第四十三話 「 飛んだ後には 」昭和十八年 二月
空で戦うには、機体と操縦員、滑走路だけでいいというものではない。
航空機を「戦える機体」にするには、整備と補給が必要不可欠だ。
グリム「班長!いつも通りの整備、お願い!」
1班班長「かしこまりましたっ!」
夜が明け、基地はすでに慌ただしい音で満ちていた。
滑走路脇の整備ピットからは、工具の金属音や燃料補給の音が絶え間なく響く。
戦闘機の整備は、戦場の勝利のための「見えない戦い」でもあった。
第一部隊は前夜に、既に点検・補給作業を終えていた。あとは最終確認だけだ。
整備1班「班長!中野少尉の機体なんかは、整備が楽でいいですね!」
中野「・・・そうなんですか?」
1班班長「ええ、中野少尉。消耗や消費が予想できるほど、整備がしやすいので。」
「平沼中尉の話だと、中野少尉は教本をしっかり押さえた戦いをするそうで。」
「我々整備班一同、助かっていますよ。」
中野「それは何よりです!整備の皆さんがいないと、飛べませんからね。」
空の腕はさておき、どの階級の者にも丁寧に接する彼女は、
地上では一番の評判を持っていた。・・・ただし、本人はそれを知らない。
一番・二番整備場を使用しているが、最終確認ということもあり、サクサクと進む。
参謀「・・・一度にこの量になってしまって、すまないな。」
整備主任「いえいえ。大決戦ということで、覚悟はしていましたから・・・」
その頃三番・四番整備場では、第三部隊の機体が整備されていく。
即応機の用意で第一部隊を優先したため、まだ半分以上が整備待ちだ。
井上「かなり弾薬と燃料を使ってしまった・・・申し訳ない。」
4班班長「いえいえ、生きて帰ってくれただけで、整備としてはありがたい限り。」
「それに在庫なら、皆さんが守ってくれたんで山ほどありますから!」
連日の各所の航空隊や対潜艦隊「海上護衛艦隊」の活躍により、
本土からガダルカナルまでの補給線は、強固に守られていた。
週一度の高速船団「東京急行」をはじめ、隔週の定期便、毎月末の大補給など、
補給体制は盤石に整えられており、今日も港に輸送船が接岸している。
司令「・・・やれやれ、今月もまた量が多いな。」
参謀「各地への補給拠点も兼ねていると聞きました。・・・よく引き受けましたね。」
司令「ここに来た時から、無理やり押し付けられたようなものだ・・・」
参謀「・・・ご愁傷様です。これからは、自分も業務支援致します。」
司令「ああ、助かる。これは到底、一人で回せる量ではない・・・」
そして五番・六番整備場では、第二部隊の整備が爆速で進んでいる。
その中で整備員たちに混ざって、エリンギが生き生きとして整備をしていた。
FV「エリンギ少尉!スパナ!13・・・14かこれ!」
エリンギ「はい!」
5班班長「エリンギ少尉はよく見ますが・・・FV少尉も整備上手いですね!」
FV「傭兵時代は金なんて無かったんでね!・・・これぐらいでいいべ!」
エリンギもFVも、腕は正規の整備士並。皆驚いていた。
戦前の改革により整備指南書が置かれたおかげで、サクサクと整備が進んでいく。
FV「にしてもこいつ、細けぇ被弾が多いなぁ・・・」
エリンギ「どれですかね?あ、不時着したっていう隼鷹の艦爆ですか。」
「新手の対空砲火ってのにやられたんですかね?」
FV「みてぇだな、あ、いいもん発見!あとで酒と交換してもらうかぁ!」
5班班長「軍票ですか?」
FV「いやいや、もっといいもん。」
そう言って、FVは小さな球のようなものを見せた。つまり「解析対象」だ。
エリンギ「おっ、これで対処法も分かればいいですね!」
FV「へっへっへ、これを司令に渡しゃ儲けもんよ(笑)」
二人は雑談を交わしつつも、着々と整備を続けていった。
そして整備工場の端、特設整備場。ここでは、1機のみが整備対象となる。
周囲の棚には栄の部品や、九九式機銃の弾薬、最高品質の燃料などが置かれている。
そこで整備されるのは、寸分の狂いも許されない、最後の砦となる機体。
整備主任「飛行隊長、お待たせ致しました。整備完了です。ご確認を。」
岩井「ああ、いつも助かるよ。」
飛行隊長、岩井雪奈の零戦である。
彼女は機体をじっくり眺めた後、乗り込んで各種装置の感覚を確かめる。
岩井の感覚と合わない限り、合格が下りることは無い。
その感覚は、「既定値」にぴたりと当てはまっていた。
岩井「・・・よし、いつも通りだ。ありがとう。」
整備主任「こちらこそ、ご確認ありがとうございます!」
機体の整備は、欠かすことのできない「機体の休息」なのである。




