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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
NOESIS覚醒編
5/18

第五話  拳は語らない

 才能には種類がある。


 努力で届く才能。


 生まれ持った才能。


 そして。


 人間という枠組みそのものを踏み越える才能。


 神崎蓮はまだ知らない。


 自分がどちら側へ足を踏み入れてしまったのかを。



 夕暮れ。


 因幡組の倉庫。


 空は赤く染まり、

 鉄骨は黒い影を落としていた。


「テメェ……金城か」


 因幡剛が眉をひそめる。


 シャッターの前。


 金城レオは笑っていた。


 後ろには八人。


 見るからに柄の悪い男たち。


 だが。


 その全員が剛を見ている。


 獲物を見る目で。


「聞いたぜ因幡」


 金城が肩を竦める。


「お前、この小僧に負けたらしいな」


 蓮を見る。


 興味半分。


 侮蔑半分。


「しかも手も足も出なかったとか」


「うるせぇな」


 剛が吐き捨てる。


「テメェに関係ねぇだろ」


「あるさ」


 金城は笑う。


「今のうちに因幡組を潰しておこうと思ってな」



 男たちが動く。


 一斉に。


 躊躇なく。



「はっ」


 剛が前へ出る。


 空手に構えはない。


 必要なのは距離だけだ。


 最初の男が拳を振るう。


 遅い。


 正拳突き。


 鳩尾。


 男が吹き飛ぶ。


 次。


 回し蹴り。


 顎。


 骨が鳴る。


 壁へ激突。


 さらに踏み込み。


 膝。


 脇腹。


 喉元。


 まるで作業だった。


 中学空手日本一。


 全国大会優勝。


 因幡剛。


 人間としては十分すぎる怪物だった。



 だが。


 三人が蓮へ向かう。



 NOESIS起動。



 肩が沈む。


 右足荷重。


 視線固定。


 拳の軌道。


 衝撃予測。


 回避成功率。


 制圧最適解。



(遅い)


 蓮は思う。


 思ってしまう。


 もう。


 人間の動きが遅く見える。


 男の拳を外へ払う。


 体勢が崩れる。


 鳩尾。


 一撃。


 呼吸停止。


 次。


 手首を取る。


 重心誘導。


 地面へ叩き落とす。


 最後の男。


 顎へ掌底。


 脳震盪。


 終了。


 十秒も掛からなかった。



「ほぉ」


 金城が笑う。


「因幡もまだ錆びてないみたいだな」


 革手袋を嵌める。


 そして。


 消えた。



 速い。



 剛の死角。


 左ジャブ。


 顎。


 衝撃。


 剛が揺れる。


 その瞬間。


 連打。


 ストレート。


 フック。


 アッパー。


 無駄がない。


 まるで教科書だった。


 世界レベル。


 元オリンピック候補生。


 その肩書きに偽りはない。



「ちっ……!」


 剛が踏み込む。


 正拳突き。


 金城が消える。


 スウェイ。


 紙一重。


 空振り。


 さらに。


 左クロス。



 カウンター。



 剛の膝が沈む。


 床へ片膝をつく。



「相変わらず……」


 剛が笑う。


「ちょこまかうっとおしい野郎だ」



 蓮は見ていた。


 最初から。


 全部。



(解析完了)



 典型的アウトボクサー。


 フットワーク重視。


 カウンター主体。


 技術は一流。


 だが。


 決定打がない。


 剛を倒し切れていない。


 その理由も見えている。



「剛」


 蓮が言う。


「もう解析は終わった」



 金城が振り向く。



「……生意気だな」


 笑う。


 だが目は笑っていない。


「その小僧にも教育が必要みたいだ」


 構える。


 美しいフォームだった。


「三発で寝かせてやる」



 ジャブ。



 世界レベル。


 フリッカージャブ。


 蛇のように伸びる。



 蓮は払った。



 ワンツー。


 回避。


 半歩後ろ。



 金城が下がる。


 距離調整。


 リングなら正解。


 だが。


 相手はNOESISだった。



「来い」


 金城が指を動かす。



 蓮が踏み込む。


 右ストレート。



 金城の左クロス。


 カウンター。



 その未来を。


 蓮は既に見ていた。



 右目が青く光る。



 掌底。


 肘関節。


 衝撃。


 脱力。


 破壊。



「なっ――」



 次。


 左脚。


 カーフキック。



 膝が折れる。



 次。


 回し蹴り。



 延髄。



 衝撃。



 終了。



 五秒。



 金城レオが倒れていた。



 静寂。



「う、嘘だろ……」


「金城さんが……」


「たった三発で……」



 誰も動けない。



 蓮は倒れた金城を見る。


 強かった。


 技術もあった。


 才能もあった。


 だが。



「中身が空っぽだ」



 その一言だけだった。



 男たちは金城を抱え、

 逃げるように去っていく。



「おい蓮!」


 剛が叫ぶ。


「テメェほんと何なんだよ!」


 立ち上がりながら笑う。


「あの野郎はクソみてぇな性格だったが、本物だったんだぞ!」



 蓮は答える。



「そうか」


 少し考えて。


「でも、あいつの拳は死んでた」



 剛は数秒黙る。


 それから。


 豪快に笑った。



「はっ!」


「やっぱテメェおかしいわ!」



 夜。


 街に噂が流れる。


 金城レオが負けた。


 高校生に。


 たった五秒で。


 誰も信じない。


 だが。


 因幡組の連中だけは知っていた。


 あれは喧嘩じゃない。


 観測だった。

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