第十三話 「 迎撃の切り札 」 昭和十七年 八月
ラバウル基地の片隅。そこにあったのは、翼端が切り落とされたような独特の形状。
そして零戦よりも一回り大きなエンジンカウルを持つ新型機。
二式単座戦闘機一型「鐘馗」がその姿を現した。
さと「翼が小さいな・・・これ、ちゃんと飛びますかね?」
岩井「ああ、これはだな・・・」
岩井の言葉を、やけにテンションの高い者が遮った。
エリンギ「インターセプター・・・インターセプターですよねこれ!!」
こんかわ「・・・はい?」
FV「迎撃機ってこった。ゼロや飛燕と違って、爆撃機を狩るための機体だな。」
司令「・・・それ故に、扱いが難しい。配備できる部隊も、限られていた機体だ。」
FV「し、司令!?お疲れ様っす!・・・いつの間に。」
急に現れた司令に、一同は直立して敬礼。司令も答礼を返す。
司令「たらい回しの結果、うちに回ってきたのだが・・・彼なら乗れそうだな。」
FV「乗せてみないと分からないっすけどねぇ。エリンギ少尉、どうよ?」
エリンギ「試験飛行いいんですか!?是非是非!」
こうして、エリンギは満面の笑みで操縦席に乗り込んだ。
離陸した「鐘馗」は、これまでの日本軍機とは一線を画す上昇能力を見せた。
スロットルを押し込むと、機体は弾かれたように高度を稼いでいく。
エリンギ「・・・おっ、速い。・・・これ、ゼロ戦の比じゃないですね!」
「旋回は・・・重いな。でも一度速度が乗れば、誰にも追いつけない。」
「司令!部隊長!これいいですよ!!」
声の弾む無線を聞きながら地上で見守る、司令や岩井、FVたちの前で、
鐘馗は矢のような一撃離脱の動きを繰り返す。
司令「上手く扱えているようで何よりだ。適任者で小隊を組ませよう。」
「ただし、問題は着陸だ。普段より高速での着陸となる。気をつけろよ。」
エリンギ「了解です!失速耐性が低いんですかね?気を付けまーす!」
さと「にしても凄い上昇力ですね。まるで空に吸い込まれていくみたいです。」
FV「こら、B-17相手なら最高のご馳走になるかもしれんな。(笑)」
さとが感嘆の声を漏らすと、FVもニヤリと笑った。その時だった。
遠くに、4発のエンジンを持つ機体が見えた。
エリンギ「あのー、東の方になんか1機いるんですが、味方ですかね?」
岩井「・・・噂をすればなんとやら。御馳走のお出ましだな。」
FV「ボケたわけじゃなんすけどね!?」
軽いボケを終えると、岩井は再び無表情に戻り、目の色が変わる。
岩井「分かっている。エリンギ少尉、そのまま迎撃しろ。私も至急向かう。」
「司令、出撃許可を。」
司令「緊急時だ、分かっているだろう。・・・行って来い。」
岩井「・・・だそうだ。先に墜としてくれてもいいぞ。」
エリンギ「あっはい。了解です。」
高高度から偵察を行う「空の要塞」B-17。並の戦闘機では上昇に時間がかかり、
逃げられることも多い相手だが・・・鐘馗にとっては格好の餌食だった。
エリンギは鐘馗の圧倒的な上昇力で、一気にB-17の上方へと回り込んだ。
エリンギ「逃げても無駄なんだよなぁ。こいつ速いから。」
「速度が出過ぎると舵が固まるから、これくらいにしておくか・・・」
エリンギが操縦桿を倒すと、鐘馗は重力に従い、弾丸となって急降下した。
B-17の防御銃座が火を噴くが、あまりの速度に照準が追いつかない。
そして、4門の機銃がB-17の主翼の付け根を正確に貫いた。
エリンギ「あ、これ混載なのか。弾道が違う・・・」
「直せるけど・・・勝手にいじると怒られそうだなぁ・・・」
たった一撃。たった一度のパスで、巨大な「空飛ぶ要塞」は炎を噴き、
バランスを崩してジャングルへと墜落していった。
着陸し、機体から降りてきたエリンギに、真っ先に駆け寄ったのはFVだった。
FV「・・・迎撃に特性有とは思ってたが、お前やるやん!その調子で頼むわ!」
エリンギ「あっはい。でも・・・着陸、怖かったです。」
いつものように、気だるげに答えるエリンギだったが、
その瞳には、新型機への確かな信頼が宿っていた。
岩井「試験の結果は上々だな。司令、どうだ?」
司令「・・・許可しよう。第二部隊第三小隊に、この『鐘馗』を正式に配備する。」
「兵站面も確認してきたが、問題なさそうだからな。」
司令の手元には、いつの間にか複数の書類があった。
エリンギ「ありがとうございます・・・!」
「これなら、敵が来るまでギリギリまで寝てても、間に合いそうですね!」
FV「起こすかは俺次第・・・なんてな!」
エリンギ「ちょっ、流石に自分で起きますって!」
岩井「ふっ、ほどほどにな。」
こうして、ラバウルの空に「鐘馗」という新たな翼が加わった。
第二部隊は、零戦と鐘馗を併せ持つ、鉄壁の防空部隊へと進化を遂げたのである。




