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片思いしていた元同級生がうちの本屋でバイトを始めたんだが!?〜彼女は毎日のようにリビングまで上がり込んでくるし、距離感おかしくない?〜  作者: 早野冬哉
第二章

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25.遊園地デート④

「結構雰囲気あるねー」


「そ、そうだね……」


 僕たちは今、お化け屋敷の中にいる。廃病院風の薄暗い内装に不気味な音楽が流れ、なんだか肌寒い。本当に何か出そうな雰囲気に、声が震えた。


 隣を歩く優花はというと、怖がるわけではなく興味深そうに内装を見回していた。


 意外だなぁ……こういうの怖がりそうなイメージなのに。


 優花を一瞥して前を向くと、それがいた。肌が爛れ、血まみれになったゾンビが。


「ウォオオォォオォッ!」


「ひっ……」


 体が強張り、僕は小さく悲鳴をこぼしてしまった。対して優花は、一瞬肩をビクッと跳ねさせたものの、怖がることなくゾンビをまじまじと見つめた。


「すごいねこれ。本物みたい……あれっ? 透?」


「な、何?」


 立ち止まった僕を不思議そうに見つめる優花。その凛とした目が、ニヤリと小悪魔的に細められた。


「透ってもしかして、怖いの苦手っ?」


「えっと……苦手って程じゃないけど、ちょっと怖い」


「へぇーそうなんだー?」


 優花は下から僕の目を覗き込んでくる。悪いたくらみを企てている目だ。


「……と、とりあえず進まない?」


「いいよー」


 そうしてしばらく、ニヤニヤしっぱなしの優花と並んで歩いていると──。


 何っ……!?


 柔らかい何かが、僕の首筋を撫でた。思わず立ち止まり、ピンと背筋を張った。すると隣では、優花が口を押えて笑い出す。


「……っ。あははっ! 透怖がりすぎっ! ……今のはわたしが透の首を触っただけだよっ?」


「えっ……」


 真実を知った途端に恥ずかしくなって、僕は優花から目を逸らした。


「お、脅かさないでよ……」


「あははっ! 透女の子みたい!」


「そこまでじゃないって」


「えー? そぉ? 怖いなら手、握ってあげよっか?」


「い、いい。大丈夫だから……」


 そんなの、子供みたいで恥ずかしい。


「別に強がらなくてもいいのにー」


 そう言って結局、優花は僕の手を握ってくれる。柔らかい手に包まれて、恐怖心が抜けていく。それはなんだか子供みたいで、恥ずかしかった。


「よーし! じゃあわたしが透を出口までエスコートしてあげるっ!」


「うん……」


 そうして僕は、手のひらから伝わってくる優花の温もりを感じながら、お化け屋敷の出口にたどり着いた。


「いやぁ、透にもこんな弱点あったんだねー」


「それを言うなら、優花が文字下手だったのも驚いたけど」


「もうそれ一か月前じゃん! わたしだってあれから文字練習してるんだからねっ?」


「……そうなんだ。……それより、次どこ行く?」


「聞いてよー!」


 そんな他愛のないやり取りをしながら、僕と優花は夕方まで遊園地を満喫した。そして僕たちが最後のアトラクションに選んだのは、観覧車だ。


「それではごゆっくりー!」


 係員によってゴンドラの扉は閉められ、僕は狭い密室の中、優花と二人きりになった。


 ……何この状況!? 僕たち付き合ってたっけ!? いや付き合ってないけど……!


 今日一日散々二人で遊園地を満喫しておいて今更なことを思ってしまう。それほどまでに、観覧車の中優花と二人きりで向かい合っているというこの状況は僕を動揺させた。


「ねぇ透」


「な、何?」


 静かな声で僕の名前を呼んだ優花は、外の景色を眺めている。


「透はさ、今日の遊園地楽しかった?」


「うん……楽しかったよ?」


 なんでそんなこと聞くんだろ……?


「そっか」


 優花が薄っすらと微笑む。古びた金属の臭いが作り出す雰囲気が、どうしようもなく僕の鼓動を速めた。


 いつになく穏やかな優花を見ていると「告白」の二文字が脳裏をよぎったけれど、僕は必至でその二文字を振り払った。


 僕は窓に近づき、口を開く。


「ま、町の景色きれいだね」


 僕は優花を見ていない。だから今、優花がどんな表情をしているか分からない。ただ、衣擦れの音がして、優花の纏う雰囲気が変化したことだけは分かった。


「うんっ! それに透の家も見えるよっ!」


 助かったぁ……。


 いつも通りのテンションに戻った優花の声を聞けて、肩の力が抜ける。観覧車が一周するまでの間、優花の弾んだ声と僕の控えめな声がゴンドラに響いた。


「いい景色だったねっ!」


「うん」


 観覧車を降り、伸びをする優花。僕も優花と二人きりの密室から解放されて一息ついた。


「お客様。記念写真はいかがですかー?」


 カメラを持った係員に声を掛けられ、僕は優花を見る。


「どうする?」


「折角だし撮ってこーよ!」


「だよね……」


 そう言うと思ったけど……優花とツーショットとか恥ずかしい。


「それじゃあもっとくっついちゃってくださーい!」


「えっ……?」


 それはいろいろとヤバい……!


「優花、やっぱりやめ──」


「透っ!」


 優花が僕の手を引っ張り、お互いの肩がくっついた。しかし優花は気にすることなく、カメラに向かってピース。


 近すぎるって……!


「じゃあ取りますよー! 彼氏さんもカメラ見てくださーい!」


 彼──!? いや、もうこうなったら否定するよりも早く終わらせた方がいい……!


 僕はカメラに向かってぎこちなく微笑む。次の瞬間、カメラのフラッシュが光った。


「はいどうぞー! 二枚欲しい場合は百円です」


 差し出された写真には、眩しい笑顔を浮かべる優花と、緊張でガッチガチになっている僕が映っていた。


「……僕はいいよ。優花がもらって」


「いいのっ?」


「うん」


 優花は係員から写真を受け取り、カバンにしまう。


「じゃあ透の家のリビングに飾ろっ? そうすればわたしもバイトに行くたびに見られるし」


 歩きながら、優花が無邪気な笑顔で悪魔的発言を放ってきた。


「それは本当にやめて……!」


「えー? いいじゃん!」


 そう言うと優花は僕の前に躍り出て、いたずらっぽく上目遣いをしてくる。冗談でわざとやっていると分かっていてもドキドキするんだから、やっぱり僕はチョロいんだな。


「ダメ?」


「そんなわざとらしくあざといことしてもダメだよ……」


「あははっ! 目逸らしながら言われても説得力ないよー?」


「……っ」


 そんな傍から見ればイチャイチャなやり取りをしていると、不意に後ろから声を掛けられた。


「あれ? 優花じゃん」


「えっ!? 加奈!?」


 そこには、高校時代優花といつも一緒にいた女子の一人──佐藤加奈が立っていた。

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