6-A 快晴! 油断大敵文化祭!
5秒で分かる前章のあらすじ
「びゃー! なんか強そうな新キャラ出た! アルカも新しいワザ覚えたよアサリ!」
「皆さん! そろそろ文化祭が始まりますね! 明日からどんどん準備を進めていきまっっっしょう‼︎」
我らが担任、熱血な男教師がノリノリでホームルームを締め始めた。
「文化祭」というワードを聞くだけで、クラスのみんながざわつき出す。
しかしその中で、私だけはあまり乗り気でなくて、黙り込んでいた。なぜなら————
「うちのクラスの出し物は、『お化け屋敷』ですね!」
*
「……ええっ⁉︎ お前まだホラー系だめなの⁉︎」
放課後、私を指差して、ゲラゲラと笑っているのは幼なじみのすぐるである。ぶん殴りたい、この笑顔。
そんな彼の向かいに座っていた私、白雨アルカは、膨れっ面になって腕を組み、椅子の背もたれに寄り掛かった。
「ま、まだって言われたって、怖いもんは怖いんだよ!」
「悪い悪い、んでもさ、文化祭は入る側じゃなくて作る側じゃん? そんな怖がる必要なんてないだろ……ふふっ」
彼は笑いを堪えようと口を抑えていたようだが、一旦噴き出してしまうとそのまま大笑いにまで発展した。そこまで笑わなくていいじゃないか!
今の会話の通り、私はおばけが怖い。
——大した理由はない。ただ昔から本当にホラーというものが、映画であろうがゲームであろうが苦手なのである! ゾンビ系も怪しいくらいだ……
「いいよねぇ、ホラー耐性ある人は! おばけ屋敷も楽しめるもんね! 私には地獄でしかないよ‼︎」
「……アルカ、当日は一緒に入ろう。私も苦手だから」
「百合、お前こないだバイオフェザード余裕でやってただろうが」
すぐるが百合ちゃんを小突く。百合ちゃんは小突かれたことよりも、小突かれて猫耳カチューシャがズレたことの方が嫌だったらしい。無言ですぐるを睨んで髪を整えた。
「……そんで鬱穂。聞いてるのに寝たふりしてないでくれよ」
「…………」
すぐるは、隣で机に突っ伏していた鬱穂くんの背中を揺さぶった。彼は小刻みに震えている。いや笑っとんのかい。
「まあ、アルカも鬱穂もさ、まあホラー苦手だとしてもよ? 今年の文化祭ってのは一生に一回しかないんだからさ、楽しもうぜ。準備期間含めさ」
「……この……陽キャが……」
「やっぱ起きてたのかよ」
鬱穂くんはムクリと上体をあげると、机の上で左手上腕を垂直に立てた。
「おれは……そういうの好まないから……3人で仲良くやってよ……」
「それはないだろ鬱穂〜、お前も含めていつメンだろうが」
いつからそんな、と言いたそうに彼は眉を寄せた。
話を戻すと、確かに自分のクラスがお化け屋敷をやるというのなら、準備はするべきだと思う。
「うーん……と、とりあえず! 私たちが指示されているのはお化け衣装の製作だよね!それをまずはそれを考えよう!」
「空元気かよ」
鬱穂くんの髪をワシャワシャしていたすぐるがツッコミを入れる。
おばけ衣装の製作、というのは、役割分担の会議の時、私が勝手にやりたくて手を挙げたものである。お化けなんて白い布でも被っておけばいいと思うが、まあそういう布の調達やその加工が中心の役割である。
続いてすぐると百合ちゃんが挙手してくれた。鬱穂くんも、なんだか嫌々挙げていたのでチームに加わったのだ。他にも数人が衣装制作係になっていたはずだが、放課後になるとみんなそそくさと教室を出て行ってしまった。
私は腕を組んで、今やるべきことを口頭で整理してみる。
「えっと……出すお化けは今日の会議で決まってたから、それを作ればいいと思うけど……」
「……材料調達が必要。買いに行こう」
百合ちゃんが、何故かいつもより目を輝かせて言った。
「お、おお、そうだね! 布がなければ始まらないZE!」
「あれ? アルカ、そもそもお前裁縫なんてできたのか?」
「ふふふ……よくぞ聞いてくれた! 私にかかれば、靴下の穴くらいは塞げるぞ!」
ちなみに今履いてる靴下も、8回くらい当て布が縫い付けてある。
「……つまり、服を作ったことはないと」
「そ、そうとも言う……」
「じゃあ、裁師を探さないとな。材料だけあっても作れなきゃなんもならんぞ」
「むむむ……」
私は口に手を当てて考えこむ。
「まあそもそもそんなに凝った作りにしなくてもいいと思うけど……すぐるや百合ちゃんはなんか作れないの?」
「作れないよ……そもそも俺、文化祭は当日参加型でいいと思ってる」
「わ、私も……音楽以外は疎くて……」
すぐるの準備放棄発言は置いといて、百合ちゃんは手先が器用なので、即戦力にはなりそうだと思っていた。彼女はピアノを得意とする。ピアノで「会話」する、という話は——またいつか言う機会があるだろう。
「じゃあ……鬱穂は?」
「ムリ。妹の道具……ならあったかな……」
「え⁉︎ 鬱穂くんって妹居たの⁉︎」
「……以上、現場からお伝えしました……」
待て待て待てェイ⁉︎ 聞きたすぎる事があるんだが⁉︎ ……って、もう寝息を立てている⁉︎⁉︎
「……本当に変なヤツだな」
「鬱穂くん、なんでいつも寝てるんだろうね……?」
「知らん。いつも目にクマ作ってるし、寝不足なんだろ」
ふーん、と横目で流しつつ、また腕を組み直して考え始めてみる。何か……誰かこの難関を越えられる者はいないのか……⁉︎ 特にお裁縫できる人が……!
「——話は聞きましてよ!」
「立ち聞きなのだ!」
ガラガラガラッ! と教室の扉が勢いよく開かれた。
「伏見さん、それは言い方が悪くってよ……」
入ってきたのは、ウェーブした金髪の……関城千薔薇さん、そして銀髪ツインテールの伏見那智さんだ。
勢いに驚いて、私は衝動的に訊ねてしまう。
「ど、どうしたの二人とも⁉︎」
「だから、さっきのおまえたちの話を聞いていたって事なのだ!」
伏見さんは、余った袖を垂らし、腕で私たちを指した。
そのあと、一呼吸置いてから、関城さんが口を開く。
「あなたたち、衣装制作のスキルを持っている者をお探しなのでしょう?」
「え、あ、まあ……」
私が小さめにうなずくと、誇ったような顔で彼女は続ける。
「私にかかれば、ぁあぁあらゆるジャンル、ぁあらゆる衣装におけるプロ中のプロフェッショナルなデザイナーを雇うことができますことよ!」
ちょっと鼻につく喋り方をした彼女の背後に、いつの間にやらメイド服を着た女性たちがずらりと並んでいた。どうやら彼女らが関城さんの言う「デザイナー」のようだ。
……いや、てかどっから来たんだよ‼︎
「……えっと……それはちょっとなんか悪い気が……」
「悪くはありませんわ白雨さん。プロに任せれば、世界中のあらゆる衣装に勝る衣装を手に入れられるのですわ! オーッホッホッホ!」
「悪くない話なのだー!」
関城さんの高笑いに伏見さんのセリフは掻き消された。しかし本人は全く気にしていないご様子。楽しそうで何よりだ。
「うーん、でも関城さん。それ、別途費用がかかるじゃん」
「べ、べっとひよう?」
「うん。うちの文化祭はね、学校から配られた『予算』を使って物を買わなきゃいけないって、さっきホームルームで先生が言ってたよ」
ちなみに、ひとクラス一万円配られている。その中でも衣装制作用の予算は三千円程度である。
「そ、そんなルールが……確かに、通りで皆さんが質素な物を作っていると思いましたわ……」
車椅子に肘をつき、関城さんは露骨に落ち込んでしまった。どうしよう、なにかフォローしてあげないと。
「あとほら、少ない予算でも自分たちで自力で作るっていうのもさ、楽しいと思うし!」
「自力で……?」
「そう! 自力で! 暗中模索! 楽しいよ!」
私は衝動的に、目一杯両腕を挙げた。万歳のような、あるいは伸びのようなポーズをしたままぴょんぴょん跳ねて見せる。ちなみにこの行動に一切の意味はない。ただそうしたかっただけである。
すると、ずっと関城さんの車椅子に手をかけていた伏見さんも手を挙げた。
「そうなのだ! 楽しそうなのだ! 関城サマもやるのだ!」
それを見た関城さんは、笑顔を取り戻した——が、一瞬どこか躊躇う素振りを見せた。見逃さなかった私は、咄嗟に彼女に声をかける。
「関城さん……? 関城さんも、衣装係だったよね。一緒にやろう?」
「私……その…………お裁縫は、趣味でしかやりませんの」
彼女は、自分の制服の胸部を握って、何かに怖がるような、それでも立ち向かうように声を張った。
「一般人の私では、半端な物しか作れませんわ……やっぱり、ここはプロの力を借りるしか……」
「関城サマ」
そんな彼女の方に、肌色の見えない手を置いたのは伏見さんだった。
「関城サマはすごいのだ! 関城サマは、脚がなくても、いつも胸を張って教室に来るのだ! 誰よりも自信満々で!」
「ふ、伏見さん……?」
「ワタシ、そんな関城サマを初めて見た時、すっごくかっこいいと思ったのだ!」
「突然どうしまして⁉︎」
袖が千切れそうなほど、大袈裟な身振り手振りで関城さんの目の前を舞うツインテールの少女。彼女の糸目の奥は、その時、輝いていたような気がする。
「関城サマはぷろには負けないのだ。ぷろに負けない物を関城サマは持っているのだ! だから、一緒にやるのだ!」
えへん、と、伏見さんは何故か誇らしげに手を腰にやった。
「伏見さん……ええ、そうですわね! 私、やりますわ!」
そうして関城さんは、再び笑顔を取り戻した。『千薔薇』の名に似合う、自信が咲き誇っている顔だ。
……なんだろう、私たち、この二人に置いていかれている気がする。
そんな我々の心情はよそに、関城さんはガッツポーズをしてこう言った。
「では! そうと決まれば、皆様、明日私の家にお招きいたしますわ!」
突然の彼女の提案に、この場にいた全員が驚いた。
「ええーっ⁉︎ せ、関城さんの家に⁉︎ いいの⁉」
「もちろんですわ! そうと決まれば……」
関城さんは器用に車椅子のタイヤを回し、私たちから背を向けるように方向回転する。
「私は早速帰って準備致しますわーっ! ああ、一度に4人も新しいお友達がお家にいらっしゃるなんて、きっとお父様びっくりされますわね……! オーッホッホッホッホ!」
彼女はわざと私たちに聞こえるように大きな声でそう言い、口に手を当て高笑いした。それを聞いたみんなは、お互いの顔を見合わせざわざわと確認し始めた。
「4人……? って、まさかおれも含まれてる……?」
「当たり前だろ鬱穂。俺たち4人でハピネスセットじゃないか」
「うわだっさ」
「これ……私も行ってよかったのかな……」
「もちろんだよ百合ちゃん! 一緒に行こう!」
こうして、私たちの休日は関城さんの家に押し掛けることが、半強制的に確定した。
「——ははは! みんなで関城サマの家! 楽しみなのだ〜!」




