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第一話 「 集いし有志 」 昭和十七年 四月

昭和十七年四月。本土北部、雪解け間近の飛行場。

滑走路脇に並ぶのは、零式艦上戦闘機と、一式戦「隼」、そして新型機の「飛燕」。

海軍機と陸軍機が、同じ列に並んでいる。・・・通常では、ありえない光景だった。

そんな異質な部隊の正式名称は、「独立 第二八五陸海軍混成航空団」。

長いので、もっぱら「285隊」と呼ばれている。


岩井「・・・教導隊を離されたと思えば、飛行隊長か。まあ、やるしかないな。」


そう零す女性は、岩井雪奈(いわい せつな)。

階級は大尉なのだが・・・女性で大尉など、聞いたことがない。

そして目の前の朝礼台に、海軍の制服を着た男が立つ。

「栄誉礼冠譜」のラッパが鳴り、部隊発足の演説が始まった。


司令「航空隊司令の、山内だ。これからよろしく頼む。」

  「この部隊はその名の通り、陸軍、海軍の枠を超えて設立された航空隊だ。」


航空隊司令、山内東吾(やまうち とうご)。現場叩き上げの、大佐である。

まもなく演説の前座が終わり、信任状を手渡すことになった。


司令「岩井大尉、貴殿に飛行隊長の職を任命する。」


岩井は、無言で敬礼。書状を受け取り、そのまま元の位置、2つの隊列の間に戻る。

どこかから、ささやき声が聞こえる。だが、何も気にしていないようだ。

続いて、第一部隊長が呼び出された。


グリム「承知!よろしくお願いします!」


明るく返す彼の名は、平沼義雄(ひらぬま よしお)。グリムというのは、空での呼び方の一つ。

一部の隊員は、無線上で固有の呼称をつけるらしい。彼もそれを持っていた。


ぺい「蘭印作戦以来ですな、グリム殿。」

おちょ「誰が部隊長なのか心配だったけど、グリムさんなら安心だね!」


振り返ってみると、旧友二人の顔が見えた。

グリムは軽く返しつつ、列に並びなおした。


そして朝礼台では、田中達也(たなか たつや)少尉が、第二部隊の部隊長を任されていた。

その第二部隊の後列で、粗野な雰囲気の軍曹が愚痴を零していた。


FV「・・・やっぱ式典ってのは長ぇな。だるぅ・・・」


体の後ろで指を動かしつつ、ぼやいている。


FV「ただまあ、軍に入ったからにはちゃんとせんとなぁ。岩井さんに失礼だ。」


古谷文治(ふるや ぶんじ)、呼称は「FV」。元傭兵・・・分かっていることは、それだけだ。


FV「にしても岩井さんの言う通り、女と思われる奴も何人かいるな。」

  「俺が呼ばれるっとことは、相当人が足りないか、何か意図があるのか・・・」

  「ま、今考えてもしょうがねぇ。ここで稼がしてもらうとするかぁ。」


そうして愚痴を零していると、再び司令の口が開かれる。


司令「諸君。昨年末より我々は、英米という強大な敵と戦っている。」

  「工業力、資源、そして人口。あらゆる分野が我が国を凌駕する、超大国共だ。」


一瞬の沈黙が、辺りを支配する。

改めて敵の強大さを伝えつつ、続けて激励の言葉を述べる。


司令「諸君らの任務は単純だ。敵を墜とし、仲間を生かす。・・・それだけだ。」

  「名誉も理想も、この戦場では二の次だと思ってほしい。」

  「操縦員に限らず、全員。要望があれば、できる限りすぐに、私に伝えてくれ。」

  「諸君らの命を預かる身として、最大限協力することをここに誓おう!」


当時としては珍しい、現場を気遣う言葉に、周りから盛大な拍手と歓喜の声が上がる。

その反応に安心しつつ、司令は言葉を続ける。


司令「諸君らの初陣予定は、AL/MI作戦。我々は、アリューシャン方面を担当する。」

  「寒冷地での戦闘になる。防寒など、決して準備を怠るな。」


アリューシャン列島。米国の飛び地、アラスカの大地の前にそびえる島々だ。

激戦は避けられないだろう。空気はかなり、引き締まっていた。


司令「諸君、生きて帰れ。生きて帰ってこそ、勝利は意味を持つ。・・・以上だ。」


司令の演説が終わり、全員が一斉に敬礼の姿勢を取った。

そしてその敬礼は、飛行隊長である岩井にも向いていた。


岩井(さて・・・作戦開始までに、こいつらを戦える部隊にしないとな。)


内心そう思いつつ、敬礼を終えて部下の方に振り返る。

およそ三十の翼が、岩井を見つめていた。不安と、期待を込めながら。


岩井「・・・やれやれ。こっちでもか。」


何度も見たその視線で、以前の部隊を思い出し、ため息をつく。


岩井「まあいいさ。また、鏡になればいいだけだ。」


新たなる仲間と共に、先へと進んでいくことになった。

-だがこの後、南方の地獄へと送られることを、まだ誰も知らない。

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