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片思いしていた元同級生がうちの本屋でバイトを始めたんだが!?〜彼女は毎日のようにリビングまで上がり込んでくるし、距離感おかしくない?〜  作者: 早野冬哉
第二章

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26.遊園地デート⑤

「どうして加奈がここにいるのっ?」


「あたしは大学の友達と遊びに来たの」


 突如再開した高校時代の優花の親友──佐藤加奈。彼女は露出多めなギャルっぽい服装をしていて、長い髪は茶色に染められ、カールもかかっている。


 佐藤さんは優花の耳に顔を近づけ、何か呟く。


「それより優花、あんたついに桐山とくっついたんだ? よかったじゃん!」


「ち、違うよっ! わたしはまだ透とは付き合ってないよ!」


「えーなんでよ? デートまでしてんじゃん」


「こ、これは違うのっ!」


 会話内容は聞こえないが、半目になりニヤニヤしている佐藤さんに、優花が翻弄されているようだった。


 佐藤さんが口を開くたびに大袈裟に慌てる優花。その子供っぽい姿に、僕は見惚れた。


「あー分かった分かった! 優花はまだ桐山とは付き合ってないんね?」


「そうだよっ! 最初からそう言ってるじゃん」


「はいはい」


 佐藤さんはやれやれと、虫を払う時と同じように手を振り、しつこく「付き合ってない主張」をする優花を振り払う。それから佐藤さんは僕を見て、罰が悪そうに目を細めた。


「あー桐山。優花から聞いてんでしょ? あの時はあたしから優花を助けてくれて、その……ありがと」


 ん? ……何の話? 佐藤さんから優花を救ったってどういう……。


 ギャルっぽい見た目とは裏腹に、佐藤さんは深々と頭を下げる。けれど僕には、その理由に心当たりがなかった。


「えっと……何のこと?」


「はぁっ!? ……優花あんた、まだ桐山に話してなかったん?」


 バッと勢いよく優花を振り返る佐藤さん。彼女の視線につられて優花を見ると、優花は頬を掻き、気まずそうに目を逸らした。


「あはは……話す機会がなくって……」


「ったくあんたは……高校の時あたしは、優花が『桐山くんには自分で伝える』っつったから桐山にこの話をしなかったのにさー。結局優花、卒業するまで言わなかったし……もうあたしから言っていい?」


「えっでもまだ心の準備が──」


「そう言って高校の二年間言わなかったのは誰よ?」


「うぅ……」


 完全に言い負けた優花がうなだれる。その様子を見て盛大にため息を吐いた佐藤さんが、僕の目を真っすぐに見つめた。けれどよく見ると、佐藤さんの手は震えている。


「桐山。あたし中学の頃さ……優花を、いじめてたんだ」


「えっ……」


 いじめ? 佐藤さんが優花を? ……高校の時も、今だって優花とすごく仲良さそうにしてる佐藤さんが?


 僕は佐藤さんの言葉を受け止められず、優花に目を向ける。すると優花は何の抵抗もなく頷いた。


「あたしさ、ホントにバカだったから……あの時は優花を傷つけて……楽しんでた……ホント、あの時のあたしをぶん殴ってやりたいよ」


 声と握りこぶしを震わせ、奥歯を噛みしめる佐藤さん。彼女の言葉を、優花が継ぐ。


「その時にわたしは、透に会って救われたんだよっ?」


「えっ……でも、僕は高校二年になるまで優花と会ったことなんて……」


「それなんだけどね……実はわたし、高校デビューしたんだよね」


 そう言って優花はスマホを弄り出し、一瞬ためらった後、一枚の写真が表示された画面を見せてくれた。


「これが中学の頃のわたしなんだー。あはは……全然違うよね」


 スマホの画面に映っていたのは、丸っこい眼鏡をかけている女子中学生。彼女は前髪が目元にかかっていて、髪の毛をおさげにしていた。


 あれ? この姿の優花、どこかで……。


 昔の優花の写真を見た僕は、中学三年の冬に起こった一つの出来事を思い出した。


***


 雪……? まあ、もう十二月だし……中学生でいられるのもあと三か月かぁ……。


 ポップ制作用の紙やペンを買った帰り道。降り出した雪をぼんやりと視界に捉え、近道をしようと公園に入る。そこには、街灯の下にあるベンチでカバンを抱きしめ丸くなっている女子中学生がいた。


「えっ……?」


 気にせず女子中学生の横を通り過ぎようとした時、僕は気付いてしまった。丸メガネとおさげが特徴的な彼女は肩を小刻みに振るわせ、目には涙を浮かべていたのだ。


「ぐすっ……何ですか?」


 ヤバい。泣き顔見られたら嫌だよな……。


「あ、えっと……ごめん。すぐ帰──」


「待って! ……責任取って。話、聞いて……」


「いいけど……」


 何で……?


 僕が混乱しながらも首を縦に振ると、彼女はベンチの隣をポンポン叩く。わけが分からないまま指示に従い腰を下ろす。けれど、待てども待てども彼女は何も言わない。


「あーその……どうして泣いてたの?」


 沈黙に耐えられず事情を聞いた。すると彼女は待ってましたとばかりに勢いよく、けれど小さく震えた声で話し出す。


「今日学校で模試の結果が返ってきたの。それで結果は良かったんだけど……それを、佐藤さんに見られたの」


「佐藤さん?」


「うん……わたしにいつも嫌がらせしてくるクラスメイト。それで、佐藤さんはわたしの模試の結果を見て『あんたみたいなバカが勉強できるなんて生意気!』って言って……問題集全部、破かれたんだよ……」


 それっていじめじゃ……。


「その佐藤さんって人に、何か脅されたりしてるの?」


「ううん……でも、クラスで毎日会うから……どうしようもなくて……」


「なら、学校に行かなければいい。模試は良かったんだし、もう新しく習うこともないでしょ?」


「でも……」


「僕はぼっちだから偉そうなこと言えないけど、嫌な人からは距離を取っていいと思うよ? 太陽系の惑星だって、お互いに距離を取っているから正常に太陽の周りを回っていられるんだし」


 その時、初めて彼女が顔を上げた。その目にはまだ涙が浮かんでいたけれど、瞳の奥はとても澄んでいた。


 僕と彼女の目が合うと、彼女の表情は少しだけ柔らかくなった。


「変わった喩え方するね」


「そう?」


「うん……でもやっぱり、学校に行かないのは嫌。逃げ出すみたいで、今まで耐えてきた意味がなくなる気がして……」


 じゃあ一日だけ学校に行ってもらって、勝ち逃げになるような言葉を残せばいいかも。


「なら明日だけは学校に行って、その佐藤さんって人にこう言うといいよ。『あなたはただ不安を誰かにぶつけたかっただけでしょ? 自分の弱さをわたしに押し付けて、わたしに、ありのままの自分を受け入れてほしかったんでしょ? こんな表現方法しかできなくてかわいそう。だけどわたしはもう明日から学校に来ないから、後は一人で頑張ってね』って」


 まあ、半分は誰にでも当てはまることを言ってるだけのインチキ占いの手口だけど……。


 僕の言葉を聞いて彼女は一瞬考えるように目線を下げる。その後すぐに、鈴を転がすような優しい笑い声が聞こえてきた。


「ふふっ……いいねっ! それ」


***


「じゃああの時の中学生って優花だったの!?」


「うん……」


 僕は驚きのあまり、スマホに映る中学生の優花と今の優花を交互に見た。


 高校デビューってこんなに変わるの……!?


「やっぱり変、だよね……幻滅した?」


 目を伏せ、不安そうな声を出す優花。


「なんで?」


「だってわたし、昔はこんなに地味だったんだよっ?」


「それがどうかしたの? どんな見た目でも優花は優花でしょ?」


「……っ! ありがとっ!」


 当たり前のことを言っただけなのに、なぜか優花はバッと顔を上げてはにかみ、僕の手を取った。


 優花の親友の前だからかいつも以上にドキドキする。


「はいはいごちそうさま。とにかく思い出したでしょ? そんなわけであたしも優花も桐山には感謝してるってわけ」


「そ、そうだったんだ……けどじゃあなんで二人は仲良くなったの? 全く展開が見えないんだけど」


「透がくれた言葉のおかげだよっ! あの言葉で加奈は反省してくれて謝ってくれて……それで加奈に罪滅ぼしをさせてほしいって言われて、高校デビューを手伝ってもらったの」


 優花は一度言葉を切り、その時のことを懐かしむように目を細めた。


「もちろん最初はちょっと怖かったよ? でも一緒に買い物したり美容院に連れていってもらったりしてたらね、いつの間にか怖くなくなって、本音をぶつけ合える親友になってたの」


「ま、あたしらが親友になれたのも桐山のおかげってこと。ホント感謝してるよ……そんじゃあたしはもう行くから! デートの邪魔して悪かったね」


「ちょっと加奈っ! デートじゃないって言ってるじゃん!」


「はいはい」


 そうして佐藤さんが去ると、僕たちの間には沈黙が訪れた。


 何話せばいいんだ……?


 そんな時、遠くからパレードの音が聞こえ始めた。


「えっと……折角だしパレード見に行く?」


「うんっ! 行こっ!」


 よかったぁ……優花、いつも通りで……。


 いつも通りかそれ以上に明るい優花の笑顔に、僕は安堵し、微笑み返した。

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