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第二十一話 「 強行運用 」 昭和十七年 十月

先日第三部隊が護衛した輸送船団の中に、とある機体が含まれていた。

ソ連本国から購入され、はるばるラバウルまで運ばれてきた対地攻撃機。

その名は・・・「IL-2」。向こうでは、「シュトゥルモヴィク」とも呼ぶらしい。

その鈍い銀色の肌は、日本軍機にはない無骨な威圧感を放っていた。


FV「えっ、大尉、これ・・・『空飛ぶ戦車』やないっすか!」

  「どないしたんです?こんな珍品・・・」

岩井「入隊祝いってやつだな。」

  「・・・無理やり誘ったようなものだ。これぐらいはさせてもらうよ。」


FVが驚きに目を見開く。元傭兵として、世界中の機体を見てきた彼には、

その機体が持つ真価が、すぐに理解できた。


FV「・・・てか、よく買えましたね。実戦デビューは去年っすよ・・・?」

岩井「ダメ元で連絡をしてみたら、相手がFV少尉の知り合いだと言ってな。」

  「『彼には世話になった。彼の為なら喜んで売ろう。』とのことだ。」

FV「・・・ちなみに名前とかって分かります?」

岩井「確か・・・アレクサンドル・マゴメドフ。営業部で働いているらしいぞ。」

FV「・・・AMか。あいつ今イリューシンかよ・・・」


売ってくれた彼もまた、銀星飛行隊の一員だった。

日本人のFVと、スラブ人の彼。国籍は違えど仲は良く、

「ヤポンスキにしておくにはもったいない」とまで言わせた仲だという。


FV「・・・今度手紙でも送りますかねぇ。」

  「そういや、よく許可下りましたね!?」

岩井「整備班に命じて、徹底的に『日本仕様』に作り変えさせた。」

  「武装は、信頼性の高い九九式二〇粍機銃二門に換装し、」

  「懸架装置も、我々の爆弾がそのまま載るよう改造済みだ。」

  「計器盤も、読みやすいように日本語を併記させてある。」


岩井は建前として淡々と語るが、その改造の細かさからは、

彼女がいかにFVの技量を信頼し、その命を守ろうとしているかが透けて見えた。


岩井「ちなみに、改造を提案、引き受けたのはエリンギ少尉だ。」

FV「マジっすか。・・・あとで礼でも言っときますかねぇ。」

岩井「元の部隊じゃ、あまり居心地がよくなかったらしいからな。」

  「その点、なんだかんだで認めてくれるFV少尉には、感謝しているらしい。」


前の部隊では、エリンギは孤立気味だったという。

戦闘よりも機械を好み、積極的な性格でもないため・・・

上官や同僚からは、あまりいい目で見られていなかったとか。


FV「はぇぇ・・・で、本人はどちらに?」

岩井「格納庫の近くで休んでいるのは見たな。」

FV「いつもの場所で、いつものやつか。しゃあねぇ・・・」

  「お礼ついでに、ちょっと起こしてきますわ!」


要は格納庫の日向で、昼寝である。

なんだかんだで理解しあっている、エリンギとFVだった。


格納庫につくと、静寂を破るように監視所から「敵舟艇接近!」の警報が響いた。

基地周辺の海域に、数隻の敵PTボート(高速魚雷艇)が出現したのである。


エリンギ「ふわぁぁ。目覚ましが警報なんて、聞いてないですよ・・・」

FV「よし、初陣といこか! エリンギ少尉、付いてこい!」

エリンギ「えー・・・まあ行きますけど。・・・ていうか初陣ってなんですか!?」


離陸したFVのIL-2は、零戦とは明らかに異なる重厚な唸りを上げ、

海面へと急降下。PTボートも、備え付けの12.7粍重機関銃を狂ったように掃射する。

零戦であれば避けるべき弾幕だが、FVはそのまま突き進んだ。


FV「っはは!こんなの、蚊が刺したほども痛くないわ!」

エリンギ「・・・部隊長、酒入ってます?」

FV「酒飲んでるのは毎日だろ?出撃なら毎回だわ!はっはっは!!」


色々と浮かれていた為か、地上と無線がつながっていることを失念していた。

地上ということは、当然司令が聞いている。

飲酒操縦など、本来ならば軍法会議間違いなしの大問題だ。


司令「古谷少尉、何か聞き捨てならないことが聞こえた気がするが。」

FV「やべっ、な、なにとぞ穏便に・・・」

司令「・・・戦果を挙げている以上、士気を下げるようなことはせんよ。」

FV「・・・あざますっ!!!」


自白にも関わらず、司令は黙認した。

法の秩序を守る利益よりも、FVを失う損失の方が大きかったからだ。


FV「照準よーし!ほなバイナラ!」


FVは照準器の中に敵舟艇を捉えると、噴進弾を的確に撃ち込んだ。

重厚な発射音と共に放たれた弾丸が、PTボートの木製船体を一撃で粉砕する。

爆発炎上する敵影を横目に、FVは悠々と機体を引き起こした。


FV「ごちそうさんでしたぁ!へっへっへ!」


地上でその様子を眺めていた岩井は、

隣で胃を押さえる山内司令を余所に、微かに口角を上げた。


岩井「流石はFV少尉。あの機体で空戦までできればよかったんだがな。」

司令「やめてくれ。九九艦爆で空戦した奴が言うと現実に聞こえてくるではないか。」

岩井「・・・はて、何のことだか。」


その日の夕刻、IL-2の機首には、誇らしげに撃沈マークが描かれることとなった。

但し・・・FVは部隊長である。この機体は、出撃の機会はなさそうだ。

そして夜。満天の星空。銀色の星々が、煌めいていた。

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