第四話 因幡家
第三章 第四話 因幡家
因幡組の道場。
木刀の音も止み、静かな夕暮れが道場を包んでいた。
因幡剛は腕を組み、父・豪へ問いかける。
「親父……全部聞いたぜ。」
「蓮の母ちゃんと父ちゃん、それに……うちのじいちゃんのことも。」
少し間を置き、苦笑する。
「強ぇとは聞いてたけどよ。出雲にいたなんて知らなかった。」
豪は静かに目を閉じた。
「父さんはな……」
「出雲王朝近衛兵団、歴代最強の武人だった。」
「日本中を探しても、父さん以上の武人はいなかっただろう。」
「武芸十八般、あらゆる武術を極め、とりわけ剣術と柔術は別格だった。」
「ワシへ近衛団長を譲って隠居してからも、その強さは少しも衰えなかった。」
剛は思わず息を飲む。
「そんなにか……。」
そして思い出したように言う。
「そういや安倍天明っていう怪しい陰陽師がよ。」
「俺が”雷切”を巡って村雨響香と戦うことになるって占ってたぜ。」
豪はゆっくり立ち上がり、道場の奥に飾られた古い掛け軸へ目を向けた。
「雷切……。」
「父さんの愛刀だ。」
「元は戦国武将・立花道雪が雷を斬ったと伝わる名刀。」
「だが父さんは、その伝説すら超えた。」
「雷を自らへ落とし、その衝撃を瞬発力へ変える。」
「雷鳴と同時に抜刀し、稲妻より速く相手を斬る。」
「──それが、因幡流居合奥義『雷切』。」
剛は思わず目を見開く。
「そんな技……。」
豪は苦笑した。
「ワシには最後まで体得できなかった。」
「父さんにしか扱えない、人外の剣だった。」
「決戦のあと、雷切も行方知れずだ。」
静寂が流れる。
剛は天井を見上げながら呟く。
「親父にも無理だったのか……。」
「とんでもねぇな、じいちゃん。」
少し考え込み、顔を上げる。
「でもよ。」
「なんで村雨の奴がおれに因縁を持つんだ?」
豪は腕を組む。
「村雨家は刀鍛冶として日本を支えてきた一族だ。」
「その裏では忍びとして暗殺も請け負ってきた。」
「最強の剣士が振るった刀。」
「それを手に入れることは、村雨一族の悲願なのかもしれん。」
剛は笑う。
「そんなに強かったのか?」
「親父よりも?」
「ああ。」
豪は即答した。
「じゃあ蓮なら?」
豪は静かに首を振る。
「あいつでも勝てん。」
「父さんは、緋沙良殿を相手にしても一本たりとも取らせなかった。」
その言葉に、剛は黙り込む。
その時だった。
――ブォォォォン……
道場の外へ重低音が響く。
大型バイクが砂煙を上げながら門前で止まる。
剛が振り返る。
「……誰だ?」
豪もゆっくりと道場の入口へ視線を向けた。
月を背に一人の青髪の女がバイクから降りる。
次の瞬間、道場の空気が張り詰めた。




