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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
第三章ー八王子怨霊編ー
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第二話 陰陽師

山奥の古びた家。


静まり返った部屋に、一人の青年が立っていた。


狐のように細められた目。


どこか人を食ったような笑み。


けれど、その立ち姿には隙がない。


青年は部屋へ上がると、四人を見渡して軽く手を振った。


「改めまして。」


「ワシは天城ちゃんとは昔からの付き合いでなぁ。」


「陰陽師やっとる、安倍天明いうもんや。」


京都訛りの柔らかな声。


「よろしゅうな。」


照れくさそうに後ろ髪を掻きながら笑う。


「まぁ、言うてもワシのご先祖さんが、あの偉大な安倍晴明様っちゅうだけや。」


「ワシはまだまだ修行中やけどな。」


因幡剛が小さく呟く。


「いや十分すげぇだろ……。」


天明は笑って受け流した。


「ほな。」


「そろそろ本題に入りましょか。」


そう言って古びた机へ、一枚の地図を広げる。


日本列島。


そしてその端へ、小さく印された文字。


『徐福渡来』


天明はその一点を指差した。


「徐福っちゅう男を知っとるか?」


蓮は迷わず答える。


「秦の始皇帝に仕えた方士。」


「不老不死の仙薬を探し、日本へ渡った人物です。」


「……せや。」


天明は静かに頷いた。


「始皇帝は不老不死を望んどった。」


「徐福はその命令を受けて海を渡り、日本へ辿り着く。」


一拍。


部屋が静まり返る。


「そこで奴は見つけてもた。」


「仙薬やない。」


「もっと厄介なもんを。」


蓮が静かに口を開く。


「……黒龍。」


天明は笑みを消した。


「せや。」


「黒龍。」


その二文字だけで、空気が重くなる。


「黒龍っちゅうんは、人間の心から生まれた災厄や。」


「恨み。」


「悲しみ。」


「嫉妬。」


「執着。」


「恐怖。」


「絶望。」


「積み重なった負の感情が、一つの意思を持ってしまった存在。」


静かな声が部屋へ染み込んでいく。


「徐福は、その力を取り込んだ。」


「せやから奴は二千年以上、生き続けとる。」


剛が思わず息を呑む。


「二千年……。」


「それだけやあらへん。」


天明は懐から四枚の札を取り出した。


一枚。


机へ置く。


平将門。


二枚目。


菅原道真。


三枚目。


崇徳天皇。


そして最後。


村雨響香。


四枚の札が並ぶ。


「歴史に名を残した怨霊達。」


「せやけどな。」


「最初から悪人やった人間なんか、一人もおらへん。」


静かな声。


「みんな日本のために。」


「誰かのために。」


「命懸けで生きた人達や。」


部屋の空気が張り詰める。


「せやけど。」


「人の心には、誰でも隙ができる。」


「怒り。」


「悲しみ。」


「後悔。」


「そこへ黒龍が入り込む。」


蓮はゆっくりと言葉を繋ぐ。


「黒龍は……人を操るんじゃない。」


天明が頷く。


「その通りや。」


「人の心にある負の感情を、何百倍、何千倍にも膨れ上がらせる。」


「気付いた時には、自分が自分やなくなっとる。」


蓮は四枚の札を見つめる。


「だから……。」


「平将門も。」


「天神様も。」


「崇徳天皇も。」


「……。」


天明は苦しそうに微笑んだ。


「八王子で暴れとるんは、あの人ら本人やない。」


「黒龍に呑まれた姿や。」


そして最後の札へ視線を落とす。


「村雨響香だけは違う。」


「まだ生きとる。」


「せやけど。」


「刀への執着が強すぎた。」


「その隙間へ黒龍が入り込んでもうた。」


「八咫烏最強の双剣使いや。」


誰も言葉を発しない。


重い沈黙だけが流れる。


天明は札を一枚ずつ動かした。


「占いにも出とる。」


平将門の札。


「天城煌。」


菅原道真。


「神崎蓮。」


崇徳天皇。


「月乃瀬澄華。」


最後。


村雨響香。


「因幡剛。」


部屋の空気が止まる。


天明は剛を見つめた。


そして、いつもの調子で笑う。


「因幡ちゃん。」


「……君、大丈夫かいな?」


「やかましいわ!!」


剛は勢いよく立ち上がった。


「なんで俺だけ相手が生きた人間なんだよ!」


「しかも双剣使いだぞ!?」


「美人らしいし!」


「そこなんかい。」


天明が即座に突っ込む。


煌は腕を組んだまま真顔だった。


「気にするところが違う。」


澄華は思わず口元を押さえる。


「ふふっ……。」


張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。


だが。


机の上に並ぶ四枚の札だけは。


静かに、この先に待つ運命を告げ続けていた。

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