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第二話 「 岩井雪奈という人 」 昭和十七年 四月

ラバウル飛行場の宿舎裏、簡易炊事場の脇に若い飛行兵たちが集まっていた。

夜の湿った風が、煙草の煙を地面すれすれに流していく。


新人達「しかしよ、あの飛行隊長って女なんだろ?」

新人達「一航戦の撃墜王らしいぞ。」

新人達「撃墜王って、本当にそんなに強いのか?」

新人達「強いだけじゃねえ。冷徹で部下を使い潰すって噂だ・・・」


誰かが笑った。誰かが煙草を投げ捨てた。


新人達「前の部隊じゃ『姉御』って呼ばれてたって話もあるな。」

新人達「姉御って・・・本当か?」


軽口が続く。そこへ足音が近づいた。


グリム「噂話は楽しいかい?」


低く明るい声だった。

振り返った若い兵たちの前に、平沼 義雄――グリム中尉が立っていた。

夜目にも分かる鋭い目が、ひとりひとりを順に見渡す。


新人達「部隊長・・・」


若い兵が慌てて姿勢を正す。


グリム「女だからどうとか、撃墜王だからどうとか、そういうのはどうでもいい。」

   「雪奈大尉は、ちゃんと飛べる人。空で判断できる指揮官だよ。」

   「噂だけで人を見ちゃだめ。ちゃんと実物を見ないとね。」

新人達「使い潰すってのは・・・」


若い女性の声が割り込んだ。中野 桜少尉だった。


中野「教育隊で教わりました。厳しいですが、ちゃんと見てくれます。」

  「見捨てる人ではありません。」


場の空気が変わる。


ぺい「教範どおりの操縦を、実戦でやるのは難しい。」

  「あの人は、それをやる人ですぞ。口で言うだけの教官ではないですぞ?」


西園寺 三平――ぺい中尉が腕を組む。


新人達「……そうなんですか。」

グリム「そうだよ。」


若い兵たちは顔を見合わせ、グリムは軽く頷いた。


グリム「だから、味方なら頼もしいよ。敵には回したくないけどね。」


どこか冗談めかした口調だったが、目は冗談ではなかった。


その頃、司令室では別の会話が交わされていた。

その部屋にいたのは、山内司令、岩井、そして・・・古谷 文治―FV軍曹だった。


FV「軍隊は、やっぱり性に合わねぇっすねぇ。」

司令「傭兵稼業の方が自由だったか。」


司令は、書類に印を押しながら答える。


FV「自由っていうか、面倒な形式が無かったっす。階級だの規則だのなんだの。」

司令「だが、ここに来てくれた。」

FV「そこの人が拾ってくれたんでね。」

岩井「・・・覚えてないな。」

FV「またまたぁ。大尉には恩がありますからね。精一杯やらせてもらいますわ。」

司令「恩、か。深くは問うまい。いい上司に会えてよかったな。」

FV「そっすね。ここなら、やっていけますわ。」

  「軍人ってのは嫌いなんすけど、ここは嫌いじゃないっす。誰かさんとか。」

岩井「他がいないから言うが、私の居場所は、戦場(ここ)しかないからな。」


それは冗談でも虚勢でもなかった。事実を述べるような声だった。


司令「難儀な奴だ。なら、それを守るのが、俺の仕事だな。」

  「俺の武器は、銃でも刀でもない。筆だ。こっちは任せてくれたまえ。」

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