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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
最終章 ー呪いと祈りの果てにー
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第三話 百鬼夜行との戦い

轟音。


神崎蓮の身体が、石畳を滑る。


靴底が削れ。


焼け落ちた神崎神社跡に、二本の線を刻んだ。


その正面。


徐福は、漆黒の衣を揺らしながら立っている。


構えはない。


拳を握ることさえしない。


それでも。


蓮には分かっていた。


隙がない。


二千年。


戦い続け。


殺し続け。


奪い続けてきた肉体。


武術という言葉では足りない。


人間の歴史そのものが、徐福の中に積み重なっている。


徐福が踏み込む。


速い。


『右掌底』


『到達まで〇・一八秒』


蓮は半身になる。


鼻先を、黒い掌が通過した。


直後。


肘。


膝。


手刀。


足払い。


中国武術。


古代の体術。


陰陽師の歩法。


武士の間合い。


時代も流派も異なる技が、途切れることなく襲いかかる。


蓮は受けない。


流す。


逸らす。


避ける。


『戦闘動作を観測』


『予測精度七十三パーセント』


低い。


これほど動きを見切れない相手は、初めてだった。


徐福の掌が頬を掠める。


皮膚が裂け。


血が飛んだ。


「どうした」


徐福が笑う。


「マリアの子よ」


「観測するだけでは、ワシには届かぬぞ」


蓮は答えない。


右目の青い光が強くなる。


徐福が再び間合いへ入る。


その瞬間。


蓮は後方へ跳んだ。


腰を捻る。


身体を弓のように反らし。


戻る力を、そのまま蹴りへ変える。


「反動――」


徐福の首へ。


踵が吸い込まれる。


「半月斬!」


直撃。


鈍い音が響いた。


徐福の首が、僅かに傾く。


だが。


倒れない。


「この技は効かぬ」


徐福の目が細くなる。


「懲りない親子だ」


蓮の瞳が揺れた。


次の瞬間。


徐福の掌底が胸へ突き刺さった。


空気が爆ぜる。


蓮の身体が吹き飛び。


崩れた拝殿の柱を突き破った。


 


「晴明ィッ!」


絶叫が戦場を切り裂く。


蘆屋道満が、天明へ真っすぐ駆けていた。


両手には無数の呪符。


その顔には、千年経っても消えぬ憎悪が刻まれている。


「貴様だけは許さん!」


天明は首を傾げた。


「ん?」


「誰か分からんねんけど」


道満の額に青筋が浮かぶ。


「貴様ァ!」


呪符が夜空へ舞う。


黒い蛇。


髑髏。


炎。


形を得た呪詛が、一斉に天明へ襲いかかった。


天明は扇を開く。


「急急如律令」


五芒星の結界が展開。


蛇が砕け。


炎が弾ける。


道満は印を組み替えた。


「貴様の術は、すべて研究済みだ!」


「晴明!」


「今度こそ、貴様を超える!」


天明は口元を緩めた。


「道満はん」


「アンタは昔から、一つ気づいてへんねん」


天明の指が。


見慣れない形を結ぶ。


道満の目が見開かれた。


「何だ、その印は」


「見たことないやろ?」


天明が笑う。


「アンタはいつも」


「ワシに一歩、遅れてんねん」


夜空に赤い光が点る。


一つ。


十。


二十。


数十。


道満が見上げる。


小型の飛行機械が、頭上を取り囲んでいた。


「これが現代の術や」


天明が扇を振り下ろす。


「八幡式・ドローン攻撃!」


数十機のドローンが、一斉に降下する。


道満の結界へ激突。


爆発。


爆炎が夜空を赤く染めた。


「おのれ……晴明……!」


炎の中から声が響く。


天明はスーツの襟を整えた。


「どうせ出てくる思うてな」


「八幡はんと交渉しといて、よかったわ」


 


鋭い風切り音。


一本の矢が、澄華の頬を掠めた。


白い肌に、細い傷が走る。


澄華は走りながら弓を構える。


二射目。


三射目。


青鬼の矢は。


澄華が避ける場所を先に射抜いてくる。


「あれは……」


白銀の瞳が、青い弓を捉える。


「与一の弓」


那須家に伝わるものとは違う。


ただ遠くを射抜く弓ではない。


戦場。


風。


呼吸。


人の迷いすら射抜く、殺しの弓。


青鬼が弦を引く。


「天下無双の弓使いは」


「二人もいらぬ」


澄華は足を止めた。


天之月弓へ、白銀の光が集まる。


「弓とは」


澄華が静かに答える。


「誰かを殺すためだけのものではありません」


二人の矢が。


同時に放たれた。


 


三つの剣閃。


天城煌は草薙剣で二つを弾く。


最後の一突きが、黒いコートの肩を裂いた。


布が宙を舞う。


その背後。


浅葱色の羽織を着た青年が、柔らかく笑っていた。


沖田総司。


「へえ」


「今のを避けるんだ」


煌は草薙剣を構える。


「三段突きか」


沖田は刀を肩へ乗せる。


その目は無邪気だった。


だからこそ。


恐ろしい。


「その剣」


「僕も欲しいなぁ」


煌の瞳が冷たくなる。


「欲しければ」


「奪ってみろ」


沖田の姿が消えた。


次の瞬間。


三段突きと草薙剣が。


真正面から激突した。


 


がしゃどくろの腕が振り下ろされる。


巨大な骨の拳が、境内を粉砕した。


「コン!」


白髪の少女が叫ぶ。


白狐が飛び出した。


「分かっておりますとも!」


「ウカ様の御前で、好き勝手はさせませぬ!」


コンの身体から白い霊力が溢れる。


一匹。


十匹。


百匹。


千匹。


無数の狐の霊が、夜空を駆けた。


白い光の群れが、がしゃどくろの両腕と首へ巻きつく。


骨が軋む。


それでも。


巨体は止まらない。


ウカは震える手を前へ伸ばした。


小さな唇が開く。


「……みんなを」


声は弱い。


けれど。


霊力は、戦場全体を揺らした。


「守る」


数千の狐が一斉に吠えた。


がしゃどくろの巨体が。


僅かに後方へ傾いた。


 


金属音。


村雨響香の二刀が舞う。


右。


左。


上段。


逆袈裟。


雨のような連撃が、赤鬼へ降り注ぐ。


だが。


赤鬼は両剣薙刀一本で、そのすべてを受け流していた。


響香は知っている。


あの男を。


出雲で。


因幡小次郎と互角に斬り結んだ剣士。


黒龍衆筆頭。


赤鬼。


響香の刃が、赤鬼の肩へ届く。


その直前。


両剣薙刀が回転した。


力。


技ではない。


圧倒的な力が。


響香の二刀ごと身体を弾き飛ばす。


「くっ……!」


赤鬼が踏み込む。


両剣薙刀の刃が、響香の首を捉えた。


その時。


雷鳴。


一本の刀が。


両剣薙刀を真横から弾き返した。


因幡剛。


剛は響香の前へ立つ。


雷切を構え。


赤鬼を睨みつけた。


「てめぇか」


「じいちゃんを、背中から斬った奴は」


赤鬼は何も答えない。


剛の隣へ、響香が並ぶ。


「足を引っ張るな」


「そっちこそ」


二人は同時に地面を蹴った。


響香の二刀が左右から迫る。


剛の雷切が正面を貫く。


剣速。


間合い。


呼吸。


言葉を交わさずとも。


二人の動きは、完璧に重なっていた。


赤鬼の両剣薙刀が唸る。


三本の刃が激突。


火花が弾けた。


一撃。


二撃。


三撃。


息をつく暇もない連撃を。


赤鬼は、すべて捌く。


けれど。


初めて。


その足が。


半歩だけ、後ろへ下がった。


 


崩れた拝殿の中。


瓦礫が動く。


神崎蓮が立ち上がった。


口元の血を拭う。


境内では。


十六氏族と百鬼夜行が激突している。


一人として。


余裕のある者はいない。


それでも。


誰も退いていなかった。


『対象・徐福』


『戦闘能力――解析不能』


蓮は徐福を見た。


「解析できないなら」


拳を握る。


「何度でも、観測する」


青い光が。


再び夜を切り裂いた。


百鬼夜行。


二千年の呪いが生み出した軍勢。


その恐ろしさを前にしても。


人は。


まだ。


立っていた。

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