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NEW・アルカディア!  作者: 祝 冴八
[DAY6]天翔ける歌声
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43/64

6-A 快晴! 油断大敵文化祭!

5秒で分かる前章のあらすじ

「びゃー! なんか強そうな新キャラ出た! アルカも新しいワザ覚えたよアサリ!」

「皆さん! そろそろ文化祭が始まりますね! 明日からどんどん準備を進めていきまっっっしょう‼︎」


 我らが担任、熱血な男教師がノリノリでホームルームを締め始めた。


 「文化祭」というワードを聞くだけで、クラスのみんながざわつき出す。


 しかしその中で、私だけはあまり乗り気でなくて、黙り込んでいた。なぜなら————


「うちのクラスの出し物は、『お化け屋敷』ですね!」



「……ええっ⁉︎ お前まだホラー系だめなの⁉︎」


 放課後、私を指差して、ゲラゲラと笑っているのは幼なじみのすぐるである。ぶん殴りたい、この笑顔。

 そんな彼の向かいに座っていた私、白雨アルカは、膨れっ面になって腕を組み、椅子の背もたれに寄り掛かった。


「ま、まだって言われたって、怖いもんは怖いんだよ!」

「悪い悪い、んでもさ、文化祭は入る側じゃなくて作る側じゃん? そんな怖がる必要なんてないだろ……ふふっ」


 彼は笑いを堪えようと口を抑えていたようだが、一旦噴き出してしまうとそのまま大笑いにまで発展した。そこまで笑わなくていいじゃないか!


 今の会話の通り、私はおばけが怖い。

 ——大した理由はない。ただ昔から本当にホラーというものが、映画であろうがゲームであろうが苦手なのである! ゾンビ系も怪しいくらいだ……


「いいよねぇ、ホラー耐性ある人は! おばけ屋敷も楽しめるもんね! 私には地獄でしかないよ‼︎」

「……アルカ、当日は一緒に入ろう。私も苦手だから」

「百合、お前こないだバイオフェザード余裕でやってただろうが」


 すぐるが百合ちゃんを小突く。百合ちゃんは小突かれたことよりも、小突かれて猫耳カチューシャがズレたことの方が嫌だったらしい。無言ですぐるを睨んで髪を整えた。


「……そんで鬱穂。聞いてるのに寝たふりしてないでくれよ」

「…………」


 すぐるは、隣で机に突っ伏していた鬱穂くんの背中を揺さぶった。彼は小刻みに震えている。いや笑っとんのかい。


「まあ、アルカも鬱穂もさ、まあホラー苦手だとしてもよ? 今年の文化祭ってのは一生に一回しかないんだからさ、楽しもうぜ。準備期間含めさ」

「……この……陽キャが……」

「やっぱ起きてたのかよ」


 鬱穂くんはムクリと上体をあげると、机の上で左手上腕を垂直に立てた。


「おれは……そういうの好まないから……3人で仲良くやってよ……」

「それはないだろ鬱穂〜、お前も含めていつメンだろうが」


 いつからそんな、と言いたそうに彼は眉を寄せた。

 話を戻すと、確かに自分のクラスがお化け屋敷をやるというのなら、準備はするべきだと思う。


「うーん……と、とりあえず! 私たちが指示されているのはお化け衣装の製作だよね!それをまずはそれを考えよう!」

「空元気かよ」


 鬱穂くんの髪をワシャワシャしていたすぐるがツッコミを入れる。

 おばけ衣装の製作、というのは、役割分担の会議の時、私が勝手にやりたくて手を挙げたものである。お化けなんて白い布でも被っておけばいいと思うが、まあそういう布の調達やその加工が中心の役割である。

 続いてすぐると百合ちゃんが挙手してくれた。鬱穂くんも、なんだか嫌々挙げていたのでチームに加わったのだ。他にも数人が衣装制作係になっていたはずだが、放課後になるとみんなそそくさと教室を出て行ってしまった。


 私は腕を組んで、今やるべきことを口頭で整理してみる。


「えっと……出すお化けは今日の会議で決まってたから、それを作ればいいと思うけど……」

「……材料調達が必要。買いに行こう」


 百合ちゃんが、何故かいつもより目を輝かせて言った。


「お、おお、そうだね! 布がなければ始まらないZE!」

「あれ? アルカ、そもそもお前裁縫なんてできたのか?」

「ふふふ……よくぞ聞いてくれた! 私にかかれば、靴下の穴くらいは塞げるぞ!」


ちなみに今履いてる靴下も、8回くらい当て布が縫い付けてある。


「……つまり、服を作ったことはないと」

「そ、そうとも言う……」

「じゃあ、裁師を探さないとな。材料だけあっても作れなきゃなんもならんぞ」

「むむむ……」


 私は口に手を当てて考えこむ。


「まあそもそもそんなに凝った作りにしなくてもいいと思うけど……すぐるや百合ちゃんはなんか作れないの?」

「作れないよ……そもそも俺、文化祭は当日参加型でいいと思ってる」

「わ、私も……音楽以外は疎くて……」


 すぐるの準備放棄発言は置いといて、百合ちゃんは手先が器用なので、即戦力にはなりそうだと思っていた。彼女はピアノを得意とする。ピアノで「会話」する、という話は——またいつか言う機会があるだろう。


「じゃあ……鬱穂は?」

「ムリ。妹の道具……ならあったかな……」

「え⁉︎ 鬱穂くんって妹居たの⁉︎」

「……以上、現場からお伝えしました……」


 待て待て待てェイ⁉︎ 聞きたすぎる事があるんだが⁉︎ ……って、もう寝息を立てている⁉︎⁉︎


「……本当に変なヤツだな」

「鬱穂くん、なんでいつも寝てるんだろうね……?」

「知らん。いつも目にクマ作ってるし、寝不足なんだろ」


 ふーん、と横目で流しつつ、また腕を組み直して考え始めてみる。何か……誰かこの難関を越えられる者はいないのか……⁉︎ 特にお裁縫できる人が……!



「——話は聞きましてよ!」

「立ち聞きなのだ!」



 ガラガラガラッ! と教室の扉が勢いよく開かれた。


「伏見さん、それは言い方が悪くってよ……」


 入ってきたのは、ウェーブした金髪の……関城千薔薇(せきじょうちばら)さん、そして銀髪ツインテールの伏見那智(ふしみなち)さんだ。


挿絵(By みてみん)


 勢いに驚いて、私は衝動的に訊ねてしまう。


「ど、どうしたの二人とも⁉︎」

「だから、さっきのおまえたちの話を聞いていたって事なのだ!」


 伏見さんは、余った袖を垂らし、腕で私たちを指した。

 そのあと、一呼吸置いてから、関城さんが口を開く。


「あなたたち、衣装制作のスキルを持っている者をお探しなのでしょう?」

「え、あ、まあ……」


 私が小さめにうなずくと、誇ったような顔で彼女は続ける。


(わたくし)にかかれば、ぁあぁあらゆるジャンル、ぁあらゆる衣装におけるプロ中のプロフェッショナルなデザイナーを雇うことができますことよ!」


 ちょっと鼻につく喋り方をした彼女の背後に、いつの間にやらメイド服を着た女性たちがずらりと並んでいた。どうやら彼女らが関城さんの言う「デザイナー」のようだ。

 ……いや、てかどっから来たんだよ‼︎


「……えっと……それはちょっとなんか悪い気が……」

「悪くはありませんわ白雨さん。プロに任せれば、世界中のあらゆる衣装に勝る衣装を手に入れられるのですわ! オーッホッホッホ!」

「悪くない話なのだー!」


 関城さんの高笑いに伏見さんのセリフは掻き消された。しかし本人は全く気にしていないご様子。楽しそうで何よりだ。


「うーん、でも関城さん。それ、別途費用がかかるじゃん」

「べ、べっとひよう?」

「うん。うちの文化祭はね、学校から配られた『予算』を使って物を買わなきゃいけないって、さっきホームルームで先生が言ってたよ」


 ちなみに、ひとクラス一万円配られている。その中でも衣装制作用の予算は三千円程度である。


「そ、そんなルールが……確かに、通りで皆さんが質素な物を作っていると思いましたわ……」


 車椅子に肘をつき、関城さんは露骨に落ち込んでしまった。どうしよう、なにかフォローしてあげないと。


「あとほら、少ない予算でも自分たちで自力で作るっていうのもさ、楽しいと思うし!」

「自力で……?」

「そう! 自力で! 暗中模索! 楽しいよ!」


 私は衝動的に、目一杯両腕を挙げた。万歳のような、あるいは伸びのようなポーズをしたままぴょんぴょん跳ねて見せる。ちなみにこの行動に一切の意味はない。ただそうしたかっただけである。

 すると、ずっと関城さんの車椅子に手をかけていた伏見さんも手を挙げた。


「そうなのだ! 楽しそうなのだ! 関城サマもやるのだ!」


 それを見た関城さんは、笑顔を取り戻した——が、一瞬どこか躊躇う素振りを見せた。見逃さなかった私は、咄嗟に彼女に声をかける。


「関城さん……? 関城さんも、衣装係だったよね。一緒にやろう?」

「私……その…………お裁縫は、趣味でしかやりませんの」


 彼女は、自分の制服の胸部を握って、何かに怖がるような、それでも立ち向かうように声を張った。


「一般人の私では、半端な物しか作れませんわ……やっぱり、ここはプロの力を借りるしか……」

「関城サマ」


 そんな彼女の方に、肌色の見えない手を置いたのは伏見さんだった。


「関城サマはすごいのだ! 関城サマは、脚がなくても、いつも胸を張って教室に来るのだ! 誰よりも自信満々で!」

「ふ、伏見さん……?」

「ワタシ、そんな関城サマを初めて見た時、すっごくかっこいいと思ったのだ!」

「突然どうしまして⁉︎」


 袖が千切れそうなほど、大袈裟な身振り手振りで関城さんの目の前を舞うツインテールの少女。彼女の糸目の奥は、その時、輝いていたような気がする。


「関城サマはぷろ(・・)には負けないのだ。ぷろに負けない物を関城サマは持っているのだ! だから、一緒にやるのだ!」


 えへん、と、伏見さんは何故か誇らしげに手を腰にやった。


「伏見さん……ええ、そうですわね! 私、やりますわ!」


 そうして関城さんは、再び笑顔を取り戻した。『千薔薇』の名に似合う、自信が咲き誇っている顔だ。


 ……なんだろう、私たち、この二人に置いていかれている気がする。


 そんな我々の心情はよそに、関城さんはガッツポーズをしてこう言った。


「では! そうと決まれば、皆様、明日私の家にお招きいたしますわ!」


 突然の彼女の提案に、この場にいた全員が驚いた。


「ええーっ⁉︎ せ、関城さんの家に⁉︎ いいの⁉」

「もちろんですわ! そうと決まれば……」


 関城さんは器用に車椅子のタイヤを回し、私たちから背を向けるように方向回転する。


「私は早速帰って準備致しますわーっ! ああ、一度に4人も新しいお友達がお家にいらっしゃるなんて、きっとお父様びっくりされますわね……! オーッホッホッホッホ!」


 彼女はわざと私たちに聞こえるように大きな声でそう言い、口に手を当て高笑いした。それを聞いたみんなは、お互いの顔を見合わせざわざわと確認し始めた。


「4人……? って、まさかおれも含まれてる……?」

「当たり前だろ鬱穂。俺たち4人でハピネスセットじゃないか」

「うわだっさ」

「これ……私も行ってよかったのかな……」

「もちろんだよ百合ちゃん! 一緒に行こう!」


 こうして、私たちの休日は関城さんの家に押し掛けることが、半強制的に確定した。


「——ははは! みんなで関城サマの家! 楽しみなのだ〜!」


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