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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
NOESIS覚醒編
9/19

第九話  一の太刀


剣とは何か。



それは技術だ。



才能ではない。



奇跡でもない。



ただ。



繰り返し。



繰り返し。



繰り返し。



人間が積み上げた研鑽の結晶。



だからこそ。



剣士は誇る。



己が積み上げた時間を。





夕陽が差し込む剣道場。



鬼塚刀真は静かに竹刀を構えた。



正眼。



美しい構えだった。



一切の無駄がない。



学生剣道日本一。



三連覇。



その称号に相応しい姿。



対する神崎蓮。



握っている竹刀は。



恐らく人生で初めて持つ竹刀だった。



剛が思わず笑う。



「おいおい……」



「マジで今日初めて持ったんじゃねぇだろうな」



蓮は首を傾げる。



「そうだけど」



「剣道って難しいな」



鬼塚が小さく笑った。



「そうか」



竹刀を握り直す。



「なら安心した」



その瞳には敵意はない。



ただ。



覚悟だけがあった。



「俺は白河とは親友だった」



静かな声。



「将棋と剣道」



「ジャンルは違ったが」



「切磋琢磨してきた」



竹刀が夕陽を反射する。



「打ち込ませてもらうよ」



「神崎くん」





踏み込み。



速い。



剛が息を呑む。



面。



胴。



小手。



面。



小手。



胴。



連撃。



まるで豪雨だった。



竹刀の軌道が見えない。



高校日本一。



十年以上。



剣だけを磨いてきた男。



その技術の結晶。



だが。



当たらない。





蓮は受けない。



打ち返さない。



避ける。



ただそれだけ。



面。



半歩。



胴。



半歩。



小手。



半歩。



鬼塚の瞳が揺れる。



(何だ……)



(これは)





NOESIS起動。



対象解析。



鬼塚刀真。



全国高校剣道三連覇。



剣道特化。



踏み込み速度。



重心移動。



肩関節角度。



足裏荷重。



筋収縮率。



未来軌道算出。



解析完了。





「そうか」



蓮が呟く。



「もう分かった」



鬼塚が止まる。



「……何?」



蓮が竹刀を構える。



人生で初めて。



だが。



迷いがなかった。



「さぁ」



青い光。



右目が静かに輝く。



「いつでも打ち込んでこい」





鬼塚の全身に悪寒が走る。



初めてだった。



試合で。



恐怖を感じたのは。





「なら」



鬼塚が踏み込む。



人生最高の踏み込み。



人生最高の面。



全国三連覇。



その全てを込めた一撃。



竹刀が走る。



空気を裂く。



そして。



外れる。





紙一重。



蓮は半歩だけ下がっていた。



ほんの数センチ。



それだけ。



だが。



届かない。



鬼塚は理解した。



(技術では)



(届かない)





次の瞬間。



蓮が動く。



小手。



面。



胴。



突き。



一瞬。



本当に一瞬だった。



鬼塚の身体が止まる。



膝が床につく。



竹刀が落ちる。



静寂。





誰も声を出せない。



剛ですら。



言葉を失っていた。



「おい……」



「嘘だろ……」





鬼塚は立とうとした。



まだ終われない。



まだ。



剣道に人生を捧げてきた。



負けるわけにはいかない。



その時。



肩に手が置かれた。



天城煌だった。



「やめておけ」



鬼塚が振り返る。



「離せ」



煌は静かだった。



怒りもない。



憐れみもない。



ただ。



事実を告げる。



「これ以上は」



夕陽が差し込む。



「剣道じゃない」



沈黙。



「お前の負けだ」





鬼塚は初めて理解した。



目の前にいる二人。



神崎蓮。



天城煌。



そのどちらも。



自分の知る人間ではない。





長い沈黙の後。



鬼塚が竹刀を拾う。



ゆっくりと。



蓮を見る。



「神崎」



その声に。



敗北の悔しさはなかった。



ただ。



純粋な疑問だけがあった。



「お前は何なんだ」





蓮は少し考える。



そして。



本当に分からないような顔で答えた。



「さあ」



夜風が吹く。



右目の青が消える。



「俺もまだ知らない」





その日。



学生剣道界最強の男は敗れた。



だが。



鬼塚刀真は折れなかった。



白河智史と同じように。



彼もまた。



世界が広いことを知っただけだった。



そして。



天城煌だけが。



遠くで小さく笑っていた。



「面白くなってきたな」



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