表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/26

第十九話 「 師匠の秘密 」 昭和十七年 九月

決戦を終え、ひとたびの休息を得た285隊。

連日の激戦が続く南方戦線から離れ、「東京急行」で本土へと帰省していた。

激戦の匂いが染みついた軍服を脱ぎ、久方ぶりの私服へと袖を通す。

それだけで、彼らはようやく「休暇」を実感していた。


さと「・・・戦時中なのに、本土に帰れるとは思いませんでしたね。」

司令「休暇は3日間だ。激戦で疲れた分、のんびりしてくれたまえ。」

中野「ありがとうございます!お母さ・・・両親に顔を見せようと思います!」

グリム「了解!せっかくだし、ぺいさんの実家でも見に行こうかなー。」

おちょ「華族の邸宅ってこともあって、すごい立派だもんね!せっかくだし、いい?」

ぺい「ふっ、仕方ないですなぁ。爺や、御父上に連絡をお願い致す。」


港で出迎えていた使用人に連絡を頼みつつ、司令に一声かけてから車に乗り込む。

その頃もう一人の部隊長は、財布の中身を確認していた。


エリンギ「部隊長も帰省ですか?」

FV「いやまあそうだけどさぁ。」

  「せっかく本土に来たんだ、美味い酒買わねぇと・・・金足りっかなぁ。」

さと「相変わらず、酒には目がないですね。(笑)」

  「こんかわ少尉は、大尉とお出かけですか?」

こんかわ「そうです!観光ついでに大尉殿の家を見に行こうかと!」

岩井「・・・言っておくが、何もないぞ。」


かくして、それぞれの目的地へと別れる。再開は三日後だ。

岩井たち二人は、横浜の街を歩いていた。


こんかわ「大尉殿!やっぱり横浜は、いい街ですね!潮風が気持ちいいです!」


こんかわがブラウスを軽く直しながら、眩しそうに海を見渡した。

対して岩井は軍服のまま、淡泊に応じる。


岩井「そうだな。・・・これが、平時の風か。」

こんかわ「ですです。ラバウルにも、吹くといいですね!」

    「・・・ていうか、なんで大尉殿軍服なんですか!?」

岩井「向こうだと要らないからな。そもそも持って行っていない。」

こんかわ「えぇぇ・・・」


まさかの回答に、困惑するこんかわ。

その後ひとしきり観光を終え、昼過ぎ。二人は岩井の自宅へと向かった。

撃墜王として名高い師匠の私生活を垣間見れるとあって、

こんかわの胸は期待に躍っていた。


岩井「着いたぞ。ここだ。」

こんかわ「・・・てっきり豪邸かと思ってました。お一人なんですか?」

岩井「実家は呉だからな。今は一人暮らしだよ。」


横浜の港が一望できる丘にある、小さな家。それが、岩井の自宅だった。

そして扉を開けた、その瞬間。期待は、完膚なきまでに打ち壊された。

小物どころか、家具もほぼ見当たらない、異質な空間。

定期的に帰っているのか、ある程度の掃除はされているようだが・・・


こんかわ「大尉殿、これはいったい・・・?」

岩井「艦内よりは明るいはずだ。上がっていいぞ。」


寝室にあるクローゼットを開き、岩井は着替え始めた。

ようやく私服が見れると思ったこんかわだが、中身を軽く見て困惑した。

制服であるセーラー服、艦内作業衣、等々。軍服しか吊るされていない。

制帽には、「鳳翔航空隊」「第一航空戦隊」という文字が見受けられる。


こんかわ「私服は、お持ちでないのですか・・・?」

岩井「・・・む?今着ているだろ?」


薄暗い部屋の中、こんかわの問いにキョトンとした顔で答える。

ただし、その服はどう見ても「艦内作業衣」に違いなかった。

そして台所を覗けば、そこには驚くほど何もなく・・・

鍋とヤカンが一つずつあるだけだった。


こんかわ「・・・大尉殿、お食事はどうされていたのですか?」

岩井「基本的には基地の食堂か、外食だったな。あとは弁当か。」

  「家では・・・そういえば、最後に火を使ったはいつだったか・・・」


岩井は、真顔で首を傾げた。

空戦では、敵機の動きを数秒先まで読み切るほどの「英雄」が、

自分自身の生活管理については、初陣の若年兵よりも頼りない有様だった。


こんかわ「・・・大尉殿は、本当にこの家で生きてきたんですか?」

岩井「食べて、寝て、着替える。十分だろ。休めれば、それでいいしな。」


こんかわは大きく頭を抱えた。

以前、護衛空母「丹沢」の甲板で「部屋に物が最低限しかない」と語っていた岩井。

その正体は、「空で戦うこと」以外の関心をほぼ失ったということだった。


岩井「だから言っただろ?『空戦以外はからっきし』だと。」

  「・・・ああ、そういえば。」


そう言って、ふと思い出したかのように埃を被った棚から、謎の瓶を取り出した。


岩井「これは・・・以前誰かにもらった酒だ。飲むか?」

  「多分まだ飲めると思うぞ。」

こんかわ「ちょっと遠慮しておきますね・・・」

    「それよりも大尉殿、まずは窓を開けませんか?」

    「光が入れば、また違うと思うんです!」


固く閉ざされていた、雨戸を開く。

質素な縁側の先に広がる庭で、赤・白・黄。色とりどりの彼岸花が咲き誇っていた。


岩井「・・・この花はいい。教導隊になった時に植えたんだ。」

こんかわ「・・・大尉殿、お花好きだったんですね!」

岩井「いや?花には意味があるらしいからな。植えてみただけだよ。」

  「それから、毎年のように花が増える。あれと比例してな。」


そう言いながら、久方ぶりにかまどに火を入れ、湯を沸かす。

縁側で茶を飲みながら、空を見上げる岩井。

そこには、鮮やかな夕焼けが広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ