第四話 観測者
放課後。
因幡組の倉庫。
神崎蓮は椅子に座りながら、
因幡剛のサンドバッグ打ちを眺めていた。
ドン。
ドン。
ドン。
拳が沈む。
鉄骨が軋む。
普通ならあり得ない。
人間の拳で出る音じゃなかった。
「相変わらず馬鹿みたいな威力だな」
蓮が言う。
剛は鼻で笑う。
「うるせぇ」
ドン。
さらに一発。
サンドバッグが大きく揺れる。
「中学空手日本一なんだろ」
「昔の話だ」
「全国?」
「ああ」
「へぇ」
蓮は特に驚かなかった。
今のNOESISから見れば、
それすらただの情報だった。
剛はそんな蓮を見て舌打ちする。
「お前マジで可愛げねぇな」
⸻
その時。
倉庫のシャッターが勢いよく開いた。
ガラガラガラ―――
空気が変わる。
数人の男。
ブランド物のジャケット。
高そうな時計。
だが目だけが濁っている。
剛の顔色が変わった。
「……テメェ」
先頭に立つ男を見て吐き捨てる。
「金城じゃねぇか」
男が笑う。
整った顔だった。
だが笑顔に温度がない。
「久しぶりだな因幡」
「はっ」
剛が鼻で笑う。
「元ボクシングオリンピック候補生がよ」
倉庫の空気が少し張り詰める。
「メダル確実」
「将来の世界王者」
「日本ボクシング界の希望」
剛は指を折りながら数えた。
そして吐き捨てる。
「そいつが今じゃ八咫烏の下っ端みてぇな真似してんのか?」
金城レオの笑顔が少しだけ消える。
「口が悪いな」
「事実だろ」
剛は肩を竦めた。
「才能も実力も本物だった」
「だが人格はゴミだった」
「だから全部失った」
沈黙。
金城は怒らない。
ただ静かに笑う。
その笑顔が妙に気持ち悪かった。
神崎蓮は初めて金城を見る。
NOESISが反応する。
⸻
金城レオ
年齢:17
元ボクシング日本代表候補
全国ジュニア王者
危険度:高
人格傾向:
支配欲
加虐性
反社会性
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(……嫌な目だ)
蓮は思った。
強い弱いじゃない。
この男は。
人間を人間として見ていない。
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