第二十九話 「 新しき目 」昭和十八年 一月
新型機は、午後にはやってきた。第四部隊向けの、偵察機だ。
一番の特徴は、液冷エンジンだということ。
そして駐機場には、司令部の三人と鏑木が集まっていた。
鏑木「これが我々の新機体ですか。」
司令「そうだ。名を『二式艦上偵察機』」
「主力の空母機動部隊にも配備されたと聞く。」
参謀「異動前に聞いた話では、艦隊での評判は良好とのことです。」
岩井「・・・偵察機なのかこれ。艦爆かと思ったよ。」
胴体下部を見ていた岩井が、そう答えた。爆弾槽らしきものがついている。
司令「元々は艦爆の試作機だったが、結構性能が偵察機向けでな。」
「そこで、開発前に偵察機として正式採用されたのがこいつだ。」
岩井「なるほど。索敵能力が上がれば戦闘効率も上がる。」
「・・・どうした司令。」
岩井が司令の方を見ると、若干後ろめたそうにしていた。
司令「ただ、エンジンがアツタというのが心配だ。飛燕のエンジンだからな・・・」
参謀「馬力は高いですが、整備性と稼働率に難がありますね・・・」
陸軍ではハ40と呼ばれるこのエンジン。何せ故障率が高い。
稼働率が平均で8割を超える285隊だが、飛燕の稼働率は7割程度に留まっていた。
鏑木「最悪は、戦闘機隊の皆さんからエンジンをお借りするしか・・・」
岩井「・・・一応、飛燕は主力だ。予備部品は山ほどあるだろ?」
司令「ああ。壊れやすい分、多めに部品は発注してある。」
「エンジンの載せ替えは重整備になるが・・・仕方ないな。」
「伊丹准尉には伝えておこう。嫌な顔をされそうだが、必要な機体だからな。」
伊丹准尉とは、整備主任のこと。整備無くして、出撃することはできない。
鏑木「あの人なら、小言はあれどすぐ直してくれますからね。信頼しています。」
岩井「そうだな。さて、飛行試験に移るか。」
かくして、鏑木は操縦席、岩井は銃手席に乗り込んだ。
大馬力のアツタエンジンが、唸りを上げて動き出す。
鏑木「おっと、けっこう振れますね。」
岩井「栄は1000馬力、アツタは1200馬力だからな。気を付けないと振れるぞ。」
鏑木「承知致しました。気を付けます。」
岩井「それと、ラジエータの調整を怠るなよ。栄と違って熱を持つ。」
鏑木「承知致しました。・・・油温、水温共によし。正常です。」
機体は高度5000mに到達。速度計測を開始した。
ふと計器を見た鏑木が、その数値に驚愕する。
鏑木「現在、速度530km/h。・・・信じられません。」
岩井「飛燕より重いし、出たとしてもこんなもんか。」
鏑木「九七艦攻より200km/hも速いです。」
「これなら、見つかってもなんとかなるかも知れません・・・!」
岩井「まあ、P-40やP-39なら振り切れそうだな。これは期待できそうだ。」
「それに、7.7mmが・・・片門300発だったか。」
鏑木「はい。緊急用ではありますが、武装もありますね。」
そして、岩井は突拍子もないことを言い出した。
岩井「・・・旋回性能も良好。これなら空戦もできそうだな。」
鏑木「偵察機でそれができるのは、岩井大尉ぐらいです・・・」
偵察機で航空戦。・・・馬鹿げている。少なくとも、並みの操縦員ならありえない。
ただおそらく、目の前の彼女なら、それも出来るのだろう。
そう考えながら、半分呆れたように答える鏑木だった。
その後鏑木たちは地上に戻り、地上で待つ司令と参謀に報告を入れた。
司令「・・・どうだ?・・・扱えそうか?」
鏑木「はい、感動するほどいい機体でありました。」
参謀「・・・よかった。最初は百式司偵を考えたんだが、双発故に断念したのだ。」
「代替案として新型機を調達したが・・・使えるようで何よりだ。」
岩井「これなら、司令の言う『アウトレンジ戦法』もできるんじゃないか?」
鏑木「そうですね。これなら行けます。」
「ただ漏れがあるといけないので、何段か索敵線を敷きましょう。」
鏑木の声には、自信が溢れていた。
翌日。基地上空の空では、
大馬力に苦戦しながらも操縦に挑む、久世 健伍長の姿があった。
鏑木「・・・焦るな。深呼吸だ。」
久世「はい、401。」
鏑木「今は戦場ではないから、普通の呼び方でいいぞ。」
「それにしても、急に乗り換えてすまないな。」
久世「・・・いえ、自分は部隊長のペア機ですから。精進します。」
第四部隊は他の部隊とは違い、2機1組で班を作る。
第1班である鏑木の相方が、久世なのであった。
鏑木「・・・頼もしいな。これからも、よろしく頼むぞ。」
久世「そのつもりです。」
そう語りあう二人の前には、透き通るような青い空と、広い海が広がっていた。




