第十四話 神速
出雲王が倒れた。
その瞬間だった。
「王よ!!」
因幡小次郎の怒号が戦場を裂く。
老人とは思えぬ踏み込み。
雷鳴にも似た一閃が赤鬼の首を狙う。
――しかし。
甲高い金属音が響いた。
赤鬼は微動だにせず、その斬撃を受け止めていた。
静寂。
互いの視線だけが交差する。
「……ほう。」
小次郎の目が細くなる。
久しく忘れていた感覚だった。
剣を交える価値のある相手。
次の瞬間。
二人の姿が消えた。
轟音だけが遅れて響く。
刃と刃が交差するたび、大地は裂け、火花が夜空へ舞い上がる。
出雲最強の剣豪。
徐福直属、黒龍衆筆頭。
剣を極めた者同士の戦いが始まった。
⸻
その様子を徐福は静かに眺めていた。
「……あの老人さえ消えれば、この国の戦力は半減以下。」
口元がゆっくりと歪む。
「八尺瓊勾玉はいただこう。」
徐福は視線だけを動かした。
「青鬼よ。
神崎マリアを殺せ。」
命令は、それだけだった。
⸻
青鬼は音もなく姿を消した。
次の瞬間。
放たれた矢が一人の兵士の胸を貫く。
さらに一射。
また一人。
距離を取り、
放つ。
離れる。
放つ。
離れる。
まるで狩りを楽しむ狼のように、護衛は一人ずつ確実に削られていく。
「マリア様を守れ!」
悲鳴が飛ぶ。
しかし追いつけない。
⸻
「大丈夫か!」
緋沙良が前へ出た。
「俺が守る!」
笑って拳を握る。
「あの青いのをぶっ飛ばせば終わりだろ!」
そのまま一直線に駆け出した。
だが。
青鬼は決して距離を詰めさせない。
矢を放つ。
近づけば短刀。
再び離れる。
矢。
短刀。
矢。
短刀。
その動きに一切の無駄がない。
「くっ……!」
緋沙良は歯を食いしばる。
(近づけねぇ……。)
(この野郎……
相当できる。)
さらに青鬼は大きく距離を取る。
森の奥へ。
影の向こうへ。
「逃がすか!」
緋沙良の右目が青く輝いた。
「神有月――発動。」
世界が止まる。
神々の力が身体へ流れ込む。
「韋駄天!」
その名を口にした瞬間。
脚へ黄金の霊光が走る。
「装填。」
爆発するような加速。
空気が裂けた。
今、この瞬間だけ。
世界最速は、緋沙良だった。
数百メートル離れていた青鬼との距離が、一瞬で消える。
青鬼が初めて目を見開いた。
「捕まえた。」
緋沙良の拳が沈む。
八極拳。
――山嵐。
大地が爆ぜた。
青鬼の身体は地面へ叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
「よし!」
緋沙良は息をつき、振り返った。
その瞬間だった。
背筋が凍る。
「――な。」
いつの間に。
どうやって。
誰一人、気配に気づけなかった。
徐福は。
もう。
神崎マリアの真正面に立っていた。




