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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
最終章 ー呪いと祈りの果てにー
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第九話 祈りの集まり

「見つけた」


神崎蓮の青い瞳が。


徐福の胸元を捉えていた。


人の魂と。


黒龍の呪い。


その二つをつなぐ、一本の黒い線。


二千年間。


誰にも見つけられなかった接続点。


徐福の背後で、黒龍が咆哮する。


「小僧ォォォッ!」


黒い衝撃が放たれた。


煌が草薙剣で斬り裂き。


澄華が白銀の結界を重ねる。


その時。


戦場の後方から、聞き慣れた声が響いた。


「いやぁ、すまんなぁ」


扇を片手に。


安倍天明が戻ってきた。


その後ろには。


籠真名美。


「ちょっと、謎解きに行っとったわ」


天明は戦場を見渡す。


赤鬼。


弁慶。


鵺。


牛鬼。


がしゃどくろ。


黒い瘴気に満ちた神崎神社跡。


「ほんで」


扇を開いた。


「謎は、すべて解けた」


徐福の顔から、笑みが消える。


天明はゆっくりと前へ出た。


「ようやく見つけたで」


「徐福」


金色の五芒星が。


その両目の奥で回転している。


「あんたが二千年」


「歴史の裏へ隠してきたもんをな」


「貴様……」


徐福が天明を睨む。


「どこまで思い出した」


「さあなぁ」


天明は笑う。


「ワシの記憶、えらい散らかっとるから」


そして。


蓮へ顔を向けた。


「神崎ちゃん」


「接続点は分かるか?」


蓮は頷く。


「うん」


右目から伸びる青い情報線が。


徐福の胸を指し示す。


「黒龍と徐福は」


「ここでつながってる」


天明の口元が上がった。


「よっしゃ」


扇を閉じる。


「そこに、とっておきの秘術をかける」


天明は両手を組んだ。


指を複雑に絡ませ。


見たことのない印を結ぶ。


「ただし」


「詠唱に時間がかかる」


背後の十六氏族へ声を張り上げた。


「守りは頼むで!」


天明の足元に。


巨大な五芒星が広がった。


石畳の亀裂を越え。


焼け落ちた鳥居を越え。


神崎神社跡の全域を覆っていく。


上空。


雲の向こうに。


丸い光の円環が現れた。


徐福の瞳が見開かれる。


「馬鹿な……!」


初めて。


その声に、明確な焦りが混じった。


「なぜ、その術を知っている!」


「晴明!」


「貴様すら、知らぬはずだ!」


天明は答えない。


目を閉じ。


印を結び続ける。


徐福が振り返った。


「ものども!」


怒号が戦場を揺らす。


「あの術を止めるのだ!」


百鬼夜行が。


一斉に動いた。


鵺が夜空から急降下する。


牛鬼が千の坂東武者を押し退ける。


がしゃどくろが、天明へ巨大な腕を伸ばす。


弁慶が薙刀を構え。


赤鬼が両剣薙刀を回転させる。


「通すな!」


春日鎮臣が叫ぶ。


白鹿から飛び降り。


弁慶へ真正面から拳を叩き込む。


玉置岩戸が大地を殴り。


隆起した岩壁が、がしゃどくろの腕を受け止めた。


賀茂雷玄が扇を振るい。


鵺の前へ雷の結界を展開する。


平将門が大太刀を掲げる。


「天明を守れ!」


「一歩たりとも、通すでない!」


千の坂東武者が。


天明を中心に円陣を組んだ。


槍。


刀。


弓。


妖の群れが押し寄せるたび。


人の壁が、それを押し返す。


響香と剛は徐福の進路を塞ぎ。


煌は赤鬼の両剣薙刀を受け止める。


澄華は天明の周囲へ白銀の結界を張った。


天明は印を解かない。


額から汗が落ちる。


「十六氏族のみんな!」


声を振り絞る。


「自分らの土地にある祈りを!」


「全部、ここへつないでくれ!」


十六氏族が応える。


京都。


奈良。


出雲。


諏訪。


丹後。


熊野。


それぞれの土地に残された祈りが。


細い光となって夜空へ昇り始める。


だが。


まだ弱い。


光はばらばらで。


円環へ届く前に、黒い風へ散らされていく。


その時。


鈴の音が鳴った。


しゃん。


しゃん。


戦場の中央へ。


車折千代が歩み出る。


片手に笹の葉。


もう片方には、小さな神楽鈴。


「いよいよ」


紅梅色の髪を揺らし。


千代は笑った。


「わたしの出番だねぇ」


鈴が鳴る。


一歩。


二歩。


黒い石畳の上で。


千代が舞い始めた。


激しい戦場には、あまりにも優雅な舞。


笑うように。


泣くように。


笹の葉が風を撫で。


鈴の音が、散らばっていた祈りへ触れていく。


子の無事を願う母の祈り。


帰らぬ家族を待つ者の祈り。


病床で明日を願う者の祈り。


受験票を握りしめる学生の祈り。


海へ出た者の帰還を願う祈り。


今日一日を。


ただ無事に終えたいという祈り。


大きな願いばかりではない。


名前も残らない。


誰にも知られない。


日々の中で。


一瞬だけ手を合わせた人々の願い。


千代の舞が。


それらを一つずつ拾い上げる。


光の粒が。


天明の円環へ集まり始めた。


その時だった。


遠くから。


蹄の音が聞こえた。


地上ではない。


夜空の上。


雲を蹴り。


星の間を駆ける音。


ぱから。


ぱから。


白い光が。


熊野の空を横切った。


神々しい白馬。


その背に。


薄桃色の長い髪をなびかせた少女が乗っている。


オシラサマ。


「遅くなって」


白馬が戦場の上空で足を止めた。


オシラサマは、申し訳なさそうに笑う。


「ごめんねぇ」


その背後。


夜空を埋め尽くすほどの白い光が広がっていた。


「日本中のみんなの祈り」


「集めてきたよー」


小さな祠。


古い仏壇。


田畑の隅に置かれた石。


山道の地蔵。


名も分からなくなった神。


それでも。


人々が手を合わせ続けた場所。


そこに残されていた祈りを。


オシラサマは一つも捨てずに運んできた。


「お願いってねぇ」


オシラサマは白馬の首を撫でる。


「ほんとに、いろいろあるんだよ」


「元気になりますように、とか」


「ちゃんと帰ってきますように、とか」


「明日は、今日より少しだけ」


「いい日になりますように、とか」


優しく笑う。


「みんな」


「誰かのことを思ってた」


白い祈りが。


雨のように神崎神社跡へ降り注いだ。


千代の舞が、それを受け取る。


十六氏族の光がつながる。


円環が。


巨大な日輪となって輝き始めた。


天明が笑った。


「オシラサマ」


「ありがとうな」


「うん」


オシラサマは頷く。


「ちゃんと、届けてねぇ」


「任せとき」


天明は印を組み替える。


「これで」


「いける!」


日輪が回転する。


地上には五芒星。


天と地。


二つの術式が。


徐福と黒龍を挟み込む。


天明は叫んだ。


「陽は天へ!」


日輪が輝く。


「陰は地へ!」


大地の五芒星から。


黒い鎖が伸び始める。


だが。


次の瞬間。


「うっ……!」


天明の身体が揺れた。


印が崩れかける。


片膝が石畳へ落ちた。


「天明!」


蓮が叫ぶ。


天明は歯を食いしばる。


集まった祈りは、十分だった。


術式も間違っていない。


それでも。


「足りん……」


腕が震える。


「ワシ一人の呪力では……」


日輪が歪む。


地の五芒星が明滅する。


「天と地」


「両方は……支えきれへんのか……」


徐福が笑った。


二千年の余裕を取り戻したように。


ゆっくりと。


大きく。


「晴明よ!」


黒龍がその背後で翼を広げる。


「いくら貴様に才覚があろうとも!」


「その術だけは」


「一人では完成せぬのだ!」


日輪に亀裂が走る。


天明は膝をついたまま。


それでも。


印を解かなかった。


日本中の祈りが。


頭上で揺れていた。

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