第四十話 「 机上の戦い 」昭和十八年 二月
戦場というものは、常に「想定外」が付き物だ。
我々は第一次攻撃隊を撃破し、残る敵は第二次攻撃隊なのだが・・・
突然の豪雨と積乱雲が、偵察隊の視界を奪った。雨粒は激しく風防にたたきつけ、
無線も途切れ途切れになった。そして、恐れていたことが。
零式水偵「すみません!視界不良により、敵編隊を見失いました・・・」
敵編隊、触接失敗。このままでは、空母が危ない。
司令「岩井大尉、鏑木中尉。進路予想図を立てる。協力してくれ。」
岩井「了解。敵編隊の構成は、艦戦20、艦爆24、艦攻24、計68。」
鏑木「進路ですが、最終位置は―。」
司令は急ぎ、黒板に状況を書き殴り、全ての情報をつなぎ合わせる。
司令「敵艦隊の情報はここに、航空隊の情報はここにまとめてくれ。」
「急ぐぞ!あの悲劇を繰り返すな!」
机上に海図を広げ、敵艦隊、味方艦隊の位置を描く。
そこに、現在確認できている敵編隊、並びに展開している味方の航空隊を照らし合わせていく。
司令「藤原参謀、この進路はどうだ。」
参謀の藤原は、首を横に振る。
参謀「そちらには陸軍の偵察隊が待機していますが、情報はありません。」
司令「何か情報はないのか。」
参謀「敵機の情報は一つも・・・強いて言うなら、南側に巨大な積乱雲が。」
司令「巨大積乱雲、か・・・待てよ?もしや・・・」
何か思いついたのか、定規を海図に当てる。そこには、件の積乱雲が。
司令「裏をかいて、こう来るというのはどうだ?」
参謀「スコールの強行突破ですか。リスクはありますが、十分にあり得ます。」
司令「分かった、だとすれば・・・」
そうこう悩んだ末、定規で海図に一筋の線を引いた。皆を導く線を。
その筋の指し示す先には、臨時で連携している、基地航空隊がいた。
参謀「ここなら混成隊が間に合います。ですが・・・」
285隊の特徴である「異機種混合部隊」というのが認められたのか、
通常の基地航空隊も、真似をしてみることとなった。
・・・だが、統合指揮官はいない。そこにあるのは、互いの信用だけだ。
司令「連携して戦えるかは未知数、か。」
参謀「そうなりますね・・・ん?司令、この味方は・・・」
司令「どれどれ・・・そうか、我々はついているようだ・・・!」
指し示す位置には、編隊数2機の印が。機種は零戦二二型甲と、零戦二二型。
285隊の隊員なら、誰もが分かる編隊だった。
参謀「―岩井大尉、ここにいましたか。」
司令「最高の零戦乗りで、最高の指揮官がいる。これなら、希望はある。」
そう言った司令は、急いで通信室へと向かい、岩井に無線を飛ばす。
司令「司令部から飛行隊長。目標座標を指示する。場所はここだ。」
岩井「飛行隊長了解。」
岩井は指令を受け取ると、左に並ぶ、この一時のみの、唯一の僚機を見た。
岩井「・・・ついてくるのはいいが、命の保証はないからな。」
こんかわ「はい!!大尉殿!!!」
嵐の中に、2つの栄が轟く。機体を叩きつける雨音が、少し静かになった。
希望を乗せた鏡とその弟子は、その旅路を急ぐ。今度は、間に合わせるために。




