第十五話 「 目指すは敵飛行場 」 昭和十七年 九月
現在の南方戦線における、米英豪の最大拠点。それが、ポートモレスビー。
パプアニューギニアの南東に位置する、不落の要塞だ。
地理的に、この地を支配することは「ほぼ不可能」と言われている。
・・・だが、無力化はできる。そう信じて、この作戦が決行された。
さと「珍しく、うちらも直掩なんですね?」
FV「直掩ってより間掩だな。」
「・・・鐘馗じゃ、直で届かねぇからよ。」
この作戦で、285隊に課された任務は「爆撃機の護衛」。
だが、エリンギ隊の鐘馗では届かない。しかし・・・置いて行く訳にはいかない。
そこで第二部隊は、先んじて前線飛行場のカンドリアンへと出立する。
エリンギ「・・・ん。エンジンの調子はよさそう。問題なしっと。」
「これなら、すぐ帰って寝られそうだ。」
こんかわ「これでよし、絶対大尉殿にいいとこ見せる!!!」
FV「あんまり張り切りすぎると、から回って師匠に怒られるぞ(笑)」
「んまあ、大尉ならちゃんと見てるだろうから安心しな。」
エリンギは自分で再確認しつつ、整備班から渡された点検要綱に署名する。
その隣では、こんかわが愛機の風防を磨きながら、鼻息荒く叫んでいた。
FV「んじゃグリムさん!お先っす!」
グリム「うん!後から行きますね!」
二人が笑顔で軽く挨拶をしたのち、第二部隊は離陸。
最後尾で離陸したFVは、機体を左右に振った後、南西の空へと旅立った。
そして翌日。駐機場で、グリムたちはとある人物を見かけた。
中野「・・・本当に私なんかが、新鋭機になんて乗っていいのでしょうか・・・」
そう呟きながら、不安そうに自身の機体を見つめている。
その手は、誰が見ても分かるほどに震えていた。
グリム「桜少尉、緊張してる? 珍しく顔が硬いよ?」
あまりに心配なので、すかさず声をかけた。
中野「・・・そうですね。これが私に扱いきれるか、どうも心配で・・・」
グリム「雪奈大尉が指名したんだし、きっと大丈夫だよ!」
ぺい「左様。いざとなれば援護しますぞ。」
おちょ「その為の部隊だしね。前衛は任せて!」
中野「・・・ありがとうございます!」
先輩たちの声掛けで、再び前を向く。
震えはすでに、微々たるものへとおさまっていた。
おちょ「・・・ゼロ戦三二型、自分も乗りたかったなぁ。」
ぺい「おちょ殿に任せたら、真っ先に突っ込む故心配ですな。」
グリム「一応新鋭機の初陣なんだから、堅実な桜少尉に任せようよ・・・」
おちょ「ギクッ、それはそう。ぐうの音も出ない・・・」
そんな話をしながら、朝礼台の前に並ぶ。
整列した操縦員たちの前に、山内司令が歩み出た。
傍らには岩井が、微動だにせず海を見つめて立っている。
―訓示。
司令「諸君。本日、我々はポートモレスビーという、敵の砦を討つ。」
「基地は戻せても、奴らだろうと人の命は戻せないはずだ!」
「それはお前たちも同じだ。帰ったら、必ず私に報告にこい!」
「必ず生きて戻り、このラバウルで再び酒を酌み交わそう。以上だ!」
一同「「「了解!!」」」
短い、だが魂を揺さぶる訓示が終わると同時に、
岩井が鮮やかな敬礼と共に前を向いた。
岩井「各機、搭乗。・・・戦場で会おう。」
訓示が終わり、各隊、各機のエンジンが轟々と唸りを上げ始めた。
決戦の時は、いよいよだ。
鏑木「誘導班、発進します。各機、我々の背中に続いてください。」
第四部隊長の鏑木中尉率いる、九七式艦上攻撃機4機が、
誘導灯を掲げるようにして滑走路へ向かう。
彼らが夜明けの空へ先陣を切って舞い上がると、それが号砲となった。
グリム「第一部隊、発進!」
グリムの飛燕を先頭に、中野の零戦三二型、
そして主力の零戦二一型・飛燕の編隊が、次々と重力から解き放たれていく。
最後に、一機の零戦二一型が滑走を始める。
彼女の機体は、まるで吸い込まれるように朝焼けの空へと溶け込んでいった。
岩井「これより全機、ポートモレスビーへ。」
「・・・邪魔する者は、すべて叩き墜とす。」
岩井の冷徹な、だが熱い意志を孕んだ声が無線に響き渡り、
285隊は、決戦の地へとその翼を向けた。




