第三十三話 「 空虚な話 」昭和十八年 二月
二月のある日。ラバウル基地に、新聞記者達がやってきた。
どうやら、「ガダルカナル攻略に貢献した部隊と、女性初の士官の記事を書きたい」
ということらしい。最初の対応は、山内司令が対応した。
司令「ようこそ。南方の最前線、ラバウルの地へ。」
筆と言葉を得意武器とする山内司令は、記者たちの対応を軽々とこなしていく。
FV「ほんと、司令ってすげえよなぁ・・・どうも文屋は苦手でして。」
グリム「分かります!余計なことまで書くんですよね・・・!」
岩井「まったくだ。前なんか、『魔法のように敵を消す』とか書かれたぞ。」
グリム「・・・事実では?」
FV「・・・事実とちゃいます?」
グリムとFVが顔を見合わせる。そんな時、司令が岩井を呼んだ。
岩井「そろそろ出番か。行ってくるよ。」
グリム「はーい!」
FV「文屋なんて、適当にはいはい言っときゃいいんすよ!」
そういって、司令の下へ駆けていった。
その少し後、2人の前を通りかかる者がいた。こんかわだった。
こんかわ「部隊長、グリム中尉。大尉殿を見ませんでした?」
FV「大尉ならあっちで取材受けてるぞ。」
こんかわ「了解!行ってきます!」
グリム「雪奈大尉の邪魔しちゃだめだよー?」
こんかわ「もちろんです!」
岩井の下にかけていったこんかわだが、しばらくして戻ってきた。
但し、顔は下を向いている。
グリム「・・・意外と早かったね。」
FV「・・・もっと長くいてもよかったんだぞ?」
こんかわ「・・・大尉殿、なんかおかしかったんです。」
大きな違和感とは、何なのだろうか。
FV「大尉がおかしい?こっから見た感じ普通じゃね?」
グリム「何話してた?」
こんかわ「記者の人たちが女性の躍進についていろいろ質問してて、」
FV「それで大尉がはぐらかしてたって訳かぁ。まあそうなるわな。」
こんかわ「それが違うんです。」
グリム「えっ?」
こんかわ「すらすらと、答えてたんです・・・」
信じられないとでも言いたいかのように、こんかわはそう口にした。
・・・だが、グリム達の答えはあっさりしていた。
グリム「あー、そっちのパターンか・・・」
こんかわ「そっちのパターン・・・ってなんですか?」
FV「ほら、大尉って空以外興味ないっしょ?」
こんかわ「ですね・・・なのになんで・・・」
グリム「だから、『用意していた答えを言ってるだけ』なんだよ。」
FV「そそ。あれ本音じゃなくて、『ただのガワだけ』だから。」
こんかわ「なんだ、よかったぁ・・・」
岩井「・・・ああ言っておけば、お互い面倒がないからな。」
こんかわ「大尉殿!?」
こんかわが驚いて振り返ると、いつの間にか岩井が立っていた。
FV「よくもまあ思いつきますねぇ・・・」
岩井「久々の休暇なんだ。ちょっと出かけたくてね。適当に答えておいた。」
グリム「・・・それ、もしかしなくても空ですよね。」
岩井「無論だ。」
案の定の答えに、呆れる3人。その時、ふと思った疑問をこんかわが口にした。
こんかわ「そういえば、大尉殿っていつから飛んでるんですか?」
グリム「言われてみれば気になる・・・教えてください!」
興味を見せる2人を前に、FVが不安そうに見つめる。
FV「・・・大尉、言っちゃっていいんすか?」
岩井「まあいいさ。2人なら信用できる。」
「大正十一年に公布された、女性兵士雇用に関する法律は知ってるか?」
グリム「ええ、『戦時ニ於ル兵員確保ニ関スル法律』ですよね?」
『戦時ニ於ル兵員確保ニ関スル法律』
対米戦争を見据えて、大正時代に公布した法律だ。
徴兵対象が男性だけでは、この先兵員確保に難が出ると判断したらしい。
こんかわ「もしかして、それで・・・ですか?」
岩井「ああ。いの一番に入ったよ。当初は『後方任務に限る』だったがな。」
「航空士官になれたのは、翌年。関東大震災がきっかけだった。」
FV「ガキンチョだったけど覚えてまっせ・・・あの地獄はもう見たくねぇ。」
岩井「・・・当時の実家は、横浜のあの家だったからな。」
「身こそ無事だったが、辺りは火の海だわ、死体はそこら中に転がってるわ。」
「例えるなら、そうだな・・・あの作戦のポートモレスビーだ。」
「ただそれがあったから、今こうして空を飛べているという訳だな。・・・む?」
気づくと、こんかわの目からは大粒の涙が流れていた。
こんかわ「大尉殿・・・そんなことが・・・そんな過去が・・・」
岩井「はぁ、人の身の上話なんかで泣くんじゃないよ。」
岩井はこんかわをその身に寄せ、頭を撫でた。
グリム「大変だったんですね・・・っていうかFVさん知ってたんですか!?」
FV「いやまあ・・・傭兵時代にね?」
グリム「いいなぁ・・・もっとそういう話聞きたいです!」
岩井「まあ、また今度な。」
珍しい、岩井の身の上話だった。




