6-B 只今! 忘れ物はありません!
5秒で分かる前回のあらすじ
「かーもんぺいびー関城~家!(字余り)」
「……ってことで、今度関城さんの家に遊びに行くの!」
夕方。私は、居間で本を読むエルの横で彼に話しかけていた。
「そうなんだ。よかったねアルカ」
「うん! すっごい楽しみ!」
彼は私の頭を撫でてきた。大きくて暖かい手が私を包む。うむ……なんだろう、なんだかだんだん気持ち良くて脱力感が……
「……ぅえへへ……」
「————アルカさ〜ん!」
どこからともなく声が聞こえたと同時に私の身体がビクッと跳ね上がった。辺りを見渡してみると、部屋の空中に光の渦が現れており、その中からマニさんが顔を出した。
「アルカさん! 今すぐ渡したい物が……よいしょ」
ひらりとスカートを翻し、土足でフローリングマットの上に降り立った彼女は、私に左手を突き出す。土足! 土足で! ここは日本家屋ですよ!
「じゃじゃーん! 見てください! 簡易版エフェークオスです!」
そんな彼女が手を開き、その中にあったのは腕時計型の電子端末だった。
「少し前から、アルカさん用のエフェークオスを製造してもらうようにソレイルさんにお願いしていたんです。それがついにできました!」
「わ、私用……⁉︎」
「そうですよ。はい、どうぞ」
マニさんは丁寧に両手でこちらへ渡してきた。受け取ってみると、その瞬間その腕時計エフェークオスの画面になにか文字が浮かんだが、すぐにまた消えてしまった。
「——今後、そのエフェークオスは、アルカさんの魔力に反応して自動的に起動します。あとはまあ……いろいろやってくれます」
「説明が非常に雑!」
「通常のエフェークオスには劣りますが、便利なので、基本的にいつも装備しておいてくださいね」
彼女は私の目を見て、柔らかく微笑んだ。
私は、自分のエフェークオスをよく観察してみた。時計で言う時計の部分に、液晶画面がつけられている。メタルバンドが高級感や近未来感を漂わせる、最高にイケてるデザインだ。
私、携帯電話すら所有物に無いのに、こんな高そうなものをもらってよかったんだろうか……まあでも、天使軍の中で一番しっかりしてそうなマニさんがくれたのだし、心配する必要はないだろう。
「……で、お二人とも何のお話をされていたんですか?」
*
「ええっ⁉︎ お金持ちのお友達の家に⁉︎」
私がかくかくしかじかと説明すると、マニさんは目を丸くして驚いた。そのあと、ガシッと私の肩を掴み、早口で話し出す。
「いいですかアルカさん。お友達の家に行くときはきちんとした服装で行ってくださいね、いつものTシャツ以外ありますか? あと帰るのはあまり遅くなっちゃいけませんよ。それに人の家の冷蔵庫勝手に開けちゃいけませんよ、あと、それからそれから……」
「マニ、お節介がすぎるよ」
エルが苦笑いしながら彼女を見る。つつかれた彼女は、一瞬恥ずかしそうに口を閉ざし、言葉に迷い始めた。
「ええっと……じゃあ……ううんと……そ、そうだ!」
彼女はそう言って顔を上げると、また私の肩を掴んだ。
「アルカさんが気がついているかどうか知りませんが、最近、アルカさんの学校の周りで、悪魔の魔力が観測されているんです」
「悪魔の魔力?」
私は小首を傾げた。魔力……って、そもそも観測できるモノなんだ? それで、私の学校の周りって……え?
「恐らくですが……ひょんなことでその悪魔と鉢合わせる可能性があります。気をつけてください」
「な、なんてこったい……!」
「もしその悪魔がアルカディアであれば、この前のラティメノスように高い戦闘能力を持っている場合があります。それでそれで……」
マニさんはうんうん、と頷きながら私に充分に念を押してきた。しかも、彼女のお節介はまだまだ続くようだったので、私は咄嗟に口を挟むことにした。
「ええっと、マニさんありがと! マニさんって本当にお母さんみたいだね!」
「えっ……いや、私はそんな……」
「私は本の中とか、すぐる達のお母さんしか見たことないけど、でもそんな感じ、する!」
私はエフェークオスを落とさないように慎重に握りしめて、マニさんに微笑みかけた。
すると、彼女はむむむ、と考え込んだと思いきや、ワープホールを出して帰ろうとしてしまった。
「ちょちょちょちょ! マニさんどこへ⁉︎」
「……く、く……」
「く?」
「く、くれぐれも気をつけてください。悪魔の事もですが、私もエルさんも、まだ貴方を許したわけではないんですからね!」
彼女は、頬を赤くして、それなのに顔をしかめたまま、光の向こうへと消えていってしまった。
「——僕も巻き込まないでほしいなぁ。アルカ、今のは気にしなくていいからね」
エルは私に微笑を向けると、すぐに本を読み直し始めた。
マニさん、やっぱり私が悪魔であることに対して心証が悪いのかな。
「……アルカ?」
エルが、こちらを覗いた。
それに気づいて、私は苦笑いを作ろうとしたが、なんだかうまく作れなかった気がする。
「私、どうやったらマニさんと仲直りできるかな」
すると、彼は躊躇なく目を細めて笑った。
「大丈夫、もう少しでマニが心を開くと思うよ。それに、仲が割れてるわけじゃなくて、一度もくっついたことがないから少し時間がかかるだけ」
彼は私に静かに近づき、頭を撫でてきた。
「心配しなくていいよ。アルカはそのままが一番強いから」
それは、いつかの父親の言葉と重なった。
『アルカは、0.1パーセントの奇跡さえ起こせる子なんだ』
ずっと思ってたけど、「0.1パーセント」ってなんの数字なんだろう。
まあそれは置いといて。私は彼の言葉を聞いて、胸がスッと軽くなったのを感じた。
「……うん! ありがとうエル! もう少しがんばってみる!」
私がニッと笑うと、彼も笑みを浮かべた。
さて、では私はマニさんに言われた通り、服でも探そうか。中学校に入ってから制服や体操服ばかり着ていて、まともな服を着た試しがないので、あるかどうか不安だけど。
私は未来に希望を抱きながら、星が眠るまでの時を過ごした。




