口に入れた。


 その瞬間、中辛よりもちょっとだけ甘くした家庭の味ならぬ「お姉ちゃんの味」が口いっぱいに広がって──さっきまで言い争っていたのが嘘のように心が落ち着いた。


「おいしいかい?」


「うんっ! おいしい!」


「ハハッ! それは良かったよ」


 そう言ってお姉ちゃんは、人差し指でわたしの口元をなぞる。


「んん……何する──」


 ……っ!?


 お姉ちゃんの指先を見た途端、恥ずかしさで口が動かなくなる。お姉ちゃんの指先には、一滴のカレールーが付いていたのだ。


「ほら。優花はやはりまだまだ子供だよ」


 いたずらっぽくウインクするお姉ちゃん。彼女はわたしに見せつけるように、指先についたカレールーをチロッと舐めた。


「うぅ……」


 これじゃ子供扱いされても言い返せないよぉ……。


 顔が沸騰するように熱い。わたしは俯き、鳥のヘアピンを触って顔を隠した。

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