第九話 一の太刀
剣とは何か。
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それは技術だ。
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才能ではない。
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奇跡でもない。
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ただ。
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繰り返し。
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繰り返し。
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繰り返し。
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人間が積み上げた研鑽の結晶。
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だからこそ。
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剣士は誇る。
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己が積み上げた時間を。
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◆
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夕陽が差し込む剣道場。
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鬼塚刀真は静かに竹刀を構えた。
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正眼。
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美しい構えだった。
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一切の無駄がない。
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学生剣道日本一。
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三連覇。
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その称号に相応しい姿。
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対する神崎蓮。
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握っている竹刀は。
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恐らく人生で初めて持つ竹刀だった。
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剛が思わず笑う。
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「おいおい……」
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「マジで今日初めて持ったんじゃねぇだろうな」
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蓮は首を傾げる。
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「そうだけど」
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「剣道って難しいな」
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鬼塚が小さく笑った。
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「そうか」
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竹刀を握り直す。
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「なら安心した」
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その瞳には敵意はない。
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ただ。
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覚悟だけがあった。
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「俺は白河とは親友だった」
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静かな声。
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「将棋と剣道」
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「ジャンルは違ったが」
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「切磋琢磨してきた」
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竹刀が夕陽を反射する。
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「打ち込ませてもらうよ」
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「神崎くん」
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踏み込み。
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速い。
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剛が息を呑む。
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面。
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胴。
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小手。
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面。
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小手。
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胴。
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連撃。
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まるで豪雨だった。
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竹刀の軌道が見えない。
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高校日本一。
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十年以上。
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剣だけを磨いてきた男。
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その技術の結晶。
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だが。
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当たらない。
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蓮は受けない。
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打ち返さない。
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避ける。
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ただそれだけ。
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面。
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半歩。
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胴。
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半歩。
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小手。
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半歩。
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鬼塚の瞳が揺れる。
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(何だ……)
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(これは)
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NOESIS起動。
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対象解析。
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鬼塚刀真。
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全国高校剣道三連覇。
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剣道特化。
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踏み込み速度。
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重心移動。
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肩関節角度。
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足裏荷重。
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筋収縮率。
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未来軌道算出。
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解析完了。
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◆
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「そうか」
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蓮が呟く。
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「もう分かった」
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鬼塚が止まる。
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「……何?」
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蓮が竹刀を構える。
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人生で初めて。
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だが。
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迷いがなかった。
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「さぁ」
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青い光。
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右目が静かに輝く。
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「いつでも打ち込んでこい」
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◆
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鬼塚の全身に悪寒が走る。
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初めてだった。
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試合で。
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恐怖を感じたのは。
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◆
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「なら」
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鬼塚が踏み込む。
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人生最高の踏み込み。
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人生最高の面。
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全国三連覇。
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その全てを込めた一撃。
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竹刀が走る。
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空気を裂く。
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そして。
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外れる。
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紙一重。
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蓮は半歩だけ下がっていた。
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ほんの数センチ。
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それだけ。
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だが。
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届かない。
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鬼塚は理解した。
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(技術では)
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(届かない)
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◆
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次の瞬間。
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蓮が動く。
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小手。
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面。
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胴。
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突き。
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一瞬。
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本当に一瞬だった。
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鬼塚の身体が止まる。
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膝が床につく。
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竹刀が落ちる。
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静寂。
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誰も声を出せない。
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剛ですら。
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言葉を失っていた。
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「おい……」
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「嘘だろ……」
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◆
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鬼塚は立とうとした。
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まだ終われない。
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まだ。
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剣道に人生を捧げてきた。
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負けるわけにはいかない。
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その時。
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肩に手が置かれた。
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天城煌だった。
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「やめておけ」
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鬼塚が振り返る。
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「離せ」
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煌は静かだった。
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怒りもない。
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憐れみもない。
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ただ。
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事実を告げる。
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「これ以上は」
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夕陽が差し込む。
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「剣道じゃない」
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沈黙。
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「お前の負けだ」
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◆
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鬼塚は初めて理解した。
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目の前にいる二人。
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神崎蓮。
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天城煌。
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そのどちらも。
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自分の知る人間ではない。
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長い沈黙の後。
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鬼塚が竹刀を拾う。
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ゆっくりと。
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蓮を見る。
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「神崎」
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その声に。
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敗北の悔しさはなかった。
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ただ。
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純粋な疑問だけがあった。
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「お前は何なんだ」
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◆
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蓮は少し考える。
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そして。
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本当に分からないような顔で答えた。
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「さあ」
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夜風が吹く。
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右目の青が消える。
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「俺もまだ知らない」
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その日。
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学生剣道界最強の男は敗れた。
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だが。
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鬼塚刀真は折れなかった。
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白河智史と同じように。
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彼もまた。
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世界が広いことを知っただけだった。
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そして。
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天城煌だけが。
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遠くで小さく笑っていた。
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「面白くなってきたな」




