第二十三話 「 揚陸開始 」 昭和十七年 十一月
本日はいよいよ、作戦決行日。
・・・の、はずだった。
岩井「・・・司令、これは無理そうだな。」
司令「どう見ても接岸・飛行できる天候ではない。・・・明日に延期しよう。」
外は、会話がやっと聞こえるほどの大雨と暴風。
これでは離陸はおろか、揚陸作戦自体が行えない。それほどの嵐だった。
天候の回復を祈りながら、時間は流れ・・・
-翌朝。起床ラッパの音色と共に、宿舎の雨戸が開かれる。
グリム「まだ雨は降ってるけど・・・風は止んだね!」
おちょ「視程も悪くないし、今日こそ出るぞー!」
ぺい「急ぎ朝食の後、火を入れると致そうぞ!」
窓から顔を出した中尉達が、喜び勇んで声を出す。
第一部隊は朝食の後、ガダルカナルの空へと翔けていった。
久世「こちら402、雲上に敵機見当たらず!」
鏑木「こちら401。敵機、確認できず。揚陸可能です。」
「そして少なくとも、揚陸地点付近に敵影は見当たりません。」
岩井「飛行隊長了解。司令に伝えよう。」
現地の状況は、司令を通じて艦隊へと伝えられた。
この合図を今か今かと待ち浴びていた揚陸艦隊は、ついに大発を降ろす。
―これより、上陸作戦を開始する。第一陣、突入せよ!
艦隊司令官の掛け声と共に、あきつ丸・神州丸から無数の大発動艇が出撃。
瞬く間に砂浜へとたどり着き、兵士たちは勢いよく飛び出した。
中野「これが、揚陸戦ですか・・・初めて見ました。」
グリム「僕も、こうして直に見るのは初めてだね!」
おちょ「え?意外・・・」
グリム「・・・加藤隊長が脇見なんて許すと思う?無理無理。」
ぺい「それに大体、こういうのはお出迎えがあるものでござるが・・・」
巡航速度でエンジンを回しつつ、空を見張る。
だが皆の予感は杞憂だったようで、ほっと胸を撫で下ろす。
朝霧が晴れるころには、すでに地上で橋頭保が築かれていた。
岩井「もう軽い陣地まで築いたか。早くなったもんだな。」
グリム「前は違ったんですか?」
岩井「・・・少なくとも、上海事変では遅いなんてもんじゃなかった。」
「滞空時間の違いもあるだろうが、前は補給に何度か戻ったぐらいだからな。」
おちょ「あ、あれってチハ車じゃない!?」
おちょが眼下に見つけたのは、周りよりも一回り大きな大発動艇。
通称「特大発動艇」という、戦車をも乗せられる舟艇だった。
ぺい「・・・チハ車も、そのまま揚陸できたんですな。」
岩井「特大発ならな。ただ、新型戦車とやらは載せられないらしいぞ。」
中野「・・・無知ですみません。新型戦車とはなんでしょう?」
ぺい「これは、前の上官殿が語っておられたことでござるが・・・」
「今のチハ車では、いささか性能不足気味でしてな。」
「他はともかく、『リー』と呼ばれる戦車がとにかく固いそうですぞ。」
グリム「そこで今、新型を開発してるんだってさ。」
「量産までの繋ぎで、自走砲を対戦車に使ってるらしいよ。」
艦艇・航空機こそ欧米に並んだ我が国。だが、研究能力にも限りがある。
戦車は諦めかけていたところに起きた、ノモンハン事変。
南方資源の確保も進んだためか、戦車開発をする余裕ができたという。
そんな話をしていると、通信が飛んできた。
鏑木「東側より、敵機3接近。機種は・・・カタリナです。」
久世「護衛機は・・・ありません!」
グリム「了解!やっぱり眼があると速いや。近い人ー!」
中野「はい!第二小隊、行きます!」
岩井「確認だけだが向かおう。・・・確かめたいことがある。」
グリム「了解!お願いします!」
例え爆弾を装備していなかろうと、真っ先に落とさねばならない理由がある。
少なくとも岩井とグリムは、その重要性を理解していた。
岩井「・・・敵の眼は必ず墜とせ。奴らに無線を打たせるな。」
中野「分かりました!」
中野隊が、一足早く目標に近づいた。そのまま戦闘隊形に入る。
同じ零戦でも、中野隊は三二型。二一型よりも、10km/h程速いのだ。
中野「小隊、攻撃開始してください!」
中野は号令をかけると、自身もカタリナに食って掛かった。
中野は「捻りこみ」ができるほど上手くはない。
だが、対爆戦闘は知っている。教育隊の科目にあったからだ。
中野「確か、この角度なら銃座は来ないはず・・・3、2、1、今!」
銃座の死角、斜め上方から攻撃し、下方に離脱する。
零戦の九九式機銃弾が、カタリナの大きな主翼の付け根に吸い込まれる。
大きな音を立て、カタリナの主翼がもげた。そして、回転しながら墜ちていく。
中野「佐々木二飛曹も、お見事です!」
佐々木「ありがとうございます!」
僚機も1機を確実に墜とし、残る2機も既に燃えていた。
おそらく既に、通信どころではないだろう。
―かくして、敵の空の目は封じられた。
ただ、カタリナのアンテナが少し、揺れたような気もした。




