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NEW・アルカディア!  作者: 祝 冴八
[DAY5]確執への抱擁
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5-K 達成! はじめの一歩の半分こ!

5秒で分かる前回のあらすじ

「おはようございます! これは知らない天井です!」


「——はぁっ……⁉︎ な、何事⁉︎」


 急激な状況の変化に、私は飛び起きた。辺りを見渡そうとしたが、邪魔が入った。


「…………ぁうっ⁉︎」


 右肩の、先ほどメノスに切られた傷が痛んだのだ。咄嗟に左手で押さえようとした時、そこに包帯が巻かれていることがわかった。


「ああ、ごめん、まだ痛むんだね」


 ふと、側で聞き覚えのある声が聞こえた。

 左を見ると、エルがいた。


「おはよう……は違うか。お疲れ様、アルカ」


 目が合うと、彼は目を細めてそう言った。

 私の眠っていたであろうベッドの上で、頬杖をついている。恐らく——私が起き上がるのを、ここで待ってくれていたのかもしれない。


「う、うん……えっと、ここは……一体?」


 私は改めて、辺りを見渡した。長方形の、六畳ほどの部屋であった。壁は白い凸凹したビニールクロスで、床は土足で歩ける木製のフローリングである。もちろん、エルも土足でこの部屋にいる。

 ここまで来るとなんだか、ザ・外国って感じがするなぁ。


「天使軍基地——の中の、個室部屋だよ。丁度、誰も使ってない部屋があったから、急いでベッドメイキングだけはしたんだけど」


 なるほど。たしかに、私の座っているベッド以外に家具は無いし、窓にカーテンも無い。それでも新築の様な輝きがあるわけではないため、本当に予備用としての部屋だったことが見て取れる。


「ありがとう、エル…………って、あっ! そうだ! ねえ、メノスは……! メノスはどうなった⁉︎」

「……ああ……大丈夫。あの悪魔のことなら」


 彼は柔らかい表情を崩さず、背筋を伸ばして左手をベッドから下ろした。


「あの悪魔は逃げたんだ。落下しながら、自分のゲートを開いてね。恐らく、彼らの基地の、僕らに見えない場所に移動したみたいでさ」

「そ、そっか…………へへへ……よかった……」


 私はほっと胸を撫で下ろした。あのままメノスが、地面にまで落ちてしまったらどうしようかと、心配だったのだ。

 そんな私の様子を聞くや否や、エルは、私にギリギリ聞こえるほどの、小さなため息をした。


「アルカ……そうだなぁ、聞きたいことは山ほどあるんだけど——うん、まずは……あのね」


 彼は目を泳がせながら何度か頷くと、次に私の目を真っ直ぐに見つめて、威圧感の「い」の字もない無いほほ笑みで言葉を続けた。


「アルカ、君が気絶する前——アイツと戦っていた時、なにか魔法を使ったよね?」

「魔法……? あ、あのビームみたいなやつ!」

「そう。あれはどうやってやったの?」


 エルは、まるで幼児を相手にしているかの様に、そして何かを諭すように、ゆっくりと相槌を打ってくる。

 そんな彼の態度に、少しドギマギしながらも、私は間違ったことを伝えないよう、慎重に記憶を巡らせる。


「ええっと……マニさんが事前にエフェークオスを渡してくれてたから、それを使って……」

「うん」

「それで……呪文を言って……魔法陣が出たから……魔法陣に書いてあった呪文をまた言って……」

「……そう。そうだよね」


 彼はまた、意味深に頷く。


「その魔法陣を出す呪文は、どうやって知ったの?」

「えっ? ……ああ……そっか」


 私は、エルが本来私に最初から聞きたかったことが、今の質問だったのだと察した。

 急にそれを質問したら、私が混乱するだろうと思って、会話を遠回りさせたに違いない。

 なんて優しさの塊なんだ……彼に『あなたはマジで優しいで賞』を授与したいところである。


「えっとね、エルやマニちゃんが使ってたのを、そのまま真似したんだ! メノスに勝つなら、それをやるべきだと思って」


 ほう、と彼が声音を変えたので、私は慌てて言い訳を付け足した。


「だ、だって、見た目にも、つ、強そうだったし! いつか使いたいと思ってたから、メモもしてたからさ、強そうだから覚えてたから……!」

「…………」


 突然、エルが口元に手を当てた。

 まずい。私は何か彼の気に障ることを——⁉︎



「————くっ……」



「——ふふっ、あははっ! そうかそうか、そうだったのかぁ〜」



 ——私の予想は外れ、彼は腹を抱えて吹き出した。

 苦しそうに笑いを堪えながらも、彼は話を進めようとした。


「ははっ……かわいいなぁ、アルカは。僕らの真似をしてたんだね」

「かっ……⁉︎ かわいくないっ‼︎」


 なんなんだ。何故笑い出すんだ、何故かわいいとか言うんだ! わからん……私にはエルがなんにもわからないぞ……⁉︎


「アルカ、あの魔法はね、『ゾーニ』って言う、かなり難しい魔法なんだよ。天使軍人が死ぬほど訓練して、ようやく使えるようなものなんだ」

「え、ええっ⁉︎ そそそそ、そんなばかな⁉︎」


 私は驚愕して後退ろうとしたら、自分の上にかけてあった毛布に絡まって後方にこけた。

 それを見て、エルは更に目を細めて笑う。


「しかもね、『ゾーニ』を使うには、ものすごく体力と魔力を消費するんだ。アルカもそうだけど、訓練をしてない人なら、一回使うだけで必ず気絶しちゃうんだよ」

「ま、マジすか」


 自分が行ったのがそんな高度な技だったなんて、考えもしなかった。時々こうやって無闇に行動するのが、私のよくないトコロなんだよなぁ。


「……なるほど、じゃあさっき私は、その、ゾーニ? を使ったから、今まで気を失ってたんだね……」

「そういうことなんだよ」

「そっかぁ……でも、訓練すれば何回も打てるようになれる?」

「もちろん、なれるよ。今度教えてあげるね」


 エルはそう頷いた。と思えば、ベッドの、私の腰近くに左手を置いた。

 一瞬驚いたが、エルのことだ。なにか気遣いか何かだろうと思い、何も抵抗をしないでいた。

 すると、彼は次に、声の調子を変えて口を開いた。


「……それとさ」


 彼はぐいっと私に顔を近づけた。その時、ふわりと石鹸の匂いがした。……戦闘の後、シャワーでも浴びたのだろう。

 あまりにも近かったので少し恥ずかしかったが、エルの顔をよく見てみると、何故か不機嫌そうな表情をしていた。

 そんな彼は、眉を潜めて言葉を続けた。


「……なんでアイツとハグしてたの」


 彼の口がへの字に変化した。

 メノスとハグ……うん、記憶にある。あれがなんでって言われたら、そりゃあ理由は一つしかないよね。


「……和解したかったから」


 私は少し強めに言った。たぶん、エルやマニさんは戦うことが仕事だから、和解する選択肢をあまり受け入れてもらえないと思ったのだ。

 私は彼の顎のあたりを見つめて、彼の返答を静かに待とうとした。


「むぅ、そうじゃなくて」


 彼は頬を膨らませた。


「僕がアルカにハグしたら、いつも力加減ができなくてすぐ終わっちゃうじゃん……あんなにハグできてていいなぁって思って」


 …………


 …………


 …………


 …………え?


「エ、エル? 何に怒ってるの……?」

「怒ってないよ。別に……ただ、僕もちょっとだけしたいなって思って」


 彼はどんどんこちらへ接近してくる。


「そそ、そうだったんだね! 私でよければいつでもするよ!」

「本当……?」


 私は後退る。

 まずい。こいつ、本当にハグしようとしてるわ。そして次の瞬間には、私の肋骨が絶対に無事ではなくなっているに違いない。


 刹那、私の頭の中に解決策が舞い込んできたので、その行動に出ることにした。


「——えいっ!」


 私は、思いっきりエルの胸部に飛び込み、力いっぱいに彼を抱きしめた。


「…………?」


 彼は動きを止めた。私の力で彼を後方へ倒すことはできなかったが、彼自身が上体を起こし、私が突進してきた衝撃を軽減させた。

 しかし、それ以上お互いの身体は動かなくなったので、おそらくエルは、私の唐突な行動に困惑しているのだと察した。


「ほら、エル。私がいっぱい、こうやってぎゅーってすればいいんだよ」


 私が顔を上げると、目を丸くしてぽかんとするエルの表情が確認できる。


「私がこうやってぎゅーってしたら、エルは私を支えるだけでいいんだよ。そうすれば、普通にハグできるでしょ!」


 彼は目を丸くして硬直していた。しかし私が笑いかけて見せると、すぐに微笑を返してくれた。


「……そっか、僕が全部やらなくてよかったんだね」

「ちょっとその解釈はよくわからないけど、多分そういうことだと思う……」


 彼は、先ほど私に言われた通り、私の背中に手を置くだけにしてくれた。


「……へへ、エルはやっぱりあったかいね……ねぇ、エル……」

「……ん?」


 私は彼の胸に顔を埋めた。


「……メノスもさ、あったかかったよ。百合ちゃんも。ぎゅってしてみると、やっぱりあったかいんだよ。マニちゃんも、朝ぎゅってしてくれた時、あったかかったんだよ」

「……そう」


「…………」

「…………」


「悪魔も、天使も、人間も、みんなあったかいんだよ。私、知ってるんだ」


 私は、エルの身体をより一層強く抱き締めた。

 すると、彼は上体をかがめ、また私の顎が彼の肩に乗るようにしてから、私の頭を支えた。


「……そうか……そうなんだね」


 彼は私の頭をゆっくり撫でる。私自身も、どんな気持ちになっていいのかわからなくなり、ただされるがままになることにした。


「————そうだってさ、マニ?」


 ……えっ?


 私が反射的に顔を上げると、部屋の出入り口のドアが勝手に開いた……のではなく、外からマニさんがドアを開け、この部屋に入ってきた。


「マ、マニさんいつからそこに⁉︎」

「……エルさんが変なこと(・・・・)言ってた辺りですかね。ハグがどうだの……」


 マニさんはため息をつき、開いたドアの縁に凭れ(もたれ)かかった。どこか嫌気がさしたような、そんな目で私たちを見つめて口を開く。


「……アルカさんの目線からすれば、あの悪魔と和解しようとするのもわからなくもありません。ですが……私達天使軍は、アルカディアの活動——廃獣が暴れることから、天界と人間界を守らなければならないんです。それには、アルカディアと干渉して失敗を繰り返す暇はなく、『戦争』を選ぶ必要があります」

「で、でもっ……!」

「……アルカさんは軍に入っていないので、本当は戦争(それ)を行う義務は無いです……が」


 すると、マニさんは私ではなく、エルをキリッと睨みつけた。


「エルさんが何故アルカさんをそんなに戦場に出させたがるのか、私にはわかりません」


 エルは私から身体を離し、余裕のある表情で言葉を返す。


「……あれ? マニだって望んでいることでしょ。むしろ僕が君の考えを知りたいよ。天使軍に求めているハズのものを、どうして自ら手離しに行くのさ?」


 マニさんの顔が曇る。

 どういうことだ? 私を戦場に出すことをマニさんが望んでいる?

 ……今までの話を整理すれば、『私を戦いに出す』ということは、彼らにとって、『和解を望む』ことになるってことだから……つまりは……


「————私だって、望みを捨てたわけじゃないです……でも、でも……」



「でも、子供には一才分からない、大人の事情があるんです! エルさんみたいな子供には‼ わからないことが! たくさん——!」


 彼女は喉を締めるように叫んだ。そして、その顔を見せないようにか、すぐさま部屋を出て行ってしまった。

 そうすれば、また二人だけの静かな空間が出来上がる。

 エルが、彼女の居た場所を見つめながら声を溢した。


「……アルカ。マニはね、すごく真面目なんだよ……その分、一度縛られるとなかなか型から外れることができないんだ。だからいつもああやって、自分で自分の首を締めるんだ」

「……? ごめん、どういうこと……?」


 私が首を傾げると、彼はいつも通りの笑顔で振り向いた。


「まあ、とりあえず話を要約すると……マニは本当は、アルカと仲良くしたいんだって」

「ほ……ほう……?」


 すると、エルはまた私の頭を撫で始める。む、やはりエルの中で私は子ども扱いなのか……


「でも、天界では天使と悪魔が対立してる……っていうのは、前にも話したと思うけど。マニは、その天界では良しとされないアルカっていう悪魔を、なかなか受け入れられないみたいなんだ」

「あ…………」


 私の脳裏に、今までの出来事がフラッシュバックした。

 マニさんはいつも私が自立できるようになんでも教えてくれるし、家事も全部やってくれるし、すごく優しい人だとは思ってた……けど、確かに少し、優しく対応する時にぎこちなさが見えていた気がする。


「……私、まずマニさんと和解しなきゃ!」

「そうだね。きっとそれくらいだったら、アルカならすぐできると思うよ」


 彼は私の頭を撫でつつ、自分の顔が見えないように、私の顔を胸に沈めた。



「——アルカは革命を起こせる。天界に、人間界に。そして……僕たちの生きる道にもね」



 少年は、今でさえ見えない希望を、見つめ続けていた。



今回でDAY5は終了です! DAY6の更新をお楽しみに!


……と、ブラウザを閉じる前に!この下には感想欄がございます!

感想を書いていっていただけたら、とても励みになります!


もし感想を送っていただいちゃったりなんだったりすれば、もうそれはそれは飛び上がって泣いて喜びますとも!!!!!!

ぜひよろしくおねがい致します!

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