第三十四話 「 待ちわびし物 」昭和十八年 二月
実は試製流星と同時に、新型の陸軍戦闘機も配備された・・・はずなのだが。
不思議なことに、それがどこにも見当たらない。
書類を再度見直しながら、司令部の二人が首をかしげていた。
司令「おかしいぞ。確かに納入書には記載がある。」
参謀「こちらでも確認を取りましたが、配備は既にされているようですね。」
「ただそうなると、機体自体はどこへ・・・」
するとそこに、輝いた笑顔をしたグリム達がやってきた。
グリム「司令、参謀!新しい隼、大好評みたいですよ!」
ぺい「我々だけが、いい機体を使う訳には行きませぬからな!」
おちょ「第三部隊も、立派な285隊の一員ですし!」
第一部隊の声を聴き、二人の顔に安堵の笑顔が戻った。
司令「・・・それはよかった!兵站にも負担をかけないようにしたが、どうだ?」
グリム「さっき格納庫からすごい歓喜の声が聞こえてましたよ!」
ぺい「FV殿が向かっておられましたし、大方エリンギ殿でしょうな・・・」
司令「・・・なんとなく事情は理解した。今回だけは改造許可を出すか。」
参謀「・・・よろしいのですか?」
司令「下手に規制するより、ある程度は自由にやらせた方が、士気も高まるのだよ。」
「それに、問題があれば古谷少尉が止めるだろう。」
「現場を信じるのも、上に立つ者の任務の一つだからな。」
参謀「なるほど・・・勉強になります。」
その頃格納庫では、第二部隊・第三部隊の陸軍機乗りが集まっていた。
井上「・・・見た目で残念がっていた私が馬鹿だった。それほどまでに素晴らしいな。」
そう零す井上の前にあったのは、一式戦闘機二型。隼の改良型である。
島田「ゼロ戦のような光学照準器・・・そして防弾板まで!」
「これで時代遅れにはならなくて済みます。助かりましたね!」
FV「エンジンもゼロの二型とおんなじですしねぇ。」
「ところでエリンギ少尉、お前のそれはどうしたんだよ。」
隼二型に加え、鐘馗の二型も、補充部品と共に届いていた。
今まで一型だった機体は、全て二型に改造されることとなり・・・
追加機体も含め、合計3個小隊で運用されることとなった。
そのうち2隊は第二部隊、残りは第三部隊だ。
エリンギ「えー?部隊長、せっかく二型仕様にするチャンスですよ?」
「一週間かけて二型丙より強くしたんですから、戻すわけが・・・」
FV「だから毎回聞いてからにしろって言ってんだろ!!!」
「・・・なんで俺の部下は、こうも癖強ぇ奴が多いんだよぉ。」
案の定エリンギは、勝手に自身の鐘馗を二型仕様に改造していた。
これには司令だけではなく、FVまで頭を抱えることとなった。
そして、空が赤く染まってきた頃。基地全体に、警鐘が鳴り響く。
これに真っ先に反応したのは、意外なことにエリンギなのだった。
FV「・・・大尉、明日は雪っすかね?このラバウルっすけど。」
岩井「自分で改造した機体を試したいんだろ。」
「動機は何にせよ、やる気があるのはいいことだ。」
FV「そっすね。普段あんなっすけど、腕は確かなんで。」
普段は粗野な雰囲気を出しつつも、ちゃんと「部隊長」らしくなっているFV。
そんな彼が率いる第二部隊が、今日も基地の防空を担っている。
離陸してしばらく。多くの目線が、岩井の機体に向いていた。
さと「・・・あれっ、大尉だけなんか遅くないです?」
こんかわ「ほんとだ。大尉殿!エンジン不調ですか!?」
岩井「む?ああ、ちょっとした新型の試験を頼まれてるんだ。」
「ただ・・・遅いな。栄二型でも、この重武装では駄目か。」
岩井は謎の零戦に乗っていた。見た目は五二型なのだが・・・機銃が多い。
翼内の20粍に並行して、少し小さい口径の機銃が1門ずつ設置されていた。
エリンギ「改造と聞きましたよ!何積んだんですか!?」
岩井「確か、新型の13.2粍機銃と聞いたな。・・・互換性を考えてほしかったところだが。」
「多少無理がある改造だし、司令はやめておけと言っていたが・・・」
「零戦は零戦だからな。試してみようじゃないか。」
そして接敵。敵はB-17が16機と、F4Fが12機。だったのだが・・・
颯爽と昇って行ったエリンギ隊が、既に6機を墜としていた。
エリンギ「いやー、最高ですねこれ!これならいくらでも戦えますよ!!」
FV「ほーん、だったらもう2機ぐらい墜とせよな?」
エリンギ「あちょっとそれは・・・にしても離脱すら楽ですね!」
どうやら、新型鐘馗の性能は申し分ないようだ。
中でもエリンギは、独自改造機で既に3機もB-17を墜としている。
岩井「さて、と。肝心の火力試験だな。」
B-17に狙いをつけ、引き金を一瞬だけ引いた。
・・・その瞬間、何よりも大きく重たい銃声と共に、
B-17の胴体が真っ二つにへし折られた。
こんかわ「B-17がこんなにあっさり・・・」
岩井「どうやら、火力は異様にあるようだな。そして零戦だし狙いやすい。」
「それじゃ、次は制空戦だな。」
そう言った頃には、すでに敵小隊に機首を向けていた。
先ほどよりも長めに、銃声が轟く。
こんかわ「大尉殿、珍しく多めにう・・・」
そこまで言って岩井の方を向くと、既に4機が片付けられていた。
FV「・・・大尉?今何したんです?」
岩井「何って、そこに並んでたから撃っただけだ。」
「旋回性能を試したかったんだが・・・失敗だな。」
FV「相変わらずやってんなぁ・・・だから魔法とか言われるんすよ?」
岩井「そうか・・・?脅威は早めに消し去った方がいいだろうに。」
一瞬で小隊を片付けられたからか、敵はかなりの動揺を見せた。
その後B-17を数機墜とされたのち、踵を返して撤退していった。




