第四十一話 「 切り札の魔法 」昭和十八年 二月
285隊が奮闘する頃、別空域では、奇妙な航空隊が飛んでいた。
陸軍飛行第62戦隊の隼二型と、海軍第203航空隊が、それぞれ半数ずつ。
普段ならあり得ない光景が、そこに広がっていた。
203空「中隊長・・・向こうは陸さんですよ?大丈夫ですかね?」
203中隊長「分からん。だが、向こうに昔いた『ぺい殿』と言う人が、」
「今は先生の下で働いていると聞く。だったら少しは信頼できるだろう。」
対する陸軍も、同じことを考えていた。
62戦隊「中隊長!海軍の奴らとなぜ組むんです!?」
62中隊長「必要だからだ。それに向こうを教えたのは、」
「西園寺が言っていた『岩井大尉殿』らしい。噂通りなら、話は通じる。」
そう言うと、中隊長同士は身振り手振りで互いの周波数を合わせた。
62中隊長「こちら陸軍第62戦隊。世話になるな。」
203中隊長「こちら海軍203空。よろしく頼む。まずは互いの機体を知りたい。」
「提案した以上我々からだな。零・・・ゼロ戦が12機だ。戦闘機は任せてくれ。」
62中隊長「ゼロ戦か、情報共有感謝する。こちらは隼二型12機。」
「・・・すまないが、火力からして戦闘機を墜としたい。いいか?」
203中隊長「・・・分かった。戦闘機は任せる。」
「隼も零・・・ゼロ戦並に曲がると聞く。頼りにさせてもらうぞ。」
62中隊長「隼を侮ってもらっては・・・すまない、これが対立を生むのだったな。」
「こちらこそ、爆撃機は頼んだ。・・・上手くやろうぜ。」
203中隊長「お互いな!・・・そうだな、海鷲と隼の狩りと行こうじゃないか!」
その後、南方作戦司令部から無線が来た。交戦命令だ。
まずは隼が、敵戦闘機のグラマンに襲い掛かる。
一撃とはいかなくとも、着実に。敵機に損傷を与えていく。
203空「なんか・・・陸さんって火力ないんですか?」
203中隊長「馬鹿、否定的なことを言うな!隼は軽戦闘機だぞ!」
62中隊長「203の中隊長よ、それはフォローなのか・・・?」
203中隊長「・・・少なくとも、この三二型よりは曲がる!軽快でいい機体だ!」
62戦隊「いいから今のうちに、爆撃機を墜としてくれ!」
グラマンたちが散開すると、零戦隊が、TBDの艦攻隊を襲った。
20粍弾が着弾すると、TBDの翼が悲鳴を上げて折れていく。
62戦隊「いいよなぁ、あの火力。海軍ばっかりずるいぞ!こんのインチキ!」
62中隊長「おいてめぇ、なんつった?帰ったら折檻だ!」
62戦隊「ひっ!すみません!羨ましかったんです・・・」
62中隊長「まだ分からないのか!対立より協調だと言ってるだろ!」
203中隊長「・・・陸さん達の気持ちは分からなくもないが、」
「こうでもしないとアメ公に負けるぞ!欲しけりゃ上に言ってくれ!」
62中隊長「うちの阿呆がすまないな。」
203中隊長「こっちの馬鹿も似たようなもんだ。こちらこそすまない。」
そんな話をしながら艦攻隊を墜としていると、隊員の悲鳴が聞こえた。
203空「敵編隊、直上!!!降下中!!!」
203中隊長「全機散開!回避を取れ!」
突然の奇襲だったが、そこはラバウルの勇士たち。数機が被弾するも、戦闘続行。
即座に体勢を立て直し、互角以上の戦いに持ち込んだ。
・・・だが、防ぐべきSBDで構成される艦爆隊は、はるか先に行ってしまった。
62戦隊「くそっ、こんな奴ら、ただ墜とすだけじゃ屁でもないのに!」
203空「零戦じゃ追いつけないが、隼ならどうなんだ!?」
62中隊長「・・・厳しいな。援軍要請をしてくれ。」
203中隊長「それしかないな。だが・・・そういえば、こんな話を聞いた。」
203空の中隊長は、昔教育隊で習った符号を思い出した。
―どうしても対処できなくなったら、この符号を使え。
それは、「・・・---・・・」。救難信号だ。だが、特段何の意味があろうか。
意味を考える暇はなく、規定通り3回、打電した。
同じころ、嵐の中に2機の零戦がいた。叩きつける雨の中、救難信号が届く。
長機とみられる零戦が言った。「・・・さて、いくか。」
僚機も、これに答える。「はい!大尉殿!全力でお供します!」
長機は操縦桿を固く握り、真っ逆さまに、全速力で降下した。
僚機も、遅れまいと必死に追従する。
混成編隊の直上、雷雲の中から、零戦が2機降ってきた。
片方は速度を緩めるが、もう片方の零戦は、勢いそのままに艦爆隊に突っ込む。
その零戦は、瞬きを終えるころには3機を海の藻屑と変えていた。
203空「あの零戦、何なんですか!?」
62戦隊「2機で突撃って・・・死にたがりか!?」
203中隊長「いや、あの戦い方は・・・」
203空の中隊長は、その姿に深い見覚えがあった。
まるで、空を統べる鳳のような、その姿に。
203中隊長「先生・・・来てくれたんですね・・・」
岩井「よくやった。そんな奴ら、さっさと墜としてこっち来な。」
62中隊長「貴方が、ぺい殿の隊長でありますか・・・」
岩井「ああ、だが話はあとだ。」
そう話す間にも、岩井は数機を墜としていた。
意味の分からない戦法に、艦爆隊は大混乱し、散開する。
だが、散開したが最期。混成部隊と岩井たちにより、艦爆隊は各個撃破、撤退した。
救難信号。それは、鏡を開く為の魔法である。




