24.遊園地デート③
優花の吐き気、治まってるといいんだけど。
僕は両手にストロー付きのウーロン茶とコーラを持ち、小走りに優花の元へと向かう。
「あっ、透!」
「ごめん優花。遅くなった。飲み物屋混んでて……」
「ううん。わたしこそ調子に乗ってへばっちゃってごめん……」
酔いから回復した優花が、ベンチに座ったまま肩を落とす。やりすぎたことを反省して小さくなる優花を見ていると、なんだか子供みたいで微笑ましくなってくる。
「えっと……優花はコーラであってる?」
「うん。ありがとっ! わたしの好きな飲み物覚えててくれたんだ」
「うん……高校の時、優花毎日コーラ飲んでたから」
優花はコーラを受け取るとストローに口をつけ、幸せそうな笑顔を浮かべた。優花の立ち直りの早さに感心しつつ、僕もウーロン茶に口をつけた。甘苦く冷たい液体が喉を潤していく。
なんとなく時計を見ると、時計の針は十二時半を指していた。
「優花、そろそろ昼ごはんにする?」
「いいねそれっ! わたしもお腹空いてたんだよねー」
そう言う優花のコップの中には、すでにコーラはない。
「優花って、コーラ飲むの早いよね」
「だっておいしんだもん!」
優花は、中身が氷だけになったコップをジャラジャラ揺らして得意げに笑う。
炭酸一気飲みしてよくゲップでないなぁ……。
***
「お待たせしました! こちら特性みそラーメンと、エビフライカレーです!」
遊園地内のフードコート。僕たちはフードコートの端の二人席を取り、丸テーブルを挟んで向かい合っている。
「おいしそー! いただきますっ!」
優花は早速みそラーメンを啜った。その際、髪がラーメンに入らないよう耳にかける。その仕草がどうにも色っぽくて、僕は自分のエビフライカレーに目を落とした。
カレーからは湯気が出ていて、スプーンをいれてみるとルーはとろっとろ。香辛料のツンとした匂いに鼻腔を撫でられ、よだれが沸き上がってくる。
おいしそう……。
白米とルーが乗ったスプーンを口に入れた途端、ピリッと舌がしびれるような感覚がした。後からコクのある味が乗ってきて、口に入れてから呑み込むまでの間、絶妙に移り変わる味わいを楽しめた。
「透。すっごく幸せそうな顔してる。そんなにカレーおいしいのっ?」
「うん……今まで食べたカレーの中で一番おいしいかも」
「そんなにっ!? じゃあわたしにも一口ちょうだいっ!」
「いいよ」
僕はカレーを優花に近づけ、テーブルに置いてあるれんげを取ろうとしたが──優花は僕が口に入れたスプーンを手に持ち、カレーをパクッと食べた。
はっ!? それって間接キス……。
「ホントだおいしいっ! 辛さと味が分かれてくる! 透ならこの味、なんて喩えるのっ?」
おいしそうに頬を押さえる優花に、間接キスを気にする素振りはない。無邪気に笑う彼女を見ていると、大学生にもなって間接キスを気にするなんてバカらしく思えてくる。
実際別にどこも触れ合ってるわけじゃないし……そう考えると手を繋いだりするよりも健全な気がしてきた……。
僕は優花から返されたスプーンでカレーをもう一口食べ、優花の質問に答える。
「ミステリーのどんでん返しみたいな味、かな」
「なんでっ!? どこからミステリーが出てきたのっ?」
優花は僕の喩えを聞くなり、肩を揺らしてクスクス笑う。
「いや、その……ミステリーって事件の真相が分かったら衝撃を受けるでしょ?」
「それでそれでっ?」
「どんでん返しがあると、その後さらにその真相が全てひっくり返るような出来事が起きてまた衝撃を受けるから。二段階に分かれて違ったおいしさが味わえるこのカレーの味と似てるなって思ったんだけど……」
「そう言われるとしっくりくるかも。透の喩えってホントにセンスが独特だから、聞いてて全然飽きないねっ!」
「……ありがとう?」
褒められているのか微妙な言い回しに首を傾げつつ、僕はカレーを口に運ぶ。優花もラーメンを啜った。
「あっ、そうだ。透ってラーメン好き?」
「まあ、それなりに」
「だったらわたしのラーメンも味見しないっ? このみそラーメンもすっごく美味しいよ!」
「優花がいいなら」
今度は優花が使った箸とれんげを使って食べることになるだろうが、間接キスはもう気にしない。そうやって、自分でも不思議なくらい簡単に割り切れた。けれど、今度はそんな生易しいものではなかった。
「はい透。あーん」
「えっ!?」
ってそう言えば! 前に優花が弁当作ってくれた時もこうやって「あーん」されたでしょ……たぶん優花にとっては、誰かにおすそ分けするなら「あーん」が普通ってこと、なのか……?
「どうしたの透? 早く食べないと冷めちゃうよ?」
箸を前に出しながら、心底不思議そうに首を傾げる優花。その無邪気な仕草に、自分の頬が赤くなっていくのを感じた。
「……っ! わ、分かった」
僕は自分の迂闊さを呪いながら覚悟を決め、口を開けて身を乗り出した。間も無く、箸と麺が口の中に入る。
「おいしっ?」
「うん……おいしい……」
本当は恥ずかしすぎて、ラーメンの味なんて分からなかった。フードコートには他のお客さんやスタッフがいる。前に家で二人きりの時に「あーん」してもらった時とはわけが違うのだ。
優花は気付いていないみたいだが、周囲の人が僕たちを見る生温かい視線が痛い。その中に、瑠夏さんの嫉妬に満ちた鋭い視線もあるからなおさらだ。
「えっと……優花。ご飯食べ終わったら次どこ行く?」
ご飯も残り少しになった頃。周囲が気になり過ぎて黙っていられず、僕は話題を振った。
「そうだなぁー……透はどこ行きたいっ?」
「どこでもいいけど……食後だからあんまり激しいやつはやめときたい」
「そうだね……じゃあ、お化け屋敷とかどうかなっ?」
そう言って優花は、最後の麺を啜った。




