第八話 剣の王
人には。
生まれながらにして持つ才能がある。
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努力では届かない領域。
訓練では辿り着けない場所。
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それを人は天才と呼ぶ。
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だが。
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天才にも種類がある。
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知の天才。
技の天才。
肉体の天才。
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そして。
それら全てを観測する者。
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神崎蓮は静かに空を見上げた。
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放課後。
月乃瀬高校。
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体育館裏。
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数人の男子生徒が騒いでいた。
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「見ろよ」
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「鬼塚先輩だ」
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視線の先。
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竹刀を肩に担ぐ一人の男子。
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鬼塚刀真。
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高校三年。
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全国高校剣道選手権。
3連覇。
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剣道一家の跡取り。
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学生剣道界の絶対王者。
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歩くだけで周囲が道を開ける。
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そんな存在だった。
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剛が顔をしかめる。
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「あいつか」
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珍しく真面目な顔だった。
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「知ってるの?」
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澄華が聞く。
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「有名人だ」
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剛が答える。
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「あいつの竹刀はヤバい」
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「本気で死ぬかと思った」
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蓮は興味深そうに見る。
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「そんなに強いのか」
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剛は笑った。
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「白河より怖ぇよ」
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鬼塚の周囲には数人の部員がいた。
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全員が剣道経験者。
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身体も大きい。
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そして。
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敵意を隠していなかった。
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「お前が神崎蓮か」
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鬼塚が言う。
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低い声だった。
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「白河を壊したらしいな」
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蓮は首を傾げる。
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「壊してない」
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「勝負しただけだ」
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その瞬間。
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周囲の空気が変わる。
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部員達が前へ出た。
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「調子に乗るなよ」
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「名人を泣かせた天才くん」
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「まずは俺たちが相手してやる」
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蓮が一歩前へ出る。
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だが。
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肩を掴まれた。
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振り返る。
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天城煌だった。
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銀色の髪が風に揺れる。
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無表情。
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ただ静かだった。
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「神崎」
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煌が言う。
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「君は本命だけ見ていればいい」
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部員達を見る。
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五人。
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六人。
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七人。
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そして。
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ほんの少しだけ笑った。
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「お手並み拝見といこうか」
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次の瞬間。
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終わった。
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誰も動きを見ていない。
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一人目。
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地面。
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二人目。
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地面。
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三人目。
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地面。
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四人目。
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地面。
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五人目。
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地面。
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竹刀が宙を舞う。
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悲鳴。
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衝撃音。
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沈黙。
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そして。
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立っているのは。
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天城煌だけだった。
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素手。
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無傷。
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呼吸一つ乱れていない。
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剛が口を開ける。
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「……は?」
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澄華も固まっていた。
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(なに今の……)
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(見えなかった)
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煌は振り返る。
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「終わったよ」
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まるで。
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掃除でも終えたみたいに。
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鬼塚刀真だけが笑っていた。
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「面白い」
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竹刀を握る。
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「なら」
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ゆっくり構える。
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「俺が相手だ」
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蓮も前へ出る。
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右目が微かに青く光る。
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NOESIS起動。
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対象解析。
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鬼塚刀真。
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全国三連覇。
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剣道特化。
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踏み込み速度。
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重心移動。
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筋繊維収縮率。
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反応速度。
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解析開始。
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鬼塚の瞳が細くなる。
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「なるほど」
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初めてだった。
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見られている。
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そんな感覚。
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剣道家としてではない。
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もっと深い場所。
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存在そのものを。
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解析されている。
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遠くで。
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天城煌だけが笑った。
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「なるほど」
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誰にも聞こえない声。
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「神崎は強いんじゃない」
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夕陽が差し込む。
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「おかしいんだ」
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鬼塚刀真。
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学生剣道界最強。
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神崎蓮。
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知の極致。
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そして。
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天城煌。
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肉体の極致。
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三人の運命が。
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今。
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交差する。
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