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第二十四話 「 見えない敵 」 昭和十七年 十一月

あれから一週間。いまだに、爆撃機はやってこない。

やってきたとしても、所詮カタリナなどの偵察機だ。


島田「それでは部隊長。・・・お気を付けて。」

井上「・・・ああ。長い戦いになるが、頑張ろう。」


今日の哨戒は、第三部隊。長時間飛行を考え、半数ずつの出撃となっている。

井上たち第一中隊は、高度三千に達した。

各小隊は散開し、面で索敵を行っているが・・・今日も、未だに何事もなかった。


遠藤「こちら北班。異常ありません。」

宇佐美「東班、同じく異常ありません。」

井上「・・・部隊長了解。監視を続けてくれ。」


各班からの報告は、全て同じく「異常なし」。これを、何度も繰り返した。

眼下では、地上部隊が必死に占領を進めている。

だが(ここ)からは、その様子を見ることは難しい。


井上「・・・本当に、こんな様で地上の支援となれているのか・・・?」


そんなことを零しつつ、ただただ、時間ばかりが過ぎていく。

ふと、僚機の佐伯伍長が問いを投げかけた。


佐伯「そういえば、P-38ってのも来るんですかね・・・?」

井上「飛行隊長は交戦したらしいぞ。」

  「双発の重戦闘機で、速いと聞く。・・・来なければいいが。」


―その直後。佐伯が何かを見つけた。


佐伯「右前方、上空に何かいます!双発で速いです!」

井上「行くぞ、急げ!」


小隊は急ぎ旋回。機首を謎の双発機に向け、高度を上げる。

そして・・・


百式司偵「おや。285隊に行かれた、井上中尉殿でしたか。どうされました?」

井上「い、いやあ、話し相手でもほしいと思いましてな。」


謎の機体の正体は、陸軍の「百式司令部偵察機」。つまり・・・友軍機だった。

無理もない。彼らはP-38などという機体は、見たことがないのだ。

まさか敵だと思ったとはいえず、井上はとっさの嘘でごまかした。


百式司偵「分かります。空は暇ですからね・・・特に、我々のような偵察隊は。」

    「東の雲は、まるで鱗みたいですね。近く雨かもしれませんよ。」

井上「雲からそんなことまで分かるんですか。」

百式司偵「私の母の知識ですけどね。他だと、綿あめみたいな雲は晴れる。だとか。」

井上「なるほど、雲一つで色々と分かるのですね・・・」


そこから、話は弾んでしばらくが経った。

僚機の佐伯が、井上に声をかける。


佐伯「・・・部隊長、哨戒に戻りましょう・・・」

井上「・・・っ、失礼!佐伯、戻るぞ!」


それから10分、20分・・・30分、1時間・・・何も現れなかった。味方以外。

地上は、いち早く占領せんと熱意に溢れていたが、空は至って虚無の境地。

そこに、交代でやって来た島田隊の声が聞こえた。


島田「部隊長、そろそろ交代の時間です。後は我々が。」

井上「ああ、・・・来てくれて助かった。」

島田「・・・お疲れ様です。」

井上「何もない任務は堪えるな・・・グリムさんやFVさんはよくできたもんだ。」

島田「ですね・・・次は自分の出番ですね。頑張ります・・・」


島田とそんな会話をしながらすれ違い、第一中隊は地に降り立った。


佐伯「今日も・・・何もありませんでしたね・・・」

井上「ああ。・・・だが、何かあるよりはましだ。」


井上は短く答えた。その声はどこか、自分に言い聞かせるようであった。

ふと駐機場、飛行隊長の部屋の方を見ると、岩井が愛機・零戦の点検をしていた。

小柄な岩井のその姿は、やけに大きく見えたのであった。

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