↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの悪役令嬢を救いたいだけなのに、いつの間にか神様になってました  作者: 櫻 美澪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

出会い2

今日は何話か更新する予定です!

目の前で起こっていることに、思考が停止した。

一瞬で、空腹が吹き飛ぶ。


だって――彼女が、生きている。

目の前に立って、私を見ている。


差し込んだ陽の光が薄桃色の髪を照らし、エメラルドグリーンの瞳がきらきらと輝いていた。


間違いない。

何度もゲーム画面で見てきた顔。

何度もイラストを眺めてきた、私の推し。


「…………」


え、尊い。


心臓が一気に鼓動を速める。

息をすることすら忘れそうになるほどの感動が、身体中を駆け巡った。


公式では幼少期の姿がほとんど公開されていなかった。

必死になってファンアートを探し回っていた、あの日々。

全てが報われたようだった。

まさか、こんな形で幼いリリアンに会えるなんて。

神様、ありがとう。


リリアンが不思議そうに首を傾げた。


「あなた、どうして私の名前を知っているの?」

「えっ」


しまった。

どう答えよう。

そんなことを考えるより先に――。


ぐぅぅぅぅ……。


盛大に、お腹が鳴った。


「…………」


「ふふっ」


リリアンが小さく笑う。

恥ずかしい。

でも、その笑顔が見えるなら安いもんだ。

いや、今はそれどころじゃない。


リリアンは手に持っていた鞄を探ると、中から一つの果実を取り出した。


「はい。これ、あげるわ」

「……ありがとうございます!」


私はそれを受け取ると、夢中で齧りついた。


しゃくり、と果肉が割れる。

口いっぱいに甘い果汁が広がった。


美味しい。

生き返る。


「おいしい?」

「はい! とっても!」

「よかった」


リリアンは嬉しそうに微笑んだ。

まじかわいい。


私は果実を食べ終えると、姿勢を正した。


「果物を分けてくださり、ありがとうございました」

「いいえ。大したことはしていないわ」

「そんなことはありません」


私はリリアンの瞳をまっすぐ見つめた。


「あなたがいなければ、私はきっと助からなかったと思います」


それは本心だった。

空腹で動けなくなっていた私に、彼女が手を差し伸べてくれた。

そのおかげで、今こうして生きている。


「お願いがあります」

「なあに?」

「私と、お友達になってくれませんか?」


勢いよく頭を下げる。


ゲームの中で、リリアンは理不尽な罪を着せられ、幸せとは程遠い結末を迎える。

あんな未来は、絶対に認めたくない。

もし私が彼女のそばにいれば、運命を変えられるかもしれない。

それに何より、私は彼女と一緒にいたい。


私だけは、絶対に裏切らない。

彼女を傷つけるようなことはしない。


それに――。


私は、彼女と一緒にいたい。

そんな決意を胸に、返事を待った。


しばらく沈黙が続く。


やがて、恐る恐る顔を上げると、リリアンはぱっと笑顔を咲かせた。


「うん!」


そして、小さな手を私に差し出した。


「私もあなたとお友達になりたいわ!」

「……!」


私はその手を握った。

温かい。

画面越しではない、本物のリリアンの手だ。


その事実に、また胸がいっぱいになる。


するとリリアンは、私の手を引いて走り出した。


「こっちよ!」

「えっ、ちょっと待ってーー!」


突然のことに驚きながらも、私は必死についていく。

推しと手を繋いでいる。

今の私には、それだけで十分すぎるほど幸せだった。


しばらく走ると、リリアンが足を止めた。


その先には、仕立ての良い服を身にまとった中年の男性が立っていた。

隣には護衛らしき男性もいる。


「お父様!」


リリアンが声を上げる。

すると、中年の男性は驚いたように振り返った。


「リリー! どこに行っていたんだ!」


彼は駆け寄ってくると、リリアンを抱き上げた。


「怪我はないか? どこか痛いところは? 怖い思いはしなかったか?」


先ほどまで険しい顔をしていたのに、リリアンを抱き上げた途端、表情が緩んでいる。


……なるほど。

かなりの親バカとみた。


そんなことを考えていると、リリアンが嬉しそうに声を上げた。


「お父様! 私、誕生日プレゼントに欲しいものを見つけたの!」

「おお、何を見つけたんだい?」

「この子!」


リリアンが私を指差した。


「…………」


男性と護衛の視線が、一斉に私へ向けられる。


泥だらけの身体。

ぼろぼろの服。

ぼさぼさの髪。


どう見ても、誕生日プレゼントにふさわしい姿ではない。

男性は困惑したように眉を寄せた。


「リリー、この子は……?」

「私のお友達よ!」


リリアンは満面の笑みで答えた。


「この子が欲しいの!」

「だが、リリー。この子にも家族がいるかもしれないだろう?」

「でも……」


リリアンの表情が曇る。


「この子、お腹が空いて動けなくなっていたの。私が果物をあげたら、とっても嬉しそうに食べてくれたのよ」


そう言って、リリアンは私の手をぎゅっと握った。


「だから、放っておけないわ」


リリアンはまっすぐ父親を見つめた。

その言葉を聞いた男性は、私の姿を改めて見る。


泥に汚れた服。

痩せ細った身体。

そして、今にも倒れそうなほど弱々しい足取り。


やがて、彼は小さく息を吐いた。


「……分かった。まずはこの子を屋敷に連れて帰ろう。身元を調べるのは、その後だ」

「本当!?」

「ああ。ただし、勝手に連れ回してはいけないよ」

「うん!」


どうやら、かなり気に入られてしまったらしい。

そのままリリアンは父親に抱きつき、嬉しそうにはしゃいでいる。

父親は満足そうな表情でリリアンを撫でると、こちらに問いかけた。


「……君、名前は?」

「え?」


そういえば、まだ名乗っていなかった。

けれど、今の私には自分の名前すら、はっきりと思い出せない。

どう答えればいいのか迷っていると、彼は私の様子を見てそれ以上問い詰めては来なかった。


リリアンがこちらへ駆け寄ってくる。


「行きましょう!」


その笑顔を見ていると、不思議と不安が和らいだ。

こうして私は、公爵家に保護されることになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。