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第十六話 「 勝利への決定打 」 昭和十七年 九月

時は正午。曇天に紛れながら、ニューギニアを南北に遮る山脈を超えた。

陸攻隊48機を護衛する我々は今、敵要塞の上空を飛んでいる。

そんな中、第四部隊の外周索敵を超えてきた編隊がこちらに迫っていた。

・・・既に、補足されているとも知らずに。


岩井「・・・敵だな。数は12、双発となれば重戦か。」

こんかわ「大尉殿、よくここに居るって分かりましたね・・・」

岩井「空に長くいれば、嫌でも分かるようになる。抜かれるとすればここだからな。」


岩井の指示により、臨時編成された「遊撃部隊」。

ある程度機種を揃える為、中野隊・こんかわ隊と岩井の、合計9機で構成されている。

その眼前に見える敵機は、明らかに迎撃用と思われる双発重戦闘機だった。


こんかわ「大尉殿、あれが新型ですか・・・! 私が一番槍を!」

岩井「待て、まずは動きを見な。無暗に突っ込んでは相手の思う壺だ。」

中野「あっちも新型ですか・・・大丈夫ですかね・・・?」

岩井「何、やることは変わらん。叩き墜とすだけだ。」


そう会話をしながら、岩井はとある敵機を探していた。

そして見つけた。どの敵機よりも、微々たる差で最初に動く機体を。

-指揮官機。最優先撃墜目標である。


岩井「・・・よし、こんかわ少尉。行ってきな。」

こんかわ「はい!大尉殿!!」


現れたのは、敵の新型機「P-38」。

こんかわ隊が先陣を切り、中野隊がしっかりと脇を固める。

対して岩井は単機、敵集団に飛び込む。

まるで見えているかのように、数多の敵弾をひらりと躱して急旋回。

離脱の時間も与えず後ろを取り、敵機は照準器の中心へ。


岩井「なるほど、こういう機体か。覚えておこう。」


そう呟き、岩井は引き金を引いた。一連射で新型機が火を噴く。


中野「以前も見ましたが・・・よく避けられますね・・・」

こんかわ「流石大尉殿です!」

岩井「目で見てからじゃ遅い。察する方が早いとは言っておこう。」


遊撃隊は敵の大半を瞬く間に撃墜し、残機は散り散りになって撤退していった。

一方その頃、第二次攻撃隊を護衛するFVたち第二部隊は、

六十機という圧倒的多数の敵に包囲されていた。


さと「ハリケーンとスピットファイア・・・なんか多すぎません!?」

エリンギ「上から少しずつ削ってはいますが、いかんせん数が・・・」

FV「せやな・・・ただ、陸攻隊から離れといてよかったわ。把握が楽やし。」

  「持久戦、あんま好きじゃねぇんだけどなぁ・・・」


約3倍の敵機に対し、一撃離脱と格闘戦の連携で対抗する。

しかし物量に押され、味方の機体が次々と白煙を吹き始めた。


吉田「部隊長・・・よく冷静でいられますね・・・流石の実戦経験です。」

FV「いんや?あの人さえ来りゃ勝てるって訳よ。それまでうちらは耐えればいい。」


そして、送信状態を解除して呟く。


FV「・・・まあ、このアンテナじゃ待つしかねぇんだけどな。」


一瞬だけ見たそのアンテナは、半分から上が無くなっていた。

同時刻、第一次攻撃隊を率いるグリムは、第二部隊の窮状を察知していた。


グリム「・・・おかしいな。敵がそろそろ来ると思ったんだけど。」

   「FVさーん、そっち敵来てます?」


―反応がない。無線の故障か、最悪は・・・


グリム「雪奈大尉!無線取れますか!」

岩井「どうした。」

グリム「FVさんの反応がありません!」

岩井「・・・分かった。今行く。」


少なくとも空では、死は平等に訪れる。ド素人にも、熟練にも。

援護に向かおうとしたグリムだったが、とあるものを見つけてしまう。


グリム「第一部隊も向かいま・・・ちっ、ここで来るか!」

   「すみません!敵編隊発見、交戦します!」

岩井「時間は稼いでくれ。様子を見てから向かう。」

グリム「了解!」


戦時緊急出力、解放。圧力計が真っ赤に振り切れ、エンジン温度が上昇していく。

第二部隊の戦域に到着した遊撃部隊がまず目にしたのは、

被弾覚悟で僚機の援護に行く、FVの姿だった。


岩井「目の前ばかり見てるから、こうなるんだよ。」


敵機に対しそう零し、死角からスピットファイアを狙い撃つ。

放たれた20粍機銃が一撃で主翼をもぎ取り、FVの危機を寸前で救う。


FV「大尉!助かりましたわ!アンテナがイカレポンチでしてねぇ。へっへっへ。」

岩井「無事でよかった。そうだな・・・」

  「そのまま上空を維持しろ。私は下の小隊を片付ける。」

FV「了解・・・ん?小隊?」


FVの返答を待たずして、岩井は単機、小隊へと突っ込んだ。

敵が散開する暇さえ与えず、神速の「ひねり込み」で一機を墜とす。

混乱する二機目が射線に入った瞬間には、既に引き金を引いている。


岩井「・・・無警戒。論外だな。」


まさに完封。一分にも満たない時間で、敵の一小隊が海面へと消えた。

その間に、左側に展開した中野隊とこんかわ隊も、

冷静かつ果敢な攻撃で、それぞれ二機ずつを仕留める。

そして何より、FVらの奮闘もあり・・・第二部隊の危機を完全に脱させた。


さと「20粍、残弾18・・・ギリギリでしたね・・・」

エリンギ「・・・でも、味方はだいぶ残りましたね。死ぬかと思った・・・」

    「早く寝たいとは言いましたけど、永遠の眠りは聞いてないですよ・・・」

こんかわ「・・・意外と余裕ありそうですね。」

エリンギ「まあ、機体のおかげで小隊全機、被弾ほぼないですからね。」

    「・・・それより部隊長ですよ。戻れます?」


皆が心配するのも当然。FVの被弾状況は、割とギリギリだった。

慣れない新人をカバーするため、盾となって戦った代償は大きかった。

アンテナは半分が消し飛び、両翼の先端は欠け、三二型のようになっている。


FV「あぶねぇ・・・ゼロじゃなきゃ死んでたぞおい。機体に助けられたわ・・・」

  「まあ、安心しな。飛行に支障はねぇよ。」


すると、岩井のもとに通信が入る。


鏑木「401より飛行隊長、爆撃完了を確認しました。」

岩井「そうか、合流する。」


285隊が敵を釘付けにしている隙に、43機の一式陸攻隊が対空砲火を潜り抜けた。

投下された80番陸用爆弾は、ポートモレスビーの格納庫、燃料弾薬庫、整備場・・・

そして滑走路を、跡形もなく消し飛ばした。

-作戦成功だ。


岩井「全機、帰還の途につく。・・・損害を受けた機体を孤立させるな。」

  「爆撃は完了したが、帰投するまでが作戦だ。」

  「送り狼等に警戒しつつ、帰るぞ。・・・皆で。」


岩井の厳かな指示の下、夕焼けに染まり始めた空を飛ぶ。

幸いにも、各小隊長は全員健在。全体の損害も2割で済んだ。

しかし、失われた僚機や陸攻隊の空席を想い・・・無線は一時、静寂に包まれる。


グリム「・・・僕たち、やりましたね!」


その短くも長い沈黙を破ったのは、グリムだった。


FV「ですねぇ・・・いやぁ、お騒がせしやした。さーせん!」

グリム「心配したんですからね!?」

FV「助かる命は、多い方がいいっすから。」

鏑木「上から見ていましたが、壮絶な戦いぶりでしたもんね・・・」

  「援護に行きたくても、私が行ったところで戦えるわけもなく・・・」

岩井「・・・全員がそれぞれの仕事をしたから、今がある。」

  「基地は第三部隊が守ってくれている。さあ、帰ろうか。」


岩井のその言葉に、全員が安堵の表情を浮かべた。

285隊は、勝利の凱旋を告げるエンジンの咆哮を響かせながら、

ラバウルの地へと帰還していった。


翌日、その圧倒的軍事力・経済力で基地を直した米軍だったが・・・

いるはずの機体は、まだここにはいなかった。

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