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第二十話 「 鉄底の海峡へ 」 昭和十七年 十月

ラバウル基地の作戦会議室には、朝独特のひんやりとした空気と、

海図を照らす電灯の熱が混じり合っていた。

山内司令を囲むように、岩井を筆頭とした各部隊長たちが、顔を揃える。

そして司令の手には、胃薬の瓶が握られていた。


司令「諸君、ポートモレスビー勝利の余韻に浸る時間は終わった。」

  「次なる目標を発表する。・・・ガダルカナル島だ。」


指揮棒が、南方の小さな島を叩く。

壁に掛けられた巨大な地図には、ソロモン諸島の島々が点々と連なっている。

そして、その東端に位置する「ガダルカナル島」が赤く縁取られていた。


司令「事前偵察によると、大規模な飛行場や基地は確認されていない。」

  「・・・だが、油断は禁物だ。」

  「米軍が手薄の今が、ガダルカナルを制する絶好の好機である。」

岩井「・・・そうだな。今しかない。」

  「となれば、司令。作戦命令を。」


司令はさらに細かい地図を取り出し、机に置く。

各部隊長は司令に合わせていた視線を、その地図に落とした。


司令「我々の任務は主に三つ。揚陸支援、航空偵察、爆撃機の護衛だ。」

岩井「となると、第四部隊の仕事が多そうだな。」


鏑木中尉の率いる「第四部隊」は、偵察を主任務とする部隊。

航空機の華である「空戦」に必須な、戦場の「眼」となる存在だ。

2機を1班として編隊を組み、これが8班。計16機の部隊となっている。


司令「鏑木中尉。君達には、ガダルカナル周辺の偵察を任せる。」

  「作戦時はどこに何があるか、逐一報告してくれ。」

鏑木「承知致しました。」

司令「得た情報は、こちらも逐一地上部隊へと通達する。」

  「それと、戦闘機は確認こそされていないが・・・万が一がある。」

  「制空隊も、順繰りで出てもらうぞ。」

岩井「了解。だが第四部隊の疲労はどうする。」

司令「無論、考慮済みだ。」

  「1~4班、5~8班、全休の3循環で行こう。全休の日は他の航空隊に任せる。」


戦闘機隊は3部隊、対して偵察隊は1部隊。岩井は疲労を憂慮した。

だが、そこは山内司令のことである。循環休暇という手で対処することにした。


FV「いざとなれば、うちらも索敵すりゃいいですかねぇ?」

司令「そうしてくれると助かる。」

グリム「初日の制空は、我々が出ますよ!」

FV「了解。なら、うちらは防空見張りと行きますかねぇ。」

井上「我々は待機でありますか?・・・それとも別任務ですかね?」

岩井「休養も大切だ。待機でいいだろ。」


ここ数日、第三部隊は戦闘こそなかったものの、連日哨戒任務にあたっていた。


司令「そうだな。ここ最近ずっと気を張っていたんだ。そろそろ休め。」

井上「ありがとうございます!」

司令「平沼中尉、古谷少尉。・・・お前たちもだからな。」

  「その腕を万全にするためにも、休めるときに休んでおくといい。」

FV「あざます!ただ、司令・・・」

グリム「一番は、そこの人に言ってくれませんかね・・・?」

井上「我々以上に、連日連夜飛んでおられますよね・・・」


部隊長たちは、とある人物の方を向いて言った。・・・勿論、岩井である。

哨戒飛行、補給の為の船団護衛、ポートモレスビーから来る敵機への防空戦・・・

ここ最近、毎日出撃していた。


岩井「む?司令じゃないのか?」

FV「・・・大尉、今日も朝から飛んでましたけど・・・何日目です?」

岩井「・・・だいたい5日目ぐらいじゃないか?」

グリム「7日目ですよ!よく大丈夫ですよね・・・休んでください・・・」

FV「傭兵ですらそんなに飛ばないっすよ。体力お化けにもほどがありますわぁ。」

井上「我々ですら連続5日、1日あたり半日も飛行していないですよ・・・?」

鏑木「飛行隊長は1日2回じゃないですか。どうかお休みください。」


月月火水木金金。それを体現するかのように、岩井は連日、空を飛んでいた。

それでもって、睡眠時間や休憩はきちんと取っているらしい。


岩井「空飛んでないと暇なんだよ。書類はどうにか片付けたし。」

司令「・・・はぁ、いい加減休め。上が休まないと困る者もいる。」

岩井「そうか、すまない。休ませてもらうが・・・何をしようか。」

司令「当然飛行は禁止だ。あくまで『休暇』だからな。」

  「お前にはつらいだろうが、くれぐれも頼んだぞ。」


司令が強く、念を押す。それは、基地の最高責任者としての責務だった。

岩井は仕方ないとばかりに、ひとまず自室へと向かうのであった。

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