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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
NOESIS覚醒編
10/18

第十話  白銀の瞳


満月の夜は好きだった。



夜が最も深く、美しく澄む時間。



人の願いが月へと届きそうになる時間。



月乃瀬神社。



参拝客の姿もない境内。



澄み切った夜気。



木々を揺らす風の音。



そして。



一本の矢。



ヒュッ。



乾いた音と共に矢が飛ぶ。



真ん中。



命中。



続けて二本。



三本。



四本。



外れない。





境内の奥。



八方向へ配置された的。



その中心。



月乃瀬澄華が立っていた。



弓を引く。



放つ。



引く。



放つ。



まるで舞だった。



流れるような所作。



そして。



最後の一射。



八枚全ての的が中心を射抜かれる。



静寂。



澄華が小さく息を吐いた。



「よし」



満足そうに微笑む。



「今夜の稽古も順調順調」



弓を降ろす。



片付けようとした。



その時。



止まる。



風が変わった。





(……いる)



一人。



二人。



三人。



違う。



もっと。



五。



六。



七。



八。



境内の外。



木々の向こう。



複数の気配。



澄華は少しだけ首を傾げた。



「こんな時間に参拝?」



優しく笑う。



「感心ね」





木陰から男が現れる。



高校生くらい。



長身。



黒の狩衣を現代風に崩したような服装。



背には巨大な和弓。



鋭い眼差し。



そして。



異様な自信。



男は笑った。



「さすがだな」



ゆっくり歩いてくる。



「弓道日本一は伊達じゃないらしい」



澄華は静かに見つめる。



「どちら様?」



男が名乗る。



「那須悠一」



風が吹く。



「那須家当主代理」



「本当の日本一の弓使いの一族だ」





澄華は微笑んだ。



「それで?」



首を傾げる。



「みんなで必勝祈願?」



後ろの男達を見る。



那須悠一は笑った。



「違う」



声が低くなる。



「徐福長老がお前の持つ八咫鏡を欲しがってる」



初めて。



澄華の瞳が細くなった。



「徐福?」



知らない名前。



だが。



嫌な響きだった。



「生死は問わないそうだ」





沈黙。



満月の光が境内を照らす。



そして。



澄華は笑った。



「そう」



一歩下がる。



次の瞬間。



姿が消えた。





森。



月乃瀬神社の裏山。



那須家の男達が駆ける。



「追え!」



「近い!」



「逃がすな!」



那須悠一は歩いていた。



焦らない。



何かがおかしい。



そんな予感だけがあった。





木々が揺れる。



静寂。



誰もいない。



その時。



月光が鋭く瞬いた。





ヒュッ。



一本。



二本。



三本。



四本。



五本。



六本。



七本。



八本。



矢が降る。



天から。





悲鳴。



男達の右肩へ。



正確に。



一切の狂いなく。



矢が突き刺さる。



「がぁぁぁっ!!」



「肩が!!」



「腕が!!」



武器が落ちる。



戦意が消える。





那須悠一だけが飛び退いた。



矢が頬を掠める。



赤い線。



血が流れる。



沈黙。



そして。



木の上。



月乃瀬澄華が立っていた。



白銀の瞳。



月光を宿したような神秘的な輝き。



八咫鏡。



起動。



「安心して」



静かな声。



「急所は外してるから」



優しく微笑む。



「一ヶ月もすれば弓も引けるわ」





那須悠一は笑った。



怒りではない。



歓喜だった。



「なるほど」



「八人同時射抜きか」



肩を震わせる。



「面白い」



澄華の表情が初めて変わる。



この男。



恐怖していない。





那須悠一が背中へ手を伸ばす。



巨大な和弓。



常識外れの存在感。



木々がざわめく。



空気が軋む。



「なら」



ゆっくりと弓を持ち上げる。



「こちらも本気でいこう」



澄華の瞳が揺れた。



その弓。



ただの弓じゃない。





那須悠一は笑う。



「我が那須家に伝わる特級呪具」



満月の光が差し込む。



森が静まる。



「与一の弓」



世界が変わる。



月乃瀬澄華は理解した。



この戦いは。



弓道じゃない。



神話だ。





白銀の瞳が輝く。



与一の弓が唸る。



そして。



二人の天才が。



森の奥で対峙する。



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